第37話 目標

 世界樹の根の近くには、まだ何人かテントを張ってそこで寝ている人がいた。災害後、世界樹の根自体はそう珍しいものではないし、道のあっちこっちに生えていたりする。でも、そこから化け物が生まれるということはまだ世間一般には広まっていない。最近の調査によって、世界樹の根から分泌される粘液の濃度や量を調べることでゼノが現れる確率が大まかではあるが分かっている。


「すみません、世界樹の根の駆除をおこないますので、ここから離れていただいても宜しいでしょうか」

「なんだアンタ、別に俺がどこにいようがいいだろ! 別に害はないんだろ!」

この人の様に世界樹の根が無害だと思っている人がほとんど


 でも普通こんなのが現れたら気味が悪くて離れると思うんだけど……


「ですがあの、作業があるので……」

「なんだよ、ここを離れて何処に行けってんだよ」

「それは……」

言葉が出てこなかった。


世界樹対策課で暮らしている私には言う権利がないと思ったから……

この人も仕事を失って避難生活で疲れているのに、私はぬくぬくと温かいベットで寝ている……


「はい! おじさんどいてね~」

「な、なんだこのガスマスクの姉ちゃん! おいやめろ」


困っていた私をユミさんは助けてくれた。

また足手まといになっている……


「あまり深く考えないことよ、ほら早く終わらせましょう!」


 私もこの人みたいになれたら……


 避難民の方々を説得させ、この場から離れてもらうのに、かなり時間がかかってしまった。時計を見たら丁度映画を一本見れるぐらいには経っていた。でも、精神的には6時間位経っていてもおかしくないのだけど……


 「さて、周りに人もいなくなったし始めますか!」

ユミさんは背中から火を出した。自身の能力でこの世界樹の根を処理する気だ。

「だ、大丈夫ですか!? 背中から火が!」

「安心してください、彼女は世界樹の影響で特殊な能力を得た者です。この力を使い、我々世界樹対策課はこの厄災に対抗しているのです」

カンダさんが慌てているジンエイさんを落ち着かせ、私たち能力者のについて上手いこと説明した。

「の、能力者ですか……あなたも?」

「いえ、私は非能力者です。能力を持っているのはこの2人です」

カンダさんが横を向き私の方に目をやった。この子も能力者なんですよって感じで

「ユズキさんも能力者なんですか!?」

「は、はい……」


 気味悪がられたかな……

 普通に考えたら気味悪いもんね……


「よし! 切ったわ!」


私たちが話している間に、ミナさんは世界樹の根を一刀両断していた。

しばらくすると、根は燃え始め灰となって消え去った……



 目的の世界樹の根の駆除を終えて私たちは帰る支度をしていた。

特にゼノの目撃情報もないので、危険はないと判断したからだ。


「しかし、今回のサンプルはこれだけなのですか? 結構デカかったですよね?」

「ごめんね~私の灰の能力、形を形成するのは慣れてきたんだけど……、対象を燃やしちゃうからね。まだそのコントロール上手くできなくて……」


カンダさんがユミさんに怒っている。どうやらサンプルを多く回収しないと、サイトウさんに説教されるらしい……


 まさか帰ったら長時間説教タイムがあるわけ……

 ないよね……


「ミナ~ どうしよう帰ったらサイトウさんに怒られる~」


 あ、ダメらしい……


私は大きくため息をついた。帰ったら怒られるからじゃない、何もできない自分が情けなくてついてしまった。ユミさんは立派に任務達成、サンプルはかなり燃やしちゃったけど……カンダさんはサンプル回収はもちろん、色んな事をやっている。その二人と比べると自分が惨めになっていく


 少しだけ回収出来たサンプルを持って、私たちは区画長のジンエイさんに今回の件をお伝えして、ここの区画を後にした。

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