第36話 親子
「ご、ご、五目飯!」
「そこまでにしましょう。ここからは真剣に仕事モードに入りましょう」
カンダさんがしりとりを強制終了させた。
「さて、ここの区画長にお話を聞きましょう」
「そうね、もしかしたらゼノの目撃があるのかもしれないし」
先輩方二人は、堂々と区画内を歩き区画長のいる場所に向かう。後輩の私はその2歩後ろを自信なさげに歩く。
いまだに自分自身の能力を制御できない私なんか……
自信がなかったから……足を引っ張るんじゃないかと……
でも、トガ君も頑張っているんだ。私も頑張らないと!
区画の中を進んでいると、一回り大きなテントが建っていた。中には自衛隊の方が二人と、顎髭の中年男性が立っていた。顎髭の男性はちょっと強面の方で、見るからにこの世界で頼りになりそうな人だった。自衛隊の方二人も、自分とあまり年齢が変わらないのにしっかりしてそう……
「はじめまして、私はここの区画長のジンエイです。まさか、こんな美人さん三人が来られるとは、おじさん嬉しいですわ……」
「区画長、そういう言葉は……」
「すみません変態おやじで、私はジンエイマコト。もう一人の自衛隊員はトオガタです。」
若い男は区画長のセクハラ発言のフォローをしながら、自分たちの自己紹介をした。
「おいおい、マコト。父さんそんなつもりで言ったつもりじゃないぞ!」
どうやらこの2人は親子らしい。よく見てみると顔が似ている。
「いや、さっきの発言母さんが聞いていたらどうなっていたことか!」
二人の親子喧嘩が止まらない……
「あの、急いでいるんですが……」
少し引いた様子で、カンダさんが今回の仕事内容について聞きに入った。
私たちはここの区画に現れた世界樹の根のこと、最近この辺りで何か問題が起こったか、色々と聞き出した。
「ここ最近ですと、その世界樹の根が生えたことぐらいですかねぇ」
「わかりました。ありがとうございます」
「よし、じゃあマコトこの人たちを案内しなさい」
「はい! じゃない! なんで父さんが決めてんだよ」
「いいだろ暇なんだろ」
「いや、やりますよ。でもなんであんたが決めてんのって話!」
「おい、親に向かってあんたはないだろ。なんだよせっかくお前に女性との関わり持たせてやろうと思ったのに……」
「下心丸出しじゃないか! ありがとうございます」
「すみません早くしてくれますか?」
カンダさんの言葉には怒りが混じっていた。
大きめのテントを離れ、私たち4人は問題の場所へと向かっていた。
「お父さんと仲がいいんですね!」
私はジンエイさんにしゃべりかけた。さっきまでの親子のやり取りを見ているととても仲が良さそうに見えたから、喧嘩するほど仲がいいっていうし。二人のやり取りを見ていたらわかるこの人はいい人だと。
「いえいえ、仲良くないですよ! 子離れできないエロ親父です」
すごく照れながら否定してきた。まるで高校生の様に
「でもいいじゃないですか! このめちゃくちゃな世界ですぐそばに信頼できる親がいるなんて! あ、決して嫌味じゃなくて」
「あはは、ユズキさんは明るいですね。まるで太陽のようだ」
「えへへ、ありがとうございます。 私も近くに信頼できる仲間がいますので! 親子の絆ぐらい温かいので!」
避難されている方たちのテントが沢山ある中、それは不気味な存在を放っていた。ここまで大きな世界樹の根は初めて見たかもしれない……
「これね……もう根というより立派な木ね」
ユミさんはそう言いながら、この不気味なモノに近寄った。
「どうですかハイノメさん、対処出来そうですか?」
少し離れた場所で、カンダさんがユミさんに問いかけた。彼女の言葉には少し恐怖の感情が入っているように感じる。
「ぬめぬめしている……ローションみたい」
「ろ、ローションですか。なんかエロいですね」
ジンエイさんはユミさんにべっとりとついている粘液を見ながらそうつぶやいた。
「ちょっと、ジンエイさん!」
「す、すみません。じょ、冗談ですよ」
やっぱり親子って似るんだなぁ~
「もしかしたら、近いうちにこの根からゼノが出てくるかも」
カンダさんの口から嫌な言葉が出てきた。
「ゼノって最近目撃情報が出ている化け物のことですか?」
「はい、世界樹の根から現れることがあるのです」
「しかもこんなにでかいとなると、やっばいやつが現れるかも……前にミナとショウ、私たち三人が見たでっかいドラゴンのような奴がね」
「そ、そんな化け物が現れるのですか! それなら早くミサイルでも撃って取り除かないと!」
「大丈夫! そのために私たちが来たのですから!」
自信満々にユミさんは言うが、ジンエイさんはポカーンとした表情で固まってしまった。だって普通に考えたら女性三人が、化け物を何とかすると言っているのだから、頭がおかしいと思われても仕方がない……
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