第4章 殺人事件
第25話 研究施設
普段なら朝の通勤ラッシュがスタートして忙しい時間帯、もうかなり昔の事のように思えてくる……。それだけ この状況に慣れてきたのだろう……
「ねえねえ、トガ君トガ君! ちょっといいかなぁ!」
この朝っぱらからうるさい人は、アオバサユリ 日本支部能力者研究の第一人者なのだが……
「君! たしか再生能力以外、特に何も持ってないはずよね! どうやってサメのゼノを倒したの? 教えて! 教えて! お願い~~!」
しんどい……
カラスマ君はこんな人と仕事していると思うと、涙が出ますよ。
「た、化け物の体内から、食い破って倒しました……」
「く、食い破った? あの分厚い肉を?」
「ええ、気付いたら倒していたんです。僕自身、あまり覚えてないんです。多分、無我夢中で攻撃してたんだと思います。」
「なるほど、なるほど、火事場の馬鹿力ってやつかしら? 益々、興味が湧いてきたわ! もしかしたら、あなたの能力再生能力だけじゃないのかもしれない! ねぇ、この後時間ない?」
「今、職場に向かっているんですが……」
グイグイくる彼女のお誘いを一刀両断して、ぼくは仕事部屋へ向かった。
大人しくしていれば、美人な人なのに。
まさか女性から誘われるとは……
ぼくは少し興奮してた自分に敗北感を感じた。
調査課戦闘係と書かれた部屋の前に立ち、心を一度落ち着かせる……
まだここに来て数日しか経っていないからだ。しかも、仕事内容は危険な化け物退治
先日は初任務なのに、ゼノに食われれるし……
できれば今日は平和に過ごしたい
そう願い 僕は扉をゆっくりと開ける。
「あ! 遅かったじゃない!」
「おはようございます。ショウさん お身体の方は大丈夫ですか?」
「ちょっと、ミナ! こいつの能力は不死身よ。心配いらないでしょ。」
部屋に入ると、いつもの2人がいた。
彼女たちは昨日の事件に関する書類作りなどをしているようだ。でも机に置いてあるものを見るに、それほど仕事はないようだった。
「いや~ さっきまでアオバさんに絡まれててね」
アオバサユリとの出来事を伝えると、ハイノメは それは災難だったわね と、言いたげな顔をしながら憐みの表情を浮かべた。
「それはそうと、トガ君! きみに仕事だ。どうやら災難は続くようだぞ! 研究室に行ってくれるか。」
フィギュアに囲まれた男、キラヨシツグはこのタイミングを待ってましたと、言わんばかりにニヤニヤしながら、ぼくに仕事内容を伝えてきた。
「ええ、僕一人なんですか? 昨日の事件のレポートとかは……」
「書類とかは二人いるし、大丈夫だよ。……まあ、事件に直接関わった君がやった方がいいのはわかるんだけど。むこうの指名でね! 指名したのはアオバサユリ よかったじゃないか。モテモテだね!」
バキッ
ボールペンのぶち壊れる音が、この狭い室内を沈めた。
どうやら、ミナさんの力は日に日に増している様だ。
「ま、まあ ハメは外さないようにね」
「は、はい では行ってきます。」
僕は逃げるようにこの部屋から出た。
世界樹対策課の研究施設は、僕たち戦闘係の部屋と違いとても大きい。映画に出てくるような正義の組織のラボみたいな作りで白をベースにしている。ガラスの壁で区切られているので、簡単に部屋の中がわかる。何をやっているのかすぐにばれるので、どっかのマッドサイエンティストが、非人道的な実験をしていても、すぐに止めることができそうだ。
特にあそこで、ウッキウッキで魚のゼノを解剖している
猫背気味で体調が悪そうな中年男性は要注意だな
研究所内を探索していると、ひとつの部屋にたどり着いた。能力者研究チームと書かれた部屋だ。ぼくはノックをして部屋へ恐る恐る入った。
「し、失礼しま~す」
「あら~、よく来たわね。まあ、わたしが呼んだんだから当たり前か。ようこそ! ゆっくりしていってね とは言わないわ! さあ、あなたの身体の隅から隅まで、徹底的に調べまくるわよ~」
ああ、やっぱりこうなのか
ぼくは彼女に言われるがまま、部屋を出て研究室に連れていかれた。
拒否権はなかった。
世界樹対策課の人たちは人の話を聞かない人多くないか? ハイノメといい、この人といい……
「さあ、実験開始よ!」
「え? 実験?」
「あ、間違えたわ。検査よ身体検査」
この女は、大丈夫なのか……不安が僕の身体を包み込む。近くにいる研究員も何とか押し殺そうとしているようだが、僕にはわかる! こいつら全員楽しんでやがる!
心の底から、ワクワクがあふれているもん。
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