第24話 家族0

 避難区画のシャワーを浴び、新しい服に着替えた。今回の任務は長くなるかもしれないからと、ハイノメが言っていたので、着替えは多めに持ってきておいたのだ。僕の判断は正解だった。


 「あの子は?」

「いえ、まだ目が覚めてないです。可哀そうに……お姉さんを亡くしてしまったんですから。」


対策課の研究員達が、魚型のゼノの死骸を回収している。少年のお姉さんの身体は、上半身から下の部分は、化け物に取り込まれていたため、亡骸は、胸腹部から上のところまでしか取り戻すことが出来なかった。


 「さて、帰るわよ」

ハイノメが僕たち二人に、うじうじしないでさっさと動きなさいと言ってきた。

「あの子、大丈夫でしょうか?」

ミナさんは、あの少年のことが気になるらしい……僕もそうだ。彼の心に負った傷は計り知れない……。聞いた話だと、彼は両親を災害によって亡くしていた。


 だから、あの女性が彼にとっての……


祖父祖母がいるならまだ救いがあるのかもしれない、彼には強く生きていてもらいたい。




 「んほおおおお、たまりませんなぁ!」

この変態は、サイトウナオキ 世界樹対策課の研究員だ。僕たち三人は、任務達成ということで、後のことはこの男に任せて帰還の支度をしていた。

「素晴らしい! 水中に適応したゼノは初めて見ました。できることなら、動いている姿も拝みたかった……」

「はあ、そうですか」

変態の隣でため息をついている人物は、カラスマエイジ ぼくの部屋の隣人だ。

彼もまた、この男の狂気じみた化け物愛に、飽き飽きしているらしい……

「サイトウさん、ここで興奮してもあれなので、対策課の方に持って帰ってから色々と調べましょう。ほら! 遠くで見守っている自衛隊の方々がドン引きしてますよ!」

「む、確かに君の言う通りだね。よし! 君たち、丁重に運ぼう! さ~て今夜は徹夜だな!」

こんなに嬉しそうに徹夜宣言する人初めて見たと、カラスマエイジは思った。


 回収班は、丁寧に現場付近のゼノの死骸を回収した。まるで事件なんてなかったかのようだ。

「できたら、取り込まれていた女性の遺体も貰いたかったんだけど……」

ポロっと、サイトウナオキが口をこぼした。

「サイトウさん! 駄目ですよ!」

「じょ、冗談ですよ。」

とても冗談には聞こえなかった。

「しかし、トガ君はよくこの子に勝てたな」

「こ、この子? ……化け物の事ですね 確かに、あの人攻撃面に関しては何もできないと聞いてましたのに……」

「化け物と言わない! ゼノ と呼びなさい!」

「……」



 「でさぁ、上司が変人すぎて疲れるってーの」

「ああ、サイトウさん ゼノ関係のことになると、めんどくさくなるからね。」

僕は仕事が終わった後、カラスマ君と二人で、上司の愚痴を酒のつまみにしながら飲んでいた。お互い同い年で、上司が変人ばかりで苦労しているからかすぐに仲良くなった。

 

 まあ、サイトウさん達と一緒にいるのはかなり大変だろう……


 カラスマ君は、世界樹対策課日本支部の研究員である為、毎日アオバサユリやサイトウナオキの様な変人たちと仕事している。そんなところに居たら、精神的におかしくなりそうだ。


「そういえば、サイトウさんがトガ君のこと褒めてたよ。今回、綺麗に回収することができたから。ほら、ハイノメさんだと対象燃やしちゃったりするから……」

「あはは 確かに! 初めて会った時、それで怒ってたわ!」

「でも気を付けてね。明日、もしかしたらサイトウさんからめんどくさい絡みがあるかも?」

「うげ、それは勘弁」

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