第16話 灰色の槍

 「おやつタイムを所望します!」

ミナさんがおやつタイムを望んだ。ハイノメ隊長はその要望を却下した。落ち込む彼女を見ながら、ぼくはミナさんがこんなキャラだったんだと驚いた。いや、これが彼女の本当の姿なんだろう。


 目的地まであと、もう少しのところで問題が起きた。

「あれは熊ね……」

ぼくたちが進む道に、大きな熊が車の中を物色しているようだ。

「どうしてこんなところに熊が?」

「さあ、災害のあと山から下りてきたんでしょう。」

ぼくらが非日常的な会話をしている最中、電池が切れたおもちゃの様に、急にぴたりと、熊の動きが止まった。まるで急に眠ったみたいだ。

「どうしちゃったんでしょう 急に動かなくなりましたよ。」

「……少し様子を見てくる。」

ぼくはそう言って熊に近づき始める。

「危ないですよ! 遠回りしていきましょう。」

「大丈夫だよ それに僕なら何かあっても傷ぐらいすぐ治る。な! ハイノメ」

「えぇ! 何かあっても後処理はまかせなさい。さあ、行くのよ鉄砲玉!」

「その呼び名やめろ!」

僕はそう言って、熊の近くに来た。今回は自分から行ったが、最近こういった役が多い気がする……

 

 まあ、ミナさんたちがケガを負わなければ……いいか。


熊を恐る恐る見てみると、動かなくなった原因が分かった。


 血だ……


 車の中が血だらけになっている……

ドアウィンドウから侵入した熊は、何者かに首を切断されたのだろう胴体から頭がなくなっている。それにしてもこの血の量……


「熊だけじゃなくほかにも餌食になったやつがいるんじゃないか?」


車の後頭部座席も血でべっとりとしている。


 何かがいる


だが、この狭い車の中を見渡してもなにもない。熊の頭を切断することができるのは、あいつら化け物、 ゼノ しかいない。いくら死なないとはいえ気を付けないと……


そう思いながら、ぼくはちょっと気が引けるが車の中に入ろうとした瞬間だった。車から化け物が現れた! そいつは座席シートから現れ、食べ残しの熊を食べ始めたのだ。植物の枝のようなものを出し、吸収するように熊を溶かしながら食べている。まるで、食虫植物のモウセンゴケみたいに


「探しても見つからないわけだ。化け物は車内に寄生していて、身をかくしていたのか!」

「どうだったショウ? 後処理必要?」

後から来たハイノメに状況を説明した。すると彼女は

「そういうことならまかせなさい。」

凄く自信満々にそう言うと、彼女は背中から煙を出し、けむりを槍の形に変えていく

「はなれていて! 灰色の槍グレースピア

技名を叫んだ彼女は勢いよく槍を投げつけた。対象を貫いた攻撃は、ガソリンに引火したのか、爆発し四方八方に車とゼノの残骸が飛び散っていった。

「わたしにかかればこんなもんよ!」


 ごり押しかよ……


 

 車のゼノを倒した僕たちは、対策課本部を目指し歩んでいた。

「あの化け物、爆散させてよかったのか? 破片からまた復活とかしないよな……」

ぼくは不安で仕方がない。映画とかだと破片から再生したりするのが定番だ。

「消し炭になったし、大丈夫でしょ! そんなパニックホラー映画みたいなこと、怒らないはず……」

「ふ、不安にならないでくださいよ! ユミさん!」

「ちょっと! 私の仕事に不満があるわけ?」

不安でいっぱいな二人を置き去りにして、ハイノメは歩みを止めない。


 日没までまだ少し早い時間帯、僕たちの前に大きな建物が現れた。

「さあ、ここが私たちの拠点! あなたたちの新たな新天地! 世界樹対策課日本支部よ!」

ハイノメが自信満々に紹介した建物は、この災害の最中、珍しくきれいに保ってあり、大きな建物だった。

「すごい大きな建物ですね 災害前に建てられたんですか?」

ミナさんも興味津々だ。そして僕もそのことが気になっていた。


 この建物は震災後、すぐに建てれるようなものじゃない。


ということは震災前、さらに被災地からあまり影響がなく、尚且つ遠すぎない、絶妙な距離にある場所……頭の中で嫌な考察がめぐる。


 対策課は災害が起こることを知っていたんじゃないのか?


「えぇ、ここは災害前に建てられたものよ。話は中に入ってからしましょう。」

ハイノメは、ミナさんの疑問に答え、僕たちを中へと案内し始めた。

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