第17話 研究者

 対策課の中は、きれいな今時のオフィスビルの様な作りになっていて、周りの人はその空間に失礼のないよう、スーツをしっかりと着こなしていた。

知らない人がみたら ここが世界樹対策課なんて思わないだろう……。そんなところに、外から来た小汚いぼくたちは目立っていた。


「すごくおしゃれですね。わたしこんな会社にあこがれていたので!」

「でしょでしょ、まあ出来たばかりだし。 きれいなのは当たり前なんだけどね。」


 この二人の反応を見るに女性受けは良いらしい……


 対策課とか言っているから、もっとがっちりした雰囲気の場所と思っていたので、ちょっと安心した半面、側だけセンス良く作って、中身が伴っていないんじゃないかと、少し不安になる。

 あと、世間がこんなに大変な時に 自分たちだけちゃんとした服を着て、仕事をしている人たちを見ると、不満が心の奥底から湧いてくる。勿論、こんなこと思っても仕方がないことはわかるが、区画での暮らしからすると、ここは住む世界が全く違うので、どうしてもそう考えてしまう。

 

 不安と不満をかき消すように、目の前に研究員らしき女性が現れた。彼女はスーツの上から白衣を身にまとい丸眼鏡をかけ、目の奥から底知れない狂気を感じる。まさに、マッドサイエンティストっぽい雰囲気を出している彼女は、ハイノメに近寄りしゃべりかけた。

「ハーイ! ユミ、その二人は?」

「この二人は、トガショウ と ユズキミナ ……能力者よ」

「ななな、なんですってそれを早く言いなさい!」

眼鏡の研究員らしき人は、ぼくたちが能力者だと知ると、急に情緒不安定になった。


 ああやっぱりこういう感じの人なんだ。


「ででで、あなたはどんなことができるの?」

研究員は僕に近づき質問攻めしてくる。とにかく近寄りすぎて、彼女の意外と大きい胸が僕の胸にあたる。化学薬品の匂いに包まれていて、妙な気分にさせてくる。


「あああ、あなたすごくいい匂いするのね。で、どんな能力なの。いつごろからなったの。」

「ちょっと、近づきすぎですよ!」

「あら~ あなたも能力者なのよね。あなたの能力はなに? お姉さんに教えてほしいな~」

「ひぇぇぇぇ ユミさん助けてください。このひとなんか怖いです。」

命の危険を感じたミナさんはハイノメに助けを求めた。

「恐れなくていいわ お姉さんがしっかりとリードしてあげる。」

この女はもう止まらない。一線を超えそうな瞬間、ハイノメの腹パンが女にクリーンヒットした。その会心の一撃により、女は気絶してミナさんは事なきを得た。


「彼女は、 アオバサユリ ここの研究委員にして 汚点 日本支部能力者ザブ研究の第一人者なんだけど……」

まるで、不出来のこどもを見られた母親のように、申し訳なさそうに説明するハイノメ……同情するよ。


 


 「いや~すみません。同僚がご迷惑をおかけしました。」

この騒ぎを聞きつけたのか、もう一人 研究員らしき人物が現れた。ちょっと猫背気味で、体調が悪そうな中年男性だ。


「わたしの名前は サイトウナオキ と申します。ここ世界樹対策課日本支部の研究員をしていて、おもに厄災の元凶、世界樹について研究しています。」

「初めまして、トガショウといいます。」

「初めまして、ユズキミナです。」

「すみません、この人、能力者のこととなると、手が付けられなくなってしまうので……」

 

 よかったまともな人だ……


 アオバサユリという人が、あまりにも強烈なキャラだったので、他の人たちもこんな感じだったら、先が思いやられるところだった。

「ところでハイノメさん、調査はどうだったんだい?」

「面白い個体が何体かいたわ……今まで見たことないほど大きな個体、ドラゴンのような形態をしていたわ。」

「どどど ドラゴンですと!?」


 ん? なんか雲行きが怪しくなってきたな……


急に興奮気味になっていくサイトウさんをむしして、ハイノメがつづけて、今まで遭遇したゼノについて話を進めた。

「なるほどなるほど、で! サンプルは回収できたのですか?」

そう言われると、急にハイノメは視線をそらす。

「か、回収しなかったのですか! あれ程回収してくださいと、お伝えしたのに!」

怒り口調で説教し始めるサイトウさん、どうやら彼はめんどくさいタイプの上司キャラなんだろう……、どうやらあまりまともな人じゃないみたいだ。




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