44. まだ見ぬ遺跡と巡り合うために!

 早朝、まだ日も昇らないうちから宿を抜けた。向かう先は街の東門……のそばの壊れた防壁だ。数日前の魔物の襲撃で巨大蜥蜴の突撃を受けて崩れちゃったみたい。今は出入り自由な状態になっている。一応、見張りの衛兵さんがいたけど、私が魔術で眠らせるまでもなく居眠りしてた。


「よしよし、今がチャンスだね。この衛兵さん、あとで怒られるだろうなぁ」

「ふわぁ……。みんな疲れてるんだねぇ」


 シュロは呑気に欠伸をしている。今は元通りのヌイグルミサイズだ。


 数日前の戦いで権能に目覚めたシュロは、巨大なヌイグルミになってレヴァンティアとニヴレインを退けた。最終的にサイハの市壁の二倍以上のサイズになっていたので食費とか大変そうだなと考えていたけど、周囲の魔物達も蹴飛ばして退治すると、しゅるしゅると縮んで元のサイズに戻ったんだ。シュロが言うには結界を解除すると元に戻るみたい。


 それはともかく。


「疲れてるっていうか騒ぎすぎなんじゃないかな」


 危険が去ってから、サイハの街はお祭り騒ぎだ。衛兵さんも最低限の人員を残して、宴会に参加している。つまりは、まあ……はしゃぎすぎってことだね。


 気持ちはわかるけどね。ここのところ緊張の日々が続いたから。


 シュロがレヴァンティアとニヴレインを退けたあと、ヴェラセイド王国の軍は撤退していった。当然の判断だよね。大悪魔二人を揃えた時点でむこうは負けなんてないと思っていたはずだ。それがあっさりと覆された。普通に考えれば戦争続行とはならない。


 で、撤退している途中に、謀反人である王族将軍が配下の裏切りにあって討たれた。この王族将軍、相当ひどい人物だったらしくて、方々から恨みを買っていたみたいだ。王族将軍が二人の大悪魔の契約者だったらしいんだけど、契約のために部下の軍人やヴェラセイド王国民の命を対価として捧げたんだって。そりゃあ、恨まれるよね。


 レヴァンティアたちが健在のときは、その力で身を守っていたようだけど、彼らがいなくなれば王族将軍に味方するような存在はいない。本当にあっさりと殺されたそうだ。


 そんなわけで、ヴェラセイド王国は外征なんてやってる場合じゃないんだって。王族は全滅しちゃったし、ゼウロ教からの監視団を受け入れたりで大変みたいだ。


 つまり、サイハに迫る脅威は完全に去ったってこと。それで、衛兵さんたちも気が緩んじゃってるわけだ。


「まあ、私にとっては都合がいいけどね」


 居眠りというレベルじゃないくらいしっかり眠ってるように見えるけど、念のため慎重に忍び足で横を通り抜ける。幸いなことに、衛兵さんが目を覚ますことはなく、誰にも気づかれずに街の外に出ることができた。街の安全を考えるとあんまりいいことじゃないけど、数日前の大襲撃以降、街の周辺は元の落ち着きを取り戻している。入り込むとしても、ペグルラクーンくらいだろう。


「本当に誰にも言わずに出て行くの?」


 シュロがさみしそうに呟く。


「ハセルたちくらいには挨拶したいけどね。他の人に気づかれると面倒だから」


 こんな夜も明けきらない時間に起き出して街を出たのは逃げ出すためだ。別に悪いことしたわけでもなければ、悪いことされるわけでもないんだけどね。


「みんな、ステラのこと褒めてたよ?」

「だから居心地が悪いんだよ。みんなして私を英雄扱いするんだもの」


 それが街から逃げる理由だ。


 あの戦いで、私もそれなりに活躍した自覚はある。シュロの教えてくれた魔術はそれだけ強力だったからね。それに加えて、多くの人は、私がシュロの契約者だと思っているみたい。二人の大悪魔を退けた謎の悪魔の契約者ともなれば、下にも置かない扱いになるのはわかるけどね。ただ、私は落ち着かないんだよ。


 それに、ナルコフ子爵家の……というかモースさんの狂信ぶりが恐ろしい。正式に魔法顧問につけようと動いているみたいだし、セイリッド様の婚約者にしようという話も出ているみたい。別にセイリッド様が嫌なわけじゃない……というか遺跡好きなところはポイント高いんだけど、だからといって婚約するとなると話は別だ。私はまだまだ自由に生きたい。まだ見ぬ遺跡を見て回りたい。


 だから、逃げる!

 大丈夫、別に悪いことをしたわけじゃないんだ。誰も文句を言えるはずがない。


 ハセルたちにちゃんと挨拶できないのは残念だけど、今生の別れというわけじゃないしね。ほとぼりが冷めたら、また会いに来ればいいだけの話だ。


「……おい、まだか?」


 ふと、腰元から声がする。ポーチから顔を出したのは、赤いたてがみを持つライオンのヌイグルミ……みたいな悪魔だ。


「ああ、ごめん。もう出てきても大丈夫だよ、ヴァン」

「まったく、準備ができたなら……っておい、押すな! 押す……うぉおお!」


 愚痴をこぼしながらポーチから這い出ようとしていたヴァンが、急にポーチから落ちた。突き落とした犯人は青いリボンをつけたウサギのヌイグルミ……っぽい悪魔、レインだ。レインはヴァンをどかして確保したスペースから顔を覗かせている。


「まったく、とろいのよ、あなたは」

「はぁ!? 何を言ってやがる!」

「はいはい。喧嘩しないの!」


 ヴァンを拾い上げ右肩に、レインを抱え上げ左肩に乗せる。頭にはシュロが乗っているので、ヌイグルミに埋もれてるみたいだ。


 ヴァンとレインはシュロに頼まれて召喚した悪魔だ。先日の戦いでシュロにはお願いを聞いてもらったからね。今度は私の番だってことで、はりきって応えたわけだけど。まさか、この二人って……いや、まあ気にしないでおこう。


「さあ、どこに行くんだ? この世界にはうまいものが沢山あるんだろう?」

「あのね、僕のオススメは卵料理だよ!」

「あなたたちは本当に食べることしか頭にないのね」

「あぁん? お前だって、クッキーってヤツを貪り食ってたじゃないか!」

「あ、あれは! 出されたものは食べないと失礼でしょ!」

「きっと、もっと美味しいものもあるよ! ね、ステラ!」


 おおう、頭の近くで騒ぐからとてもうるさい。でも、シュロが楽しそうだからいいかな。


「そうだね。今度は海の方に行ってみようか。あっちにはゼウナロク文明の遺跡が多いって聞くし。魚料理も美味しいよ!」

「わぁい!」

「ふむ、魚料理か。うまいのか?」

「食べてみればわかるわよ」


 思いがけず、大人数での旅になったけど、これはこれで賑やかでいいかもね。おっと、ぼんやりしてる暇はないよ! まだ見ぬ遺跡が、私を待ってるんだから!


――――――――――――――――――――――

ここまで読んでくだったみなさん。

どうもありがとうございます!


本作はここで完結となります。

継続の予定は今のところありません。


もし、本作を面白いと思った方は★の評価を是非!

今後作品投稿の励みになります!

何卒よろしくお願いします。

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遺跡好き少女のヌイグルミ悪魔!~契約したのは可愛くて不思議な悪魔でした~ 小龍ろん @dolphin025025

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