第18話 変化

 一座が村を出立した数ヶ月の後、七月はじめのことだった。 

 北京郊外での日中両軍の小衝突を発端として、両国は全面戦争状態に突入した。当事は支那事変と呼ばれたが、後に言う日中戦争の始まりである。


 月子は学校でそんな知らせを教師から聞き、その日のうちに家の大人たちが話題にしているのを耳にしたのだった。


 とはいっても、子どもたちの日常は大きくは変わらない。四方を田んぼに囲まれた小さな村の中で、彼らの世界は完結する。当然といえば当然である。男の子達の遊びの中心が専ら戦争ごっこになり、学校では負傷者を担架で救助する場面を想定した訓練が、度々組み込まれるようになった――それくらいの変化だった。この頃は。





***





「秋祭りには、また悟さんたち来るよね?」


 畑からの帰り道、隣を歩く父に月子は訊ねた。

 大人二人が顔を合わせれば、聞こえてくる話題は小作料についてか、最近の世情についての話題ばかりだ。月子が耳を欹てなくても、明るい内容でないことは明白だった。


「……ああ。けどな、月子」


 健三の声は低かった。彼が立ち止まったので、月子も足を止めて父を見上げる。父の顔は、祖父によく似ていた。もう少し顔に皺が増えたら、きっと記憶の中の祖父と綺麗に重なるだろう。


「いつもみたいな祭りじゃないかもしれない。やってくる芸人の数も、減ってるだろうな」


 月子は「どうして?」と訊かなかった。再び歩き出した父の歩幅が、とても大きかったからだった。

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