第17話 The sun like you

チャールズの立ち姿勢を見て、バーナードは識者であることはすぐにわかった。チャールズはバーナードと違い、ペドロへの感情が剣筋に見えるくらい、鋭い太刀筋で突いていた。だが、ペドロも負けてはいなかった。

「私を殺す気ですか?」「君を止められないなら、そうするしかないだろ?」チャールズの動きが少し速くなり、ペドロを押していた。

「私が憎いですか?」「お前は家族の仇だ。憎まないなんて難しい話だ。」ペドロは余裕な表情を浮かべながら、チャールズに質問をし続けた。だが、チャールズの力強い剣捌きで、ペドロは体勢を崩された。

「リチャードからもらったこの命なら、彼の意思の下、行動するまで。」「なら、死ぬべきだろう。」ペドロの言葉にチャールズに隙ができた。そこをつこうとしたが、持ち前の反射神経で、どうにか弾いた。

「何が言いたい。」「結ばれなかった恋。自分の愛する子だが、父親は自分ではない。そんな子供を人は愛せると思うか?」チャールズは動揺した。その動揺は剣にも出ていた。

「そもそも私は、姉さんの仇であるあなたが特に憎くてたまらない。」「仇?」二人の剣は、お互いに混じり合い、剣と剣がひしめき合っていた。

「あの時、姉さんに銀の弾を撃ち込んだのは、あなただ。あなたが姉さんを殺した。俺じゃない。」「違う。」チャールズは大声を上げると、ペドロの剣を弾き、その勢いで隙だらけになった胴体に切り掛かったが、ペドロはそれを華麗にかわし、再び切り掛かった。チャールズは腕を抑え腕の様子を見たが、軽く血が出ている程度だった。だが、ペドロは不気味に笑っていた。

「これで呪いは終わる、お前はもう時期死ぬ。そしてハミルトン家は滅びる。」「まさか・・・。」バーナードは剣を持ち、チャールズに駆け寄った。

「そう、毒だよ。チャールズ・ハミルトンが死に、私の復讐が達成される。あとは、邪魔な名探偵を消して、完璧なブードゥーの呪いを完成させるだけだ。」バーナードに斬りかかったペドロを、再びチャールズの剣が防いだ。

「どうせ死ぬなら、もう何も怖くない。君を止められなきゃ、向こうで家族に向ける顔がありませんよ。」そう言うと、チャールズは先ほどとは比べ物にならない速さで、ペドロに襲いかかった。

「パドメよ。すまない。君をあの世に送ってしまったのは、この私のようだ。君がこんな事になるなら、あの夜君に殺されていれば良かったのかもしれない。そうすれば、復讐を果たし、ペドロもこんな思いをする必要は無かったのかもしれない。でも、私は君を愛し、愛されて本当に幸せなひと時を過ごせた。もし、君も同じ気持ちだったら、私は嬉しい。そして、君の愛する弟にこれからすることを許して欲しい。これが君の意思である事を心から祈っている。」チャールズは、ペドロの剣を勢いよく弾くと、弾かれた剣が地面に触れる前には、ペドロの首に刃を突きつけていた。

「復讐は終わりだ。」チャールズがそう言うと、ペドロは内ポケットに手を入れると、今度は拳銃を取り出し、間髪入れずに銃口をチャールズに向け、引き金に手をかけた。ペドロの顔は、いよいよ怒りに心を乗っ取られていた。

「どうやら君がいるところに行けるみたいだ。パドメ、また君に会える。早く会いたい・・・。」屋敷中に大きな銃声が鳴り響いた。しかしペドロの手には、拳銃が握られていなかった。バーナードはペドロが怯んでいる隙に、ペドロの後頭部を剣の柄の部分で一突きした。ペドロはそのまま倒れ気を失った。バーナードは銃声のする方を見ると、銃口から煙が出ている拳銃を持ったロバートが立っていた。

「全部持って行ったね。」「遅くなりました。」「本当だよ。危うく君に失望するところだったが、それは免れたようだな。」バーナードがそう言うとロバートはペドロの方に駆け寄った。ペドロの腕は赤く変色していた。

「どうして・・・。」「今ここで君を止めなければ、君は君のお父さんのようになってしまう。」「どう足掻いても、私の体には奴の血が流れている。もう手遅れさ。」ペドロは、痛みを堪えるのに必死で、息が上がっていた。

「確かに君の体にはお父さんの血も入っているし、優しいお母さんの血も入っている。だが、君は君だ。どんな血が混じっていようが、自分自身がどんな人間になるか、決められるのは君自身だけなんだ。」ロバートは厳しさと優しさを半分ずつ示していた。

「何を今更・・・。もう後戻りなんかできないですよ。」「まずは、罪を償うところから始めてみないかい?」その瞬間、今度はチャールズがその場に倒れた。

「その手始めにまずは、彼を助ける方法を教えてくれないかい?」ロバートの言葉にペドロは、神妙な表情を浮かべた。

「毒が回ってきたみたいだ・・・。」チャールズは目頭を軽く手で抑えていた。

「大丈夫です。解毒の方法は必ずあります。」バーナードはチャールズの肩にそっと手を添えながら言った。だがしかし、チャールズはそんなつもりはなく、黙って首を横に振っていた。

「パドメのそばに連れて行ってくれませんか?」バーナードはチャールズの腕を担ぐと、パドメが眠る棺へ向かった。

「許されると思いますか?」唐突なチャールズの質問に、バーナードはすぐに反応できなかった。だが、チャールズは返答など必要なかったようだった。

「私は結果として彼女を殺めてしまった。こんな私を彼女が許し、愛してくれるのでしょうか?」チャールズの言葉をバーナードは、珍しく優しい表情で見ていた。

「私は何度かあなたを疑いました。ですがその度に、あなたに対するパドメさんの愛を感じることが多かった。もしそれを私が感じることがなければ、拳銃で彼女を撃った時点であなたをしょっ引いて、この事件は永遠に解決しなかったでしょう。」チャールズは愛する妻の名前を呟いた。

「そんな命をかけてあなたを守った奥様が、あなたを憎んでいるだなんて、私からしたら到底理解に苦しみます。」バーナードは少し笑いながら言った。

「あなたがおっしゃるならそうなのかもしれないですね・・・。」チャールズはみるみるうちに弱っていき、次第に笑顔が消えていき始めていた。

「だが、父さんも母さんもパドメもいなくなった今、私もここで息絶えてハミルトン家の歴史に終止符を打ってもいいかもしれませんね。」「ハミルトンさん・・・。」バーナードは、久しぶりに返す言葉が見つからなかった。

「もう、疲れてしまいました。ハミルトン家の一人息子としての重圧って想像している以上に重いんですよ。」「なるほど、卒なくこなしているからてっきり・・・。」「いや、いつも私はプレッシャーに押し潰されそうでした。正直、パドメと結婚する時も、この家の息子じゃなければ、もっとずっと簡単に事が運んだのにとどれほど思ったことか。」チャールズは笑うのもしんどそうだった。

「ですが、パドメさんもリチャードさんも、あなたが生きることを望んでいらっしゃいました。」「リチャードには悪いことをしてしまった。私が彼にあんなことをしなければ、今頃・・・。」チャールズは大きなため息をついた。

「リチャードさんは、あなたとペドロに罪悪感を抱いていらっしゃった。ペドロやパドメの集落の人間に対しての仕打ち、そしてあなたの両親との関係の影響。彼の中での結末は決まっていた。ペドロの復讐の達成とあなたを守ること。それが達成できる唯一の結末だと告げられていました。」「リチャードはじゃあ望んで・・・。」消え入りそうなチャールズの声をバーナードはしっかり聞き取り、優しい雰囲気で応えた。

「あの場にいましたが、介入を固く禁じられました。そしてあなたの身の安全を託されたんです。だから、私はあなたをそう簡単に死なせるわけにはいかないんです。」チャールズの目はもう既に虚ろだった。

「今、私の助手が恐らく解毒方法を探していますから・・・。」「そうですね・・・」気がつけば、外は夜明けを迎え、新しい一日の到来を宣言するように、太陽がよく見え始めていた。

「どうやら雨も止んだので、この屋敷からも出られそうですよ。気をしっかり持っていれば・・・。」バーナードは言葉の途中で、彼の表情を見ると、そのまま喋るのをやめた。

「バーナードさん。」勢いよく戻ってきたロバートも、チャールズを見て急に体の力が抜けた。その後ろからペドロが覗き込むように見ていた。

「どうやらあなたの勝ちのようですね。」バーナードがそう言うと、ペドロの目から一筋の涙が、流れているのが見えた。その涙の意味を、二人が理解することは二度となかった。

「彼を見てみろウィリアムズ君。」「とても・・・安らか・・・。」チャールズにはまだ微かに、二人の声が聞こえていた。朝日が屋敷の窓から差し込み、チャールズを温かく包み込んでいた。

「暖かい・・・。まるで君の温もりを感じているようだ。」チャールズの意識は、もうほとんどなかった。

「パドメ。君との出会いは、お世辞にも良いものではなかったな。君は私に刃物を向けていたこともあった。だが、私は一目見た時から君の中にある優しさを感じていた。それはどうやら君のお母さん譲りだったようだね。そしてそれはペドロにも感じた。そういうところは姉弟そっくりだ。そんな優しい二人に復讐と言う十字架を背負わせる事になったのは、私も心苦しかったしましてやそれがハミルトン家が原因だなんて、到底許されることではない。恐らく君も心の奥では、許せない気持ちもあったに違いない。でも、君のそに心の広さのおかげで、短い間だったが、楽しい時間を過ごせた。私の人生で一番短いが、一番素敵なひと時だった。それは君も同じ気持ちだったら嬉しいなぁ・・・。私の短かった人生もお開きのようだ。もうすぐで、君の元へ行ける。向こうでも君に会えたら・・・。」

こうして、ペドロ・ファイザーは、呪いに見立てた復讐劇を成し遂げる事に成功した。呪いの犠牲となった五個の棺は、警察の司法解剖のため、無言のまま屋敷を後にした。司法解剖の結果、ハンク・ハミルトンは、喉や頭などに負った重度の火傷によるショック死。ペギー・ハミルトンとチャールズ・ハミルトンは、動物製由来の中毒死。リチャード・ウッズは腹部の外傷による失血死。そしてパドメ・ハミルトンは拳銃による頭部損傷からのショック死だった。

その後遺体はハミルトン邸にて、教徒たちの有志により葬儀が執り行われた。また、何かが起こるのではなんて噂が囁かれたが、滞りなく厳粛に行われ、そのままハミルトン邸がある林の中の墓地に埋葬された。

また、ロバート・ウィリアムズは、幇助の罪に問われたが、バーナード・フレッチャーによる華麗な弁護によって、どうにか執行猶予がつき、保護観察として、バーナードの監視下に置かれることになった。

そして、ペドロ・ファイザーは、その後の裁判で残虐かつ卑劣な殺人行為ということで、死刑が求刑され、恐らくこのままいけば、実刑の判決がでる状態だった。だが、バーナードはその判決が言い渡される前に、彼にどうしても聞かなければならない事があり、彼が収容されている、ドッグレイク収容所に赴いていた。面会室に手錠をはめられたペドロと、監視の刑務官が入ってきた。バーナードは少しぎこちない笑顔を見せた。

「久しぶりです。ペドロさん。」ペドロは、あの頃から随分と痩せこけて、やつれた表情に見えた。

「フレッチャーさんにウィリアムズさん。」ペドロは憔悴しきったか細い声を発した。

「そちらの暮らしはいかがかな?」「バーナードさん、なんでそんな事を聞くのですか?」「いや、元気でやってるかな?と思って。」「バーナードさん、それ本気で言ってますか?」するとペドロの乾いた笑い声が、二人の会話を止めた。

「ごめんなさい、なんかちょっと懐かしくて。それでご用件は?」ペドロが質問をした瞬間、急に顔色が変わった。

「これは君たち二人に聞きたい事でもある。」「私もですか?」「ああ。」バーナードの声は低く、落ち着いた雰囲気だった。ロバートとペドロは顔を見合わせると、バーナードの質問に答える準備をした。

「単刀直入に聞こう。君たち以外、他に誰が関与している?」「何を急に言い出すんですか?」ロバートの声はまたしても、バーナードの耳には届いていないようだった。

「今回の事件、考えれば考えるほど完璧すぎるところと、そうではないところの差が激しすぎるのだよ。例えば、ゾンビパウダーの部分と、リチャードさんを殺害した時の鎧甲冑による殺人。とても同じ人間が考えたとは思えない。」ペドロは、黙ってバーナードの方を見ていた。

「それになぜ私を呼ぶ?君たちはさぞありそうな理由をでっち上げていたが、私が来ようが来ないが、リチャードさんは君たちをしょっぴいていた。そんなことは、君たちが一番よく知っていたはず。」「いや、そんなことないですよ・・・。」ロバートは明らかに様子がおかしくなった。

 「君達が何も言わないなら、私の考えを伝えてみよう。君は私にその相手とペドロに分からないように、助けを求めていた。なぜなら、その相手はとても恐ろしく、主軸となる殺人方法を伝授しただけでなく、それに必要な物まで用意してくれていた。」バーナードの言葉に、二人は明らかに動揺しているのがわかった。

 「そして、ここはドッグレイク収容所。と言うことは・・・。」そんな話をしている最中に、ペドロの後ろにいた刑務官が立ち上がった。その瞬間、面会室に刑事が二人、銃を構えて入ってきた。

 「動くな。」だがしかし、閉鎖された面会室の中で、ペドロは刑務官に喉を斬られ、当の刑務官も舌を噛んで自殺した。

 「遅かったか・・・。」一人の刑事の呟く声が聞こえた。

 「いや、それだけ彼は、頭が良いということだ。それにこの刑務所こそ、彼らの本拠地なのさ。」そう言うと、バーナードは面会室を後にした。

 「先輩、今の人・・・。」「ああ。じゃなきゃ私もここには来ないさ。」女性刑事はそう言いながら、バーナードが出ていった扉を眺めていた。

 バーナードとロバートは、足早に刑務所から出ようとしていた。

 「バーナードさん、本当にすいません。」「何を言っているのだね?ウィリアムズ君、君の保護観察官に名乗り出たのはそのためだぞ。彼らは君の命を狙うだろう。」ロバートの顔は蒼白した。

 「あとウィリアムズ君。君のカウンセリングはもう必要ないから、全部キャンセルすることにするよ。私は復帰する。」バーナードは、少し楽しそうな顔を浮かべていた。

 「君は本当に、名医だな。それだけは褒めておこう。さぁ、忙しくなるぞ、ウィリアムズ君。」そう言うと、二人はドッグレイク刑務所を後にした。

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バーナード・フレッチャーと花嫁の呪い マフィン @muffin0324

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