エピローグ
ヒュルルルーーー……と風が吹く。切り立った回廊のような岩山を抜けて風が吹いてくる。所々に植物がしがみ付くようにして生えている赤茶けた台地に。その広大な台地に、今一隻の清掃シップが到着したところだった。
清掃シップは着陸すると、船の倉庫からドロドロとガラクタを吐き出してゆく。その吐き出されたガラクタをフォークリフトを使って選り分けている青年がいた。二十歳にはまだ足りないくらいか金色の髪に瞳も明るい金色。色白の頬は少し日焼けして、少し背が高くなった。
「ナギ」
広大な台地のガラクタの山に埋もれるようにして小さな倉庫が建っている。その倉庫から一人の男が出てきた。長い黒髪を後ろで一つにくくった男の肌は浅黒い。額に赤い宝石が一つ。ナギの選り分けたガラクタを倉庫に運んでいる。
中央から遠く離れ、たいした産物もなく、砂漠と、毒虫が住まう密林だけの、星図にも載らない忘れ去られた辺境惑星カダイル。かつては全土に生息する毒虫とそれが媒介する恐ろしい疫病が支配した星だった。
しかし、この地に住み着いた二人は、不可能と思われた疫病のワクチンを作り出したのだ。
この地に追いやられ、疫病で死ぬしかなかった人々は、ワクチンによって生き残れるようになった。今、このカダイルの大地に、小さいながらも村が出来、町が生まれようとしている。
ナギはカダイルに戻ってきた。他に行く所も思いつかなかった。ディヤーヴァと一緒に帰ってきたとき、カダイルは無人の荒れ果てた荒野に変わっていた。二人で荒地を耕し、ジャンク屋を始めた。
一年経ってメイがユリアーナとともにやって来た。
「父さんはここにナギを捨てたの!?」
メイは荒れ果てた台地を見て呆然とする。クレイグはどうしてナギをこんなところに置き去りにしたのか。明らかに母親ルスと父親アームズによく似た容貌を持った子供を。
嫉妬だろうか、それともこの荒れ果てた土地で生きて行けなければ、自分の運命にも立ち向かえないと思ったか。
二人は近くに家を建て、暴動や騒乱で親を亡くした子供たちを集めた。
だが、子供たちの多くがカダイルの疫病に倒れたとき、ナギは疫病の研究を始めた。一年前に待望のワクチンが出来、子供たちが死ぬことはなくなった。
そうして人々は、カダイルの大地に根を張り、逞しく生きてゆく。
「見ろよ」
ディヤーヴァの指差す先は青い空がどこまでも広がっている。その一点がきらりと光ったかと思うと見る間にスペースシップの形になった。清掃シップと入れ替わるように小さな飛行場に着陸する。
「あいつ、ここに研究所を作るんだとよ」
ディヤーヴァが皮肉そうに言う。その言葉を背中に聞きながら、ナギはスペースシップに向かって駆け出した。
『ナギ、認識完了』
スペースシップが明瞭な合成音をつむぎだす。入り口が開いて真っ先に飛び出してきたのは、船の持ち主ではなく白い羽を持った大きな獣だった。
* * *
アームズは解体された。だからといってドールの優勢が揺らぐわけではない。しかし、弱体化したアームズに取って代われるような強力な勢力はいなかった。
あちこちで小競り合いが起き暴動が発生した。それを抑えたり纏めたり出来る強力な勢力はなく、少数のイントロンが牛耳れるわけもない。世の中は一気に不穏な情勢へと突入する。
そんな混沌とした時代の幕が上がる。
終
※ 読んで下さりましてありがとうございました(o_ _)o))
壊れたAI搭載の宇宙船を修理したら、この辺境の星から連れ出してくれました 綾南みか @398Konohana
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