第13話 少女たちの境遇

作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第13話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330656009778334


第13話 少女たちの境遇

「ドリゼラ姉さん!超々会いたかったよ!」


 王立図書館の奥は、王宮の中でも一部の人間以外立ち入りを禁じられているそうだ。私は目隠しをされ、コンサドーレ様に腕を引かれて中を案内された。

 視界を閉ざされているので、耳を働かせようと思ったけど、心臓の音以外なにも聞こえてこなかった。


 目の前で扉の開く気配がした後、私の目隠しは外された。そして、それが完全にとれる前にシーラちゃんの声が飛び込んできた。

 シーラちゃん……、と叫びそうになる自分を抑えて、私は王妃シンデレラ様に大きく一礼をした。


「オラっ! ドリゼラ姉さん以外は部屋出ていけよ! 2人だけで話しさせてくれる約束だろ!?」


 シーラちゃんは私が知っている以上の荒っぽい口調で叫んでいる。


「シーラ様、お話が終われば『写本』を再開して下さい。私たちとの約束ですよ?」


 コンサドーレ様は私と話すとき同様に落ち着いた口調でそう言った。


「わかってんよ! ほらほら、さっさと出て行かないとドリゼラ姉さんがお前らぶっ飛ばすぞ!?」


 ――ええっ!? なんでそこ私の名前!?


 すると、コンサドーレ様以外の周りにいた人たちはそそくさと部屋から出て行った。なにこれ、みんな私のこと知ってるの?


 最後にコンサドーレ様が「ごゆっくり」と一言添えて、部屋の扉を静かに閉じた。


 私とシーラちゃんは、部屋に誰もいないか確認するように少しの間お互いに黙っていた。静寂の時が流れる。


 そして……。


「ドリゼラ姉さんー!マジで超会いたかったよ! ハッピーうれピーじゃんよ!」


「私も会いたかったわ、シーラちゃん! この間は変な別れ方になっちゃったもんね!」


 彼女とは少し前に再会して……、たった一時しか会っていなくて……、昔ずっといじめてたのに、なぜか生まれた時から仲良し姉妹だったように嬉しかった。

 シーラちゃんの反応を見ると、きっと彼女も同じ想いだったのだろう。やっぱり、見た目がそっくりな私たちはお互いにだけ感じるシンパシーがあるのかもしれない。


「ドリゼラ姉さんとまた話したくってさ! ストライキしてやったぜ!」


「ちょっと……、あんまり司書様を困らせてはダメよ? 私ならいつでも会えるしお話もできるから」


 私は彼女の座っている応接ソファの横に腰を下ろして話をした。とてもふかふかのソファだ。身体が勝手に跳ね返ってくるわ。


「ドリゼラ姉さんがよくてもワタシがダメなの。『王妃様』て自由な時間が全然ないんだからさぁ」


 17の歳で太皇后から役割を与えられて、自分の時間をもてないのはなかなか大変だろうな。特にシーラちゃんみたいに元気が有り余ってるような子なら尚更だ。


「ドリゼラ姉さんてさ、普段はなにして過ごしてんの? 彼氏とかいんの?」


 シーラちゃんは私と会えたのがよほど嬉しいのか、ソファの上をお尻で飛び跳ねていた。本当に忙しない……、やんちゃな子どもみたい。


「私は運送屋さんのお手伝いをしてるの。義母さんと義姉さんが浪費するから、自分が稼がないといけないのよ」


 そう……、私とドリゼラ姉さんの母親はトレメイン夫人が後添えで来る前の優しいお母さんだった。お母さんが亡くなってトレメイン夫人が来てからは前妻の娘の私はさんざんいじめられた。

ドリゼラ姉さんは義母さんに言われて一緒に私をいじめたけど多分本気じゃなかったと思う。



「そっかー、ドリゼラ姉さん働いてんだね。――で、彼氏はいんの?」


 ――スルーしたつもりだったのに、案外しつこい。


「付き合ってる人はいないわ。シーラちゃんは王妃様だもんね? チャーミング王は優しくしてくれるの?」


「アイツ(チャーミング王)、顔はイケメンなんだけど、なんか錠前オタクでさ、結婚してからほとんど会ってないよ、気がいいだけのボンボン王子だったみたいだし、野心も何もないから退屈で死にそう。一番歳近いコンサドーレと浮気でもしてやろうかと思ったけど、あいつめっちゃ堅物じゃん? あれも好みじゃないんよね」


 シーラちゃんにとってコンサドーレ様って、そうでもない人なんだ。なんだかほんの少しだけ安心している自分がいる。


「シーラちゃんのお義母さま(太皇后)は優しくしてくれるの?」


「あー、ワタシあの人キライ!」


 えっ?


 何も考えずに話してたら、聞いてはいけないことに触れてしまった気がする。次になんて言ったらいいかわからなくて黙り込んでしまった。


「ドリゼラ姉さん、気にしないで。生まれた時から親はいないものと思ってるし、ずっといないが当たり前で育ってるからさ。ドリゼラ姉さんもそうでしょ?全然気になんないよ?」


「そうよね。変なこと訊いちゃってごめんね?」


「もう暗い顔しないでよ! ワタシ変な運命に流されてたけど、そこは18んなったらもう離婚して仕事見つけて出て行くつもりなんだよね」


 シーラちゃんはたしか今17歳だっけ。


「ワタシ、超めんどくさがりだからさ。仕事探しとかマジ無理なわけ! どうしようかと思ってたらまさか『王子様』に妃に選ばれちゃってさ、そのときはラッキーって王子様に感謝したわけよ?」


 シーラちゃんは、ソファの前のテーブルにあったビスケットを無造作に2つ取って1つを口に放り込んだ。残った方をこっちに手渡してくれた。

 私も口に入れてみる。甘くておいしい! シーラちゃん毎日こんなお菓子食べてるの!?


「けどさ、感謝したのは最初だけ。王妃って超忙しいし、王立図書館の人も厳しくてさー。絶対もっと楽な仕事あったって思うわけよね?」


「そうねぇ……。だけど、王妃様って国中のみんなの憧れよ? それにたった1人しか選ばれないんだから、とてもすごくて誇らしいことじゃないかしら?」


 シーラちゃんはビスケットが気に入ったのか、また2つ取って1つを口に入れた。もう1つはやっぱり私に手渡してくれる。年齢よりも中身はちょっと幼く見えるけど、とても可愛くていい子に思えた。


「ドリゼラ姉さんは、なんてーかしっかりしてるなぁ。顔はそっくりなんだしワタシじゃなくてドリゼラ姉さんの方が王妃に相応しい気がすんよ?」


「うふふ、今度チャーミング王様に相談してみたらいいんじゃないかしら、どっちでもいいって言われたりして。(笑)」

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