第14話 目隠し

 作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第14話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330656023289232


 第14話 目隠し

 シーラちゃんと話す時間はあっという間に過ぎていった。威厳のある王妃シンデレラ様の雰囲気も好きだけど、子どもみたいに無邪気なシーラちゃんを私はとても好きになっていた。

 ちょっぴり心配になる話し方も、聞き慣れてきたらむしろおもしろくて癖になってくる。

 お部屋の扉がノックされ、コンサドーレ様が顔を見せたことで私は今日のこの時間の終わりを悟った。


「シーラ様、申し訳ありませんがこれ以上は、後のご写本や公務に支障をきたします」


「わーったよ。ドリゼラ姉さんといっぱい話せたから今日は満足した」


 私はソファにシーラちゃんを残して立ち上がり、彼女に向かって大きく頭を下げた。


「とても楽しくて貴重なお時間でした。ありがとうございました」


 シーラちゃんは、誰かが見ている時の私の他人行儀を察してくれたようで、こちらに向かってウインクをひとつした。私も表情を崩してそれに応える。


「シーラ様は後程、ご神託の間までご案内します。ドリゼラ様は帰りの馬車まで同行致しますので、こちらへどうぞ」

 コンサドーレ様に誘導されるがままに私は宮殿の中を歩く。


 あれ……、帰りは目隠ししなくていいのかしら?


 そんなふうに考えていたら、彼はシーラちゃんがいた部屋とは別の応接セットが並んだ部屋に私を案内した。


「ドリゼラ様、実は我々から貴女にご相談がありましてこちらにお連れしました」


 私に相談? まさか力仕事じゃないわよね? それとも、まさかまさか本当にシーラちゃんの影武者させられたりするの?


 シーラちゃんが座っていたソファより幾分固めのソファに座るよう促されて、私はそこに腰を下ろした。

 一時すると部屋の扉が開き、2人の男性が入ってきた。


 ちょっと待って! この人たちって……。


 眼前に姿を見せたのは、王国の総大臣キシーダ様と王宮官房長のマッツノ様だった。私の知識が間違っていなければ、王国政府で一番偉い人とその次に偉い人、のはずだ。


「私はまた後程お迎えに参ります」


 そう言ってコンサドーレ様は頭を下げた後に部屋を出て行ってしまった。


 待って、コンサドーレ様。こんなところに私ひとり置いて行かないでよ……。

◆◆◆

 「ご写本の間」まではいつも目隠しされて、コンサドーレに手を引かれて案内される。空気が少し冷たいところを通り、階段を下っているからきっと王立図書館の地下……、それもけっこう下の方にあるんだと思う。


「今日はどんくらいあるのさ? 『天書写し書き』は?」


 ワタシは目隠ししたまま、コンサドーレに問い掛ける。最初はなんで見ちゃいけないのかと思ったけど、何回も繰り返しているうちにどうでもよくなってきた。「大人の事情」ってのがきっとあるんでしょうってね。


「シーラ様が数日ご写本を拒絶していたために少したまっております……。ですが、遅れは少しずつ取り戻せばいいでしょう。今日は取り急ぎの案件だけをまとめてきました」


「さっすがコンサドーレ!できる男じゃんかよ!」


 コンサドーレは毎度決まった場所で「足元にお気を付けて」と言う。ここからいつも長い階段を下って行くんだ。そして、周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。


「ねぇねぇ、コンサドーレ?ドリゼラ姉さんのことどう思う?」


「ドリゼラ様……ですか? どう思う、とは一体?」


 いつも通りの感情の薄い声が返ってくる。この男、察するってものがないのか?


「聞き方から察しなよ、もう! ドリゼラ姉さん、絶対コンサドーレに気があるって! 今日話しててもさ、コンサドーレの話すると赤くなるんよね!?」


 ワタシがあれこれ話しても、コンサドーレからの返答はない。虚しくワタシの声だけが反響していた。この目隠しさえなければ表情くらい確認できるのに。実は真っ赤っかになってたりしないかな?


「ドリゼラ姉さんは絶対超いい子だよ! ワタシに託(かこつ)けて話しかけてみなよ!?」


「私は王立図書館に、そしてあなたに仕える司書です。他の方への私情は不要と心得ております」


 そう言った後、次の段差で階段が終わると彼は教えてくれた。


「もー……、コンサドーレってマジでつまんない男ね? ワタシの世話係ならもうちょっと楽しめるような話しをしなさいよ?」


 彼は無言でワタシの目隠しを外す。


 薄暗くて静寂の場所、目の前には施錠された鉄扉、いつ見ても薄気味悪い。


 ご写本の間だ。

 「あれ?何かしら。」

 ワタシは部屋の隅に落ちている一枚の小さな羊皮紙に気がついた。

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