第11話 苦労人コンサドーレ・アルカン

作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第11話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330656006630553


第11話 苦労人コンサドーレ・アルカン

「ドリゼラ姉さんに会わせてよ! っていうか会わせろよ! あーわーせーろーっ!!」


 大神殿の応接の間、シーラはわめき散らしていた。

「『ドリゼラ』というと、例の護衛の男を放り投げた?」

「拳で殴り飛ばしたとも聞きましたよ?」

「民家の屋根まで飛び跳ねたとか?」

「いやいや、屋根まで護衛を投げ飛ばしたんじゃないのか?」

「ワシは民家を飛び越したと聞きましたぞ?」

 「ドリゼラ姉さん」の噂は、尾ひれ背びれが付いて王宮内に広がっていた。


 王妃シーラと瓜二つの姉、というだけでそれなりの衝撃があるというのに、人間離れしたエピソードがおまけで付いてくる。さらにシーラは毎日「ドリゼラ」の名前を連呼する始末。

 ドリゼラと出会った人間はごくわずかにも関わらず、王宮内で彼女の名を知らぬ者はもはやいなくなっていた。

「ドリゼラ姉さんと会えないなら王立図書館なんか行かないわよ! 写本なんて知ったことか! てめーらで勝手になんでもやれよな!」

 先日の脱走から、シーラを見張る護衛はさらに増員された。侍女も増え、水浴びやお手洗いも必ず1人は同行している。


 元々ものぐさな彼女にとって、聖女の務めはストレスが多かった。そこに加えて常に監視の目、せっかく知り合ったドリゼラ姉さんとも話せないとあって、溜まりに溜まった鬱憤は爆発寸前になっていた。口が悪いのは元々だが、今はそれに拍車がかかっている。

「シーラ様、どうかお気を静めてください」


 司書コンサドーレは、高級なお菓子を差し入れしたり、公務の途中で眺めの良い場所へ寄り道したりと、あの手この手でなんとかシーラのご機嫌をとろうとしていた。だが、それにも限界を感じていた。


「コンサドーレ!ドリゼラ姉さんと会わせないつもりならワタシはここを梃子でも動かないかんな!」


 彼女は応接セットのソファにずっとしがみついている。


「はぁ……、すみませんがそちらの方、王立図書館入館許可者名簿から『ドリゼラ・トレメイン』の名を探してもらえますか?」


 コンサドーレは近くにいた職員にそう命じた。職員はかしこまったお辞儀をした後、速足で王立図書館の資料室へと向かっていく。


「おお、コンサドーレ!ドリゼラ姉さんを連れて来てくれるのか!?」


 シーラの表情は急に明るくなり、碧い目をきらきらと輝かせて、コンサドーレの顔を覗きこんだ。


「図書館長に相談してからです。とりあえず、シーラ様のご実家の記録は抹消されてますのでお姉様の居場所だけは先に調べておきますが」


「なんならワタシが直談判してやろうか? 今なら大皇后だって怖くないじゃんよ!」


「私がご希望に添えるよう計らいますから、どうかお静かになさってください」


 コンサドーレはシーラのいる応接の間から出た後に、大きく項垂

うなだ

れて肺がしぼむのではと思うほどのため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る