第10話 日常の境界
作者 武緒さつき♀
武尾さぬき先生の白と黒の聖女第10話
https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330656002544051
第2章 宮殿附属王立図書館にて
第10話 日常の境界
シーラちゃん……、シンデレラ様と出会ったのは実は夢だったんじゃないかしら?
そう疑いなくなるほど、私はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
「どうしたドリゼラちゃん? もう家の前に着いてるよ?」
馬車の荷台からいつまでも降りない私に、サルバドおじさんが声をかけてくれた。
「ご、ごめんなさい! ぼんやりしてたら、うたた寝してたみたい!」
「はっはっは! 今日は荷物が多かったからね。ちょっと疲れちゃったんじゃないかい? お家でよく休みなよ?」
私は荷台から飛び降りるといつも通りに、走り去るサルバドおじさんの荷馬車へ向けて手を振った。
ぽかぽかと気持ちのいい陽気、一息つくと眠ってしまうのも無理ないわ。
バザールで親衛隊の人と追いかけっこをしたあの日からシーラちゃんとは会っていない。宮殿の王立図書館には何度か足を運んでいる。
彼女に倣って私も頭に黒い頭巾を被って前髪を垂らし、よくよく見ないと「そっくりさん」には見えないようにした。
宮殿の王立図書館には大勢の人がいる。何重にも護衛を伴っている王妃シーラ様に近付くことなんてできない。だけど、遠目にその顔を覗くことはできた。
威厳に満ちた凛々しい表情、きゅっと結ばれた口元、そこにいるのは王妃シーラ様。けど、紛れもなく私を助けてくれたあの時のシーラちゃんの顔でもあった。
――助けてくれた……? 元はといえばシーラちゃんの脱走に私が巻き込まれたんだけどね。
親衛隊の人に私はどう映ったんだろう?
王妃様とそっくりな顔をした姉、身代わりとか変なことに利用されたりしないわよね?
街で王宮の剣士とすれ違うたびに、そんなおかしか考えが頭を過ぎったりもした。だけど、今は何事もなく彼女と出会う前と同じ日々を送っている。
◇◇◇
「控えなさいっ! 無礼者が!」
家の中で独りでいる時、私はシーラちゃんのモノマネをしていた。あのときの彼女は本当にカッコよかった。私を囲んでいた男たちが明らかに気圧されていたのを感じた。その前にお話ししていたときと雰囲気が違い過ぎて、そのギャップにも驚かされた。
「あー、シーラちゃん……。またお話ししてみたいなぁ」
そんな独り言を言っていると、突然家のドアノッカーが鳴った。さっきのモノマネの件もあってか、必要以上にびっくりしてしまった。
扉を開けると、そこにいたのは先日シーラちゃんを連れていった若い王立図書館司書様だった。
「あなたはたしか先日の……?」
「ドリゼラ様ですね? 先日は失礼致しました。私は王立図書館で司書を務めるコンサドーレ・アルカンと申します」
彼の後ろには例によって、護衛と思われる男が2人ほどいた。
「はっ…はい。先日はあの、ご挨拶もせずにこちらこそすみませんでした。シンデレラ様の姉のドリゼラといいます」
コンサドーレ様が深々と頭を下げるので、こちらまでかしこまってしまう。お堅い雰囲気は慣れていないので、すでに肩肘を張ってしまっている私がいた。
「シーラ様のご実家情報については詮索を禁止されているため記録が残っていないのですが、失礼かと思いましたが、シーラ様から名を伺って、王立図書館の入館許可証発行者名簿から貴女のお住まいを調べさせてもらいました」
「は、はぁ…」
私も王立図書館の入館許可証を持っている、というより、この国で有難いご利益のある王立図書館を利用していない人なんているんだろうか。その気になったら、私の住んでるとこを見つけるなんて造作もないのだろう。
「今日は貴女にお願いがあって参りました。シーラ様に会って頂きたいのです」
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