第89話 残念勇者は新たなスキルを得る
「ねぇ、アンタの名前聞かせておくれよ……」
俺にお姫様抱っこされたまま、早苗ちゃんが名前を尋ねてくる。
「俺は佐藤国光だ」
「クニミツ……?」
「ああ。国が光ると書いて国光、いい名前だろ?」
「うん、アンタにピッタリだよ……国光か、ふふふ」
さて。
ノータイムで偽名を名乗ってしまったわけだが、まあ良いだろう。
本名を知ったら何かできるスキル、とかも想定しないといけないからな。
このゴリラが俺に惚れた、というのはある意味で歓迎すべき事態だ。
敵(?)の幹部となれば、色々と事情に詳しいだろうからな。
「さて早苗ちゃん。色々聞きたいんだが」
「えっ、ちょっと待って。なんでアタイの名前を?」
「さっきそっちの六じゅ……女が『早苗姐さん』って呼んだだろ?」
「そんな一瞬で……アタイの名前を……? もしかして、国光も私の事……」
まさにズキューンって感じだ。
いや、比喩ではなく。
間違いなく『ズキューン』と音がした。
早苗ちゃんが顔を赤らめた瞬間、彼女のこめかみあたりに銃弾が叩き込まれた。
銃声の方向を見ると、75点の女が発砲している。
「ごめん姐さん、でも……」
そのまま、75点の女は俺に銃口を向けて来る。
早苗ちゃんの死体を投げつけ、その視界を塞ぎつつ、俺は女との間合いを詰めた。
女が発砲するも、早苗シールドに阻まれたようだ。
投げつけた死体が、女にぶち当たり転倒させる。
俺はそのまま、銃を握る手を踏みつけた。
「ぎゃっ!」
手から離れた銃を確保する。
他の二人も銃を抜く気配がした。
早苗シールドを持ち上げ、そちらに突っ込む。
二度の銃声。
早苗シールドで銃弾を受け止めつつ、二人に死体ごとぶちかましを食らわせてそれぞれを地面に倒し、同じように銃を確保した。
「これ以上暴れたら、殺す」
一瞬だけ【威圧】のスキルを発動する。
三人は表情を強張らせたのち、何度も頷いた。
俺はそのまま、早苗ちゃんを撃った相手に近付き、質問を飛ばした。
「なぜ俺じゃなく、早苗ちゃんを撃ったんだ?」
「だって、男に惚れるなんて……死んだほうがマシでしょ、こんな世界で……」
どういう事……。
いや、待てよ?
男に惚れたら不幸になる世界?
今まで得た情報が、頭の中でカチカチと組み上がり、一つの推測へと至る。
俺の推理結果は、決して認めたく無いものだが……確認しなければならないだろう。
「あのさ」
「なんだい?」
「ゾンビって、全部男?」
「そりゃそうでしょ。まあ、元男って呼ぶ方が正しいけど」
やっぱりそうか、つまり……。
「セックスしたら、男はゾンビになる?」
「は? 何を当たり前の事聞いてるのさ」
当たり前じゃないんだよなぁ。
つまり早苗ちゃんも変な性癖とかじゃなく、セックス終わったらゾンビ化する前に相手を殺す、って事だ。
まあ、半分趣味かも知れないが。
つまりここは、確かに貞操逆転世界。
そりゃあ男は貴重だろう。
だって、セックスしたら男はゾンビになるんだもん。
女神は『童貞かどうかわかる』って言ってたが、そりゃそうだ。
生きている男は、全て童貞って事だ。
新鮮なち◯ぽって表現も、ある意味では合っている。
だって非童貞はみなゾンビで、腐れち◯ぽなんだもん。
つまり――俺は女神にハメられ、決してハメられない世界に来ちゃいました、と。
……あのクソボケ女神がぁああああッ!
『ぴこん』
ん? こんな時に何だよ……。
『おめでとうございます! 初期に与えられる最小限の情報で、世界の状況を推理したあなたに特別ボーナスです! あなたは新たなスキル【相性判別】を手に入れました!』
相性判別?
また変なスキルっぽいな……。
『相性判別について説明を聞きますか?』
→【YES】
【NO】
YES。
『相性判別とは! 貴方と女性の相性を判別するスキルです! 対象の女性と恋人になった場合の相性を%で表示します! ただし相手も人間なので、その日によって±5%程度の誤差が発生します! また理論上100%はありえません! 最大値は97%程度と考えていただくのが目安となるでしょう! 90%以上の相手を自動測定する事も可能です! 自動測定を【ON】にしますか? これはあとから変更可能です!』
自動測定を……。
→【ONにする】
【OFFにする】
【ON】で。
『自動測定をONにしました! 最後に大事な説明です!』
まだあんのか、何だよ。
『相性が高いからといって、それは必ずしも恋人になりやすい、という事ではありません。あくまでも恋人になれるかどうかは貴方の頑張り次第です! 以上! では頑張って下さい!』
なるほど。
つまり、例えば今早苗ちゃんをエリクサーで蘇生させたとして。
そりゃ、さっきの様子なら恋人になるのは簡単だろう。
ただ、それと相性が良いかどうかは別って事だな。
……じゃあ何の役に立つんだよ、こんなスキル。
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