第88話 残念勇者はち◯ぽ狩りに遭う
――と叫ぶ訳にもいかず、ツッコミは心の中に留めながら男に聞いた。
「あの、ち◯ぽ狩りってなんですか?」
今迄の人生でもトップクラスのアホな質問だと自覚しているが、聞かない訳にもいかない。
俺の質問に、男は目を丸くしながら言った。
「ち◯ぽ狩りを知らないなんて……どんな人生を歩んだらそんな事になるんですか……?」
コイツ、わざと言ってんのか?
そろそろ殴った方がいい?
まあ、そんな事しないけどさ。
「すみません、つい最近まで山奥で生活してまして。下山したら街がこんな状況で」
「ああ、なるほど……ネットもテレビも無い生活だったんですか?」
「はい」
「なら仕方無いです……かね? だいたい一年前、街中にゾンビが現れたんですが……いや、取りあえず今は逃げましょう、話は落ち着いてからにしましょう!」
ちっ。
状況さえ知ってしまえばコイツに用は無いんだが……取りあえず護衛ミッションか。
二人で、ビルの影から車の音がした方向を覗き込む。
大型のバンが停止し、制服らしき茶色の服で身を固めた集団が降車していた。
全員女で、警棒のような物を携えている。
一際目立つのは、最後に降りて来た女だ。
身長180cmの俺よりデカいし、分厚い。
「テキーラ酒を持って来ましたのー」とか言いながらうふってしたら、兵士に「お前のような女がいるか!」と怪しまれそうなレベルだ。
女は仁王立ちすると、その前に女性三人が横に整列した。
女は警棒で手のひらをパンパンと叩きながら、檄らしき物を飛ばした。
「さあお前ら! 今日も元気に、新鮮なち◯ぽ狩っちゃうよぉおおっ!」
「イエッサー!」
世界一間抜けな激と返事を聞いていると、頭が痛くなってきた。
ここまでの流れで、俺はこの世界について何となく把握しつつある。
これ、アレだ。
埋もれたエロ同人ゲーレベルの設定してる世界だ。
登場人物、全員バカ。
なんだよ、『新鮮なち◯ぽ』って。
恐らく童貞を指してるんだと思うけもども。
一応、男にも確認してみる。
「君、童貞?」
「当たり前でしょ……あ、そうか。事情知らないんですよね」
当たり前ってなんだよ……。
俺が心の中でツッコんでいると……デカ女が【索敵】を展開したのを感じた。
ちっ、アイツ【スキル持ち】か。
カウンターで【個人情報開示】をかける。
取りあえず、名前とスキルの構成だけササッと確認だ。
……ん、ややこしいスキルは持ってないな。
基本スキルだ、どうとでもできる。
名前は『剛力早苗』ちゃんね。
名は体を表すって奴か? 名付けも適当だなぁ。
「いたぞ! 三時方向に二本だ!」
こらこら、本数で数えてんじゃないよ。
早苗ちゃんがこちらを向くに合わせ、男は「ヒッ!」と声を上げた。
仕方無いな……。
「ちょっとここで待っててね」
俺は男に告げ、返事を待たずに集団へと歩み寄る。
俺が姿を見せると、女達は顔を見合わせながら色めき立った。
「早苗姐さん、上物ですよ!」
「姐さん! コイツアタシにくれないっすか?」
「えー。次は私の番だよー!」
ふむ。
60点、55点、75点。
この、75点の娘なら、むしろ俺がお願いしたいが。
「何言ってんだい、アンタら! こんな上物は『あの方』の所に連れて行かないと、バレたらアタシら
が殺されちまうよ! まあ、でも……」
0点が何か気になる事を言った。
『あの方』ってのが、女神の言ってた女帝か?
0点は舌舐めずりをしながら、ニヤっと笑った。
「味見くらいは、役得だよねぇ。アンタら、手を出すんじゃないよ!」
「えーっ、結局姐さんが良いところ持って行く気だー!」
女性陣の不満を背中に受けながら、早苗ちゃんは嬉しそうに言った。
「是非あの方の許可が欲しいねぇ。アタシは男がアタシの中で果ててる最中に、首をへし折るのが大好きだからねぇ、ふふふ」
カマキリの交尾かな?
「取りあえず、捕まえちゃうよぉおおおっ!」
早苗ちゃんが両腕を広げ、俺に抱きつくような動きで迫ってる。
俺は――自ら後ろに転び、早苗ちゃんを下から蹴り上げた。
「なっ!」
以前渋谷さんを蹴った時同様、早苗ちゃんも両腕でガードするが……ビルの屋上あたりまで吹き飛んでいく。
まあこの技で吹き飛ぶ高さは、相手の強さに依存するから……こんなもんか。
すると、早苗ちゃんから意外な声が発せられた。
「キャーッ、ヤダヤダヤダ! 助けてぇー!」
……なんか、すっごい女の子って感じの悲鳴だ。
仕方ないな、もう。
ズンッ!
俺は落下してきた早苗ちゃんを、スキルで落下の威力を軽減しつつ、両手で受け止める。
まあ殺すよりは生かして、情報を引き出そう。
早苗ちゃんはしばらく呆然としていたが……やがて俺の顔を見ながら、両手で自分の頰を押さえ、顔を「ぽっ」と赤らめながら言った。
「あ、アタイ……お姫様抱っこされたの……初めて……」
「ね、姐さんがメスの顔になってるー!」
早苗ちゃんはそのまま、俺の顔を見ながら言った。
「好き……」
……。
ちょ、チョロい、チョロ過ぎる……。
マジで何なのこの世界……。
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