第74話 残念勇者は久々に罪状確認する

 まずは状況の整理だ。


 異世界アイテム売買用の『闇マーケット』の存在を田辺先生に伝えたのが、SACAのニックだと仮定する。

 この場合『田辺先生が帰還者である』という事をSACA側が知らなければ成り立たない。

 何の確証もなく、一般人に闇サイトの話をするなんて考えにくいからな。


 つまりSACAは、日本側の『帰還者リスト』が見れる、または見れた、という事になる。


「渋谷さん、日本側の帰還者リストをSACAと共有とかしてます?」


 俺の質問に、渋谷さんは首を振った。


「いえ、帰還者の情報は各国の最重要機密です。『特対ウチ』でもリストはオフラインの専用PCで管理してますね」


 なるほど。

 共有してないうえにオフラインで管理しているなら、「内部の人間が流した」という事だな。

 なら流出元は依田さんの可能性が高い。


 おそらく『割れ神依田』から、SACAへと情報が流れていたのだろう。

 依田さんからの情報を元に、ニックは田辺先生へと闇マーケットの存在を伝えたわけだ。

 となるとこの闇マーケット自体、SACAがダークウェブ上に開設したもの、と考えるのが自然だ。


 目的は『異世界アイテムの収集と独占』。

 これは完全に推測だが、闇マーケットという形で各国の帰還者からアイテムを買い漁っているのでは?


 とはいえ推察は色々できるが⋯⋯まあ、今は断定する証拠もないし。

 あまり決め付けすぎるのも良くない。


 だがSACAに『割れ神依田』と連携していた人物がいる、という仮定と、その裏取り調査は必要だろう。


「渋谷さん」


「はい」


「さっき、埋め合わせにコーヒー奢って貰うって話してましたよね?」


「ああ、まあ⋯⋯定型文みたいなもんだとは思いますけど」


「奢って貰ってください、できれば明日にでも」


 俺の言葉に、渋谷さんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 ──と。


 俺たちの話を聞いていた灘さんが会話に入ってきた。


「私は行かなくて良いですよね?」


「うん、別に良いと思うけど。何でですか?」


「⋯⋯できれば、アイツに会いたくなくて」


「アイツ? ニック?」


「はい。なんか⋯⋯イヤなんですよ。私の事を見る目が。さっき会った時も、本当にイヤな感じがして」


「ふーん?」


 灘さんはニックが嫌い、と。

 ⋯⋯俺も変な目で見ないように気を付けないとな。

 まあ、下着姿激写なんてしてるから、手遅れかも知れんが。

 しかしこの辺の『カン』は深堀しておこう。

 灘さんもハードモード達成者、そのカンはバカにならない。


「具体的に、どういう印象を受けるんです?」


「表には出さないんですが、見下してるというか、ニヤついてる感じですね。俺は知ってるぞ、みたいな」


「ふむ⋯⋯」


 言語化は難しい感じだな。

 

「わかりました、イヤな奴の事思い出させてすみません」


「いえ⋯⋯」


 短く呟くと、灘さんは意外そうな表情を浮かべた。


「何か?」


「いえ、東村さんって、そういう気遣いもできるんだって。なんか意外で」


 失礼だな、こんなジェントルマン捕まえて。

 ──口に出して反論したら、めちゃくちゃ論破されそうだから黙っとくけどさ。





────────────────────



 翌日の夕方。


「いや、まさか昨日の今日で連絡くれるとは。嬉しいよ、タモツ」


「いや、時間外にすまないな」


「こんな仕事だ、しょうがないさ」


 喫茶店に現れたニックが渋谷さんに挨拶した。

 ニックは約束通り二人分のコーヒーを注文し、そのまま一つを渋谷さんに手渡した。

 俺は少し離れた席で、念の為『幻視の指輪』で姿を変え、二人の話を聞いている。

 『割れ神依田』が、死ぬ直前までSACAと連絡してたら、俺の事も調査されてるかも知れないからな。

 しかし離れて盗み聞きできる『兎の耳』は便利だね。


 席に着くと、渋谷さんはすぐに切り出した。


「何故田辺を追う?」


「いきなり本題か? 相変わらずせっかちだな」


 ズズッとコーヒーを飲むニック。

 渋谷さんには「適当に理由聞いてください」とだけ言ってある。

 実は会話自体にはあまり意味がない。


 俺がこの目でニックを見るためにセッティングした場だからだ。


「個人情報開示」


 ニックの個人情報を開示する。

 奴が『割れ神』なら、対策してなければ名前が文字化けしているはずだ。




本名:ニック・ファルコ【タップで画像表示】

性別:男

年齢:28歳【タップで生年月日表示】

国籍:アメリカ合衆国

身長:185cm

体重:79kg【タップでスリーサイズ表示】

職業:SACA職員【タップで勤務先詳細】

住所:※東京都港区六本木2-1-1アメリカ大使館三井山宿舎クレアスタワー○○階

電話番号:080-××××-××××

家族構成:父、母(別居)妻、娘(同居)

特記事項:スキル所持者【タップでスキル詳細】

【罪状】完全犯罪【タップで詳細確認】


 名前の文字化けは無し。


 住所は六本木のアメリカ大使館宿舎か、公式な肩書きは大使館職員って事だな。


 それより⋯⋯【罪状】の完全犯罪ってなんだ?

 そこも気になるが、罪状を確認する前に【スキル詳細】をタップする。


 【スキル一覧】


【闇魔法Ⅳ】【身体強化Ⅲ】

【思考速度強化Ⅴ】【鷹の目Ⅱ】

【兎の耳】【威圧Ⅱ】

【死に戻り】


 基本スキルが多いが、一番下に知らないスキルがある。

 ⋯⋯【死に戻り】だと?


 あれか? 死んだら記憶はそのまま時間が巻き戻る的な奴?

 詳細は不明だが、これは間違いなく『割れナーロッパ産』のスキルだろう。


 もしヤツと敵対するとなれば⋯⋯これは面倒だな。

 そもそも現状コイツをどうこうしようという考えは無いが、もし排除の必要があるなら話は変わる。


 単純に殺せば済むって話じゃない。

 むしろ殺せば殺すほど、俺に対して相手は対策を取ってくる、という事だ。


 むしろ今、現時点で相手は何度か『死に戻って』、『俺への対策を施した上で』この場がセッティングされている可能性すらあるのだ。


 そう、俺が奴の能力を見抜く事すら想定されているかもしれない。


 俺は恐らく、単純な戦闘ならこの世界でも最強の一角だろう。

 だが、無敵だと過信はしない。

 搦め手を使われれば、俺を殺す方法なんて幾らでもある。


 例えば少し前にあった『スキル封印騒ぎ』。

 あんな事されたら、すぐにでもやられてしまう。


 とにかく、こうなれば奴の【罪状】確認は必須だ。

 仮に罪状で俺とのやり取りが出てくるなら、これまでの事もわかるかも知れない。


 ⋯⋯イヤだなぁ。

 感覚共有すると、変な夢見るからなぁ。

 そもそも他人と感覚を共有し続けるリスクも分からないから、本当ならあんまり使いたく無いんだが。


 実は俺が性格悪くなったのも、国光くんと感覚共有したせいじゃね?

 ⋯⋯いや、元からか。


 まあ、とりあえずやるか。


 俺は【罪状】をタップした。



──────────────────


※アメリカ大使館職員宿舎の住所は公開情報なのでそのまま表記しておりますが、クレアスタワーは宿舎群に存在しない架空の建物です。



あとがき


某制度がスタートし、プライベートが地獄のようなスケジュールで⋯⋯とりあえず続きを書く気はありますって事で!


まだ本格的な再開は先になりそうですが、予告編みたいな感じです。


残念勇者VS死に戻り能力者

もうしばらくお待ちください。


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