第75話 【罪状】ニック・ファルコ①
異世界は大変な場所だったが、貴重な経験と力を得た。
何より、生と死がすぐそこにある場は『本当の自分』を解放できた。
あの
妄想でしか許されなかった行為が、全て肯定される場所。
それがあの世界だ。
気に入らない奴を殺すのも、ヤリたいと思う女を凌辱する事も。
全てが許された。
そして──それは戻って来てからも変わらない。
私が1日の節目にしているのは、仕事を終えて家に帰る途中だ。
オートロックを解除しながら、『
ここが死に戻った際の『リスポーン地点』となる。
1日を無事終え、建物の入り口から自宅までの間に行う、すでに習慣化したルーティン作業。
自宅の扉を開くと、帰宅した私を愛娘のステファニーが出迎えてくれた。
「ダッド! おかえりなさい!」
「ただいま、ステフ。今日も良い子にしてたかい?」
「うん!」
ハグをしながら私と娘が会話をしていると、妻のジェニファーが腰に手を当て、呆れたように言った。
「もう、ステフったら嘘をついて。アナタ、この
「おやおや、本当かい?」
「うん、ごめんなさい。だから⋯⋯ねぇダッド、私の宿題手伝ってくれない?」
私の胸の中で、娘は見上げながら媚びるような声色でお願いしてきた。
愛する娘からお願いすれば、ダッドは聞いてくれるよね? という、言外に込められた深い信頼を感じる。
「もう、ステフったら。お父さんがいつも手伝ってくれるからって。アナタもステフをあまり甘やかさないで──」
妻が発した言葉を聞きながら──私はステフから手を離し、【身体強化Ⅲ】を発動。
娘の顔面を思いっきり殴り飛ばした。
頭蓋骨がミシミシと音を立てるのと同時に、彼女の身体は壁まで吹き飛ぶ。
ガンっ、と身体が打ち付けられる音が部屋に響いた。
大人になれば、ダッドと同じように鼻が高くなるかしら、と、普段マセた事を言っているステフの鼻は、醜く潰れていた。
殴った時点で即死だっただろう。
ジェニファーは突然の出来事に、ただ茫然としていた。
彼女を現実に引き戻すため、胸ぐらをつかむ。
「仕事終わって! 疲れて帰って来たばっかりで! ガキの宿題なんかやってられるか! 俺様がいない間にどんな躾してるんだ、このクソ売女が!」
「ニック、やめて、ステフ、ああ、どうして、神様⋯⋯」
「質問に答えろ売女! 俺はどんな躾をしているのかって聞いてんだ! こんなシンプルな質問にも答えられない頭に何が詰まってる!? クソか? クソが詰まってるのか!? だったらいらねぇだろ!」
「ニック、どうして、いや、やめ⋯⋯ウグッ!」
顔面を掴み、闇魔法の『空間消去』で削り取る。
頭を失ったジェニファーはその場に崩れ落ちた。
二人の死体を眺め、肩を竦める。
「ああ、またやっちまった⋯⋯」
湧き上がる衝動を抑えられず発散し、その結果骸と化した家族。
何度体験したことか、もう数え切れない。
異世界では様々な経験と力を得たが、引き換えに失った物もある。
自制心だ。
時折このように衝動に任せ、思うがままに行動してしまう。
ただ、それが許されるだけの力も手に入れた。
「さて、こうなったらまた⋯⋯『好き勝手タイム』だ」
────────
都内行きつけの、高級鉄板焼き料理屋。
といっても、金を払って飯を食った事は無いが。
入り口の看板を『CLOSED』に変え、店内に入る。
馴染みの⋯⋯といっても向こうは俺の事は初見なのだが。
「いらっしゃいませ、お客様。申し訳ありませんが当店予約制となっておりまして⋯⋯」
「知ってるよ、柏原くん」
「えっ?」
間抜けの顔面を掴み、闇魔法で削り取った。
そのまま廊下を曲がり、中に入る。
大きな鉄板の前で、楽しそうに料理を食べる男女と、調理するシェフが目に入る。
この店は二組しか入れない。
今日は一組らしい、手間が省ける。
「やあ、こんばんは」
声を掛けると、食事中の二人が振り向いた。
怪訝そうな顔をしながらも、男は挨拶してきた。
「こんばんは、あの、何かご用事⋯⋯」
最後まで聞かず、両手で顔を掴み、捻る。
ゴキンッと鈍い男がして、男は席から転げ落ちた。
一瞬静寂が訪れたのち、女が叫び声を上げた。
「キャアアアアアアッ⋯⋯ああっ!」
ガッ!
俺の蹴りで、女の悲鳴が中断する。
身体強化を伴った一撃は、女を壁まで吹き飛ばした。
頭部を打ちつけた女はそのままズルズルと滑り、壁にもたれるように脱力した。
もちろん死んでいる。
二人の惨状を目の当たりにしたシェフは、呆気に取られたように俺を見ていた。
彼を現実から引き戻すため、アイテムボックスから銃を取り出し、突きつける。
俺の目論見通り、シェフは現実に引き戻されたようだ。
身体が震え始めるのを見ながら、優しく声を掛けた。
「シェフ」
「は、はい!」
「今日のコースを出してくれ。俺のために、心を籠めて。そうすればこの引き金を引かなくて済む」
シェフは震えながら、何度も頷いた。
時折調理器具が上手く扱えないみたいだが、それでも流石の手際でコースが次々と提供される。
テーブルマナーとしては良くないが、銃をカウンターに置いたまま、フォークとナイフに持ち替えて食べ進める。
会話は無い。
一時間ほどでコースは終了し、デザートに舌鼓を打ったあと、シェフに声を掛けた。
「今日も最高だったよ、シェフ」
「今日も⋯⋯? あ、は、はい」
間抜けな返事を寄越したシェフの頭を、いつも通り銃で弾いた。
食事を終えた次は、女だ。
そう、あの女。
リセットするには死ぬしかない。
死ぬのはいつまで経っても慣れない──だからいつも殺して貰っている。
特待の灘鏡子。
あのクソ女が俺の『リセットボタン』だ。
あの猿女は、合同訓練で私を衆目で叩きのめし、恥をかかせやがった。
だが、もうどうすれば良いかわかっている。
彼女のアキレス腱は私が握っている。
──────
灘鏡子の自宅に赴き、チャイムを鳴らした。
オートロックのため、カメラ越しの対応になるがいつもの事だ。
ピッという電子音とともに、彼女が応答した。
「はい⋯⋯えっ? ニック長官? なんでしょうか。というか、そもそも私の自宅は公開してませんが⋯⋯」
「すまない、内密で⋯⋯大事な話なんだ、君の弟さんについて。このまま話しても良いのだが⋯⋯あまり他人に聞かせるべき話では無いと思うのだが」
「⋯⋯どうぞ」
オートロックのドアが開く。
そう、彼女は開けてくれる。
それは、私を警戒しながらも見下しているからだ。
仮に揉め事になっても対応できる、という彼女の自信からくる行動。
そしてそれは──正しい。
事実、私は自分の望む結果を手に入れるために、彼女への対象方法を学ぶ必要があった。
そのために、12回も死ぬというコストを払った。
特対の人間、その家族についてはもちろん非公開情報だ。
だが、私に恥をかかせたこの女に復讐するために、様々な手法や権限を利用して、彼女について調べ上げた。
そして便利な事に、私は無茶な調べ物も無かった事にできるのだ。
秘密裏に、相手の情報を丸裸にする事が可能な私こそ、まさに神に選ばれし存在だろう。
────────────────
あとがき
色々忙しく、更新がなかなかできず申し訳ありません。
あと、次回はコレまでで一番胸くそ悪いというか、人によってはちょっと無理、みたいな描写が含まれる可能性があります。
簡単に言えば、鏡子ちゃんがひどい目に遭います。
死に戻りなので無かった事にはなりますが、まあ、でもねえ。
なのでその辺「ああ、こういう話やろなぁ⋯⋯」と察せる方はちょっと飛ばして貰うなり、読むの止めとくという感じでお願いします。
あと、「こういう話ですか!?」みたいなのコメントで探り入れて来ても答えませんのであしからずご了承ください。
12/30追記
いつもはできるだけあとがきは消しているのですが、注意喚起的な内容なのでそのままにします。
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