第71話 閑話 東村忠之と灘鏡子

「いやー、離ればなれだった恋人達の再会、感動的でしたね!」


 昨晩、華ちゃんのところに来栖くんを送り届けた際、灘さんにも同行して貰った。

 華ちゃんは灘さんに心を許してるからね。


 二人が抱き合っている姿を見て、灘さんが「良かったね⋯⋯」と呟きながら目に涙を浮かべている横で、俺は『この二人、このあとメチャクチャセックスするのかな、いいなー』と考えていた。


 翌日、つまり今日、局に顔を出してみたら灘さんの興奮は未だ醒めやらぬ、って感じですな。

 離ればなれだった恋人の再会、か。

 まあ、女性が喜びそうなシチュエーションではある。

 俺なんていざ再会って時になって、恋人は親友に寝取られ、子供を身ごもられた挙げ句、育てさせられそう⋯⋯なんて事実を知らされたんだぜ?

 異世界転移のせいで、離ればなれになって会えない恋人。

 シチュエーションはそっくりなのに、なんだぁ、この待遇面の違いは⋯⋯。


 今日は渋谷さんと依田さんは外出しているらしく、局には灘さんと二人きりだ。

 数少ない女性の知り合いだし、ちょっと聞いてみるか。


「灘さん、ちょっといいですか?」


「何でしょうか」


「恋人って、どうやったら出来るんですかね?」


「そりゃあまずは、好きな相手に出会う事じゃないですか? それで相手にも好きになってもらって⋯⋯」


「あ、そういう一般論じゃなく、俺です、俺」


 自分の顔を指差しながら、灘さんに聞いてみる。

 灘さんはしばらく額に指を当て、「うーん」と考えたあと⋯⋯。


「東村さんは、正直スペックが高いと思います。お勤め先も一流企業ですし、外見も標準以上です。通常なら恋人探しに困る事はないでしょう」


「ありがとうございます、でも現実はとても困ってます」


「では、それ以外に原因があるわけですよね?」


「そうなりますね」


「ちなみに、男女の出会いにおいて知人や友人から紹介される、というのはかなり一般的なケースですよね?」


「そう思います」


「じゃあ仮に、いきなり女性の下着姿を、断りなしに撮影する男性を、友人に紹介する人っていますかね?」


「うーん、灘さんくらい?」


「しねーわ、一生ひとりでいて下さい」


 ふむ。

 という事は、灘さんから女の子を紹介して貰うみたいな事は無理らしい。

 つまり、だ。


「じゃあ、いきなり下着姿を撮影された女性が、その男性を好きになる、というレアケースに期待するしか無いですかね?」


「絶対ねーよ」


 ねーのか。


「つまり、東村さんは恋人探しにおいて、人格面に多大なる欠陥がある、という事です」


 うむ、とてもわかりやすい講義だ。

 

「なるほど、理にかなってますね」


「ただ⋯⋯」


「ただ?」


 灘さんはニッコリ笑った。


「大橋ちゃんに、来栖くんの事は全部俺に任せろ、と言った東村さんは⋯⋯ちょっと格好良かったです」


「という事は、レアケースを引き当てた、と?」


「いや、だから無いですって。いつもああいう感じなら、モテるんじゃないですかね? 私はアナタの正体を知ってるので絶対無理ですけど」


「なるほど」


 灘さんの話を総合する。

 俺の外見を含めたスペックは、恋人がいてもおかしくない要素を充分に満たしているが、行動面にいささか問題がある、という事だ。


「灘さんのおかけで理解できました」


「それは良かったです」


「つまり、良い人ぶって女を騙くらかせばいい、って事ですね?」


「死ねよ」


「灘さん」


「なんですか?」


「意外とノリが良いですね、好きになっちゃいそうです」


「ありがとうございます。お生憎様ですが、私には彼氏がいます」


 ちょうどその時、灘さんのスマホが鳴った。

 俺がいるからか、彼女は一瞬ためらった様子を見せたが、結局電話に出る事にしたようだ。


「もしもし、うん、うん、あ、もう仕事終わるから、うん。じゃあ簡単に食べられる物用意してから行くね? うん、じゃあまたあとで、はーい」


 灘さんは電話を切ると、俺に申し訳なさそうに言った。


「すみません東村さん、そろそろ一旦局を締めたいのですが⋯⋯」


「はい、わかりました。俺もそろそろおいとまします」


「ありがとうございます」


「さっきの電話⋯⋯彼氏ですよね?」


「⋯⋯はい、まあ」


「会話の内容から、食い物買って彼氏の部屋にって感じですかね?」


「いや、マジ最低この人⋯⋯」


「このあと、ムチャクチャセックスします?」


「するよ! ムチャクチャセックスするよ! うるさいな!」


「さすがに今回は撮影NGですよね?」


「見るのもNGだわ! っていうか前回も普通に撮影NGだわ!」


 面白いな、灘さんって。




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