第70話 残念勇者はハメ殺す

 さて、来栖くんの死体は回収した。

 あとはこれを華ちゃんのところに持って帰って蘇生すればミッション終了──なのだが。


 その前にやっておく事がある。


 今回、割れ神探しのついでにこのミッションを受けた、つまりメインクエストに対してのサブクエストみたいな感じなわけだが。

 もしかしたら、これ自体がメインクエストの可能性もある。


 まず、あのクソ教師が『割れ神』の可能性はかなり低い。

 奴が割れ神なら、母親が人質に取られたからと、ポンポンスキルやアイテムを渡してくるってのは考えにくいからだ。

 そもそもあの教師もそうだが、生徒四人の中にはいないんじゃないか? とも思える。


 それは【封印の館】の存在。


 問答無用にスキルを封じるアイテム、おそらく『割れナーロッパ限定アイテム』だ。

 あの五人の中に割れ神がいると仮定すると⋯⋯。


・アイテム作成時、自分には効果が及ばないように設定する。

・つまり、割れ神は女神の施したプロテクトを察知し、人間として、この世界に引きずり出される事を事前に想定してある。

・結果、効果対象外なのでスキルを使ってステータスを隠蔽し、俺の【個人情報開示】を回避した。


 という条件を満たす必要がある。


 とした場合、そもそも異世界から人を召喚したりしなくね? って話だ。

 達成者が沢山出れば、いつか自分がこっちの世界に来てしまう、なら自分は効果対象外に設定しておこう⋯⋯これは無理がある。


 つまり、来栖くん達が行った世界はおそらくまだ『達成者』の数は未達か、達成していたとしても彼らのあとに帰還した人物が割れ神で、この集団にはいないのではないか? という事。


 そして、それを満たすかもしれない──つまり達成者の数を増やすかも知れない存在。

 それが来栖くんだ。

 彼が蘇生される事で、『達成者』扱いとなり、彼が割れ神になる可能性。


 ゼロではない。


 だから蘇生にも事前準備が必要だ。


 人里離れた山中で、【アイテムボックス】から来栖くんの死体を出す。

 ついでに魔王をぶっ殺した剣の他に、三本ほど別の剣を取り出し、地面に刺して準備した。

 次に、最初に取り出した剣を来栖くんの死体、その心臓にブッ刺す。


 剣を刺したまま、エリクサーを振り掛けた。


 身体が光り、エリクサーが効果を発揮する。

 来栖くんが蘇生した途端に「ガハッ」っと血を吐いた。

 まあ、心臓貫かれてるからね。


 ギロリ、と俺を見てくる。

 うん、心臓貫かれてるのに即死しない。

 念のため、個人情報開示で調べると、名前欄がバグっていた。

 読めない、依田さんの時と同じだ。

 これで割れ神ってのは確定。


 準備してあった剣を、頭、喉、腹に刺した。

 来栖くんを依り代にした割れ神は、しばらく恨めしそうに俺を見ていたが⋯⋯やがてその瞳から光が消えた。


 ほい、ミッション終了。


 剣を順番に引き抜くと、傷が塞がり始めた。

 しばらくして来栖くん本人が目覚めた。


 彼は周囲をキョロキョロと見回したのち、俺に聞いて来た。


「あの⋯⋯ここ、日本ですか?」


「そうだよ」


 ふむ。

 依田さんの時と違い、彼は死んでいたせいでずっと意識が無かったのだろう。

 割れ神からしてみれば、条件となる人数がちょうど満たされ、いきなりこっちに引きずり出されて、そのままハメ殺された、って感じだろう。


 ご愁傷様。


 もしかしたら俺の予想とは違うところもあるかも知れないが、ま、結果オーライだ。


「あの! 華は、華は、無事ですか!?」


「無事だよ。先に帰って来てる──他の仲間もね」


 来栖くんはホッとした表情を浮かべた。


「そっかぁ、帰ってこれたんだ⋯⋯」


「君がいなくて華ちゃんはつらそうだった。会いに行こう⋯⋯と、その前に」


 なんか、本当になんとなくだが、確認したくなった。


「あのさ」


「はい」


「君と華ちゃんって、恋人?」


「あ、その、はい」


「もうやった?」


「な、なな、何ですか、初対面でいきなり」


「いいから教えてくれよー。君が蘇生できたの俺のおかげだぜ? あと【転移】が使えるんだ。教えてくれたら、華ちゃんのところに送り届けてやるからさ。でさ、もうやった?」


「⋯⋯あの、まあ、はい」


 ガーン。

 コイツ非童貞リア充ー!


「よし、自分で帰れ」


「うぇえええええっ!? ちょ、ちょっと、話違うじゃないですか!」


「冗談だよ、冗談」


「ああ、良かった⋯⋯」


 チッ。

 面白くねぇな。


 なんかちょっと損した気分まであるが⋯⋯まあ、俺も童貞卒業まであと四体か。


 頑張ろ。 


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