第64話 残念勇者はモニタリングする
「灘さん、聞こえますか?」
「はい、聞こえます」
俺の呼び掛けに灘さんが応答した。
マイクテストはこれでOK。
大橋華とは灘さんに面談して貰う事になった。
女性同士の方が相手も話しやすいかも、という配慮だ。
面談場所はファミリーレストラン。
灘さんのポッケには通話中のスマホが入っていて、二人のやり取りを俺が聞きながら、イヤホン越しに質問内容などを指示をする。
また、ファミリーレストラン全面協力の元、監視カメラのうち数台を入れ替え、映像は録画されながら局へと飛ばされ、リアルタイムで確認できる。
もし大橋華が【強奪者】で、スキル使用時に特別な挙動などあればこれで解析できるかもしれない。
急拵えだが、1日でこれが出来たのはまあ頑張ったと言えるだろう。
つっても俺は指示しただけで、頑張ったのは特対のみんなだけどな。
また、灘さんも前回の依田さん同様、俺の【貸与】スキルを利用した強奪対策は施し済み。
現場での対応力は下がるが、現状有効な対策はこれしかないからな。
マイクテストが終わって10分ほど経過した頃、大橋華が来店した。
時間通りだ。
「大橋さん、こっちこっち」
灘さんの呼び掛けに、大橋華はテーブルへと歩みより、席についた。
委員長タイプというか、真面目そうな娘という印象だ。
「ごめんなさいね、依田は別件があって。話の前に何か食べる?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そう? ドリンクバーを頼んであるから、飲み物は自由に選んでね」
「はい、ありがとうございます」
返事したものの、大橋華は立ち上がる様子もない。
しばらくそのまま黙っていたが、彼女は思い切ったように口を開いた。
「⋯⋯あの、みんなのスキルを奪ったのは、私、です」
おっと、いきなり核心か。
渋谷さんと目が合う。
そのまま、灘さんに指示を飛ばした。
『もっと喋らせてください』
「そうなの? どういう事かしら?」
「⋯⋯あの、私捕まったりしますか?」
『ただスキルを取っただけなら捕まらない、と言ってください』
「ただスキルを取っただけなら犯罪にはならないわ。事情を教えてもらえる?」
「はい、あの⋯⋯私たちが修学旅行で、あっちの世界に行って⋯⋯最初に着いたのはお城でした。そこの王様から、魔族の王を倒してくれって言われて⋯⋯」
そこから彼女が話したのは、冒険のあらましだった。
生徒たちはそれぞれスキルを授かり、旅に出る事になった。
彼女自身は、回復系の魔法に関連するスキルを授かったらしい。
「それで旅を続けていくうちに、一番強い来栖くんがリーダーみたいな感じになって⋯⋯先生は、戦闘系のスキルがなかったから⋯⋯ただ、それが面白くなかったみたいです」
ふむ。
唯一の大人なのに、リーダーじゃない、か。
普通なら判断力や思考力を頼りにされて、単純な戦闘力で序列なんて決まらなそうだが⋯⋯。
「ただ、先生はこっちの世界の道具を買えるっていう事で、最初は凄く頼りにされてました。来栖くんがリーダーみたいになったのは、私と先生のトラブルがきっかけで⋯⋯」
「トラブル?」
「はい、その、あの⋯⋯私、月の物が重くて⋯⋯で、あっちの世界のものがちょっと合わなくて、恥ずかしかったんですけど、先生にお願いしたんです、そしたら⋯⋯」
そこまで話すと、大橋華は続きを話すのをためらったように黙った。
「そしたら⋯⋯どうしたの?」
灘さんが優しく聞く。
デリケートな話題だし、灘さんでよかったな。
「⋯⋯その、使用済みのものを、くれるなら、って」
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯きっ。
きっしょおおおおおおおおっ!
渋谷さんも依田くんも、さすがに頭を抱えていた。
灘さんは一言、冷たく言い放った。
「最悪ね」
「⋯⋯それで、私、怖くて泣いてしまって。ちょうど来栖くんに見られて、彼が先生を問い詰めて⋯⋯それから先生は来栖くんの言いなりみたいな感じになったんです」
「まあ、自業自得としか言えないわね」
灘さんは冷静に言っているが、かなりお怒りのご様子だ。
まあ、そりゃそうだろう。
異世界とはいえ、保護すべき生徒の弱みにつけこんで、己の欲望を満たそうとする⋯⋯。
最悪としか言えないわな。
「それからあっちの世界を冒険して、ようやく魔族の王様を倒しました。ただ、来栖くんは最後に、魔族の王様が自爆した攻撃からみんなを庇って⋯⋯死んでしまいました」
「それは前に聞いたわね」
「ただ、エリクサーがあったから⋯⋯すぐに使えば蘇生できたはずなんです。後衛の私は持ってなかったんですが、他のみんなは一つずつ、何かあったら使えって来栖くんが分配してたから」
おお、来栖くんは男だねぇ。
なんか好感もてるわ。
「それで、南くんがエリクサーを使おうとした時に、先生が言ったんです。『いいのか? それ向こうの世界だと何億円じゃきかないぞ? 後悔しないのか?』って」
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