第63話 残念勇者は新たな性癖が刺激される

 生徒達五人も『元スキル所持者』か⋯⋯。

 つまり彼らも、何者かにスキルを奪われたという事になる。


「東村さん、どうでした?」


「生徒四人もスキルを奪われているようです⋯⋯依田さん、スキルを失った時の状況は?」


「それが、学校を出るまではあったんですよ。四人と個別に面談し、その後田辺先生と話して⋯⋯学校を出て、残してあったスキル【帰還】を使おうとしたらあれ、ないぞって」


 マジか⋯⋯。

 これはかなり危険な能力だ。

 おそらく、スキルを奪う条件はかなり緩い。

 もしかしたら最悪、俺の【個人情報開示】と同様、相手を見ただけで奪えるレベルも想定しなければならない。


「まず、どういう形で面談したんですか?」


「空き教室に俺と田辺先生が並んで座って⋯⋯順番に生徒に入って貰って」


「順番は?」


「高島勇介、南健司、葛西涼、大橋華の順番に。少なくとも大橋華との面談後にはスキルはありました、【帰還】を使用せずに、行き先だけちょっと確認したんで」


「わかりました、ちょっとここまでを整理しましょう。俺が思いつく可能性から説明します」


 そのまま、三人に俺の考えを伝える。


 まず、この四人の中に【強奪者】がいる場合。


 それは、ステータスの改竄が可能、つまりチュートリアルでフローラが見せた【事象改竄】に相当する能力の持ち主がいる、という事だ。


「なるほど、誰かが【強奪】のスキルを持っているが、それを見えないようにしている、という事ですね?」


「渋谷さん、そうです。そのうえで考えられるのは、複数人が協力しているのか、または単独犯なのか、です」


 奪う役と隠す役が個別にいるのか、または一人二役なのか。

 一人二役なら、かなり発見の難易度は高い。


「えっ、でもその場合だと、全員が俺たちを騙そうと結託して、事象改竄とやらを使ってる可能性ないですか?」


「いや、アナタ自身がスキルを奪われてるでしょうが。【強奪者】の存在自体は確定です」


「あっ、そうか」


 全く、頼むよ依田くん。


「次に想定しなければならないのは、相手が『奪ったスキルを使用できるのかどうか』です」


「ああ、なるほど! 奪ったはいいが、スキル自体が流用できるかは別ですもんね」


「はい、単にスキルを奪って【封印】するだけかもしれません」


 そう、スキルを取り上げるだけという可能性もある。


「ただ、これはどうせ今は確認できないですからね。次に、四人以外に【強奪者】が潜んでいるケース⋯⋯これこそ今は確認できないので、事態が動くのを待つしか無いわけですが⋯⋯とそうだ」


「何か?」


「そもそも、この四人が『帰還者』だと分かったのはなぜなんですか?」


 そうだよ、まずはそこを確認しておかないと。

 俺の質問に答えてくれたのは灘さんだった。


「行方不明事件です」


「行方不明?」


「はい、景草高校の生徒が、修学旅行先で行方不明になりました。所轄の県警が状況から、我々『特対』へと捜査協力の要請を飛ばしてきました」


「状況?」


「彼らの姿が、他の生徒達が見ている中忽然と消えた、という話しですね」


 おお、衆目の中での転移か。

 俺の時は自宅だったからなぁ、目撃者なんていなかったが、そういうケースもあるのか。


「なるほど、なら灘さんが適任者ですね?」


「⋯⋯なぜ、そう思うのですか?」


「灘さんのスキルに【催眠】がありますからね。生徒達の記憶を少し改変したんじゃないですか? じゃないと事件後も大騒ぎじゃないですか」


「⋯⋯あの、あまり人のスキルを覗かないでください」


「良いじゃないですか、パンツまで見せてくれた仲なんだし⋯⋯」


「あの、怒りますよ?」 


「ごめんなさい」


「全く。あなたの能力は素晴らしいですが、人間性には敬意を払うのがちょっと難しいです」


 灘さんがぷいっと横を向く。

 おお、女警官のつれない態度、なんか性癖が刺激されるぜ、へへっ。


「とにかく私が状況を把握後、目撃した生徒達たちから聞き取りし、東村さんの想定通り彼らの記憶を少し差し替えました。忽然と消えたのではなく、彼らが別行動した、という形に」


「で、しばらくして彼らは帰って来た、と」


「はい。彼らが姿を消したのが14時、再び姿を見せたのは18時、約四時間後ですね。状況はある程度想定していたので、彼らの制服と、教師の分のスーツはスペアを事前に準備してました。制服は一着無駄になりましたが⋯⋯」


「一着無駄に?」


「そうです。姿を消したのは計六人。戻って来たのは⋯⋯五人です」


「残りの生徒は?」


「⋯⋯まだ、戻って来てません、いえ、彼らから聞き取りした内容だと⋯⋯戻ってくる事はありません」


「その生徒の名前は?」


「来栖翔⋯⋯彼らのリーダー格だったそうです」


 なるほどなぁ。

 てか、これ結構重要な情報だな。

 つーか、聞く前に言って欲しかったが⋯⋯まあ、仕方ないか。


 とにかく今、このスキルが次々と奪われているってのは、何かしらの『動機』がそこに存在するって事だ。

 来栖翔の存在は、その動機を絞るのに役立つかもしれない。


「なるほど、じゃあなぜ戻って来れないのか、詳しい状況を教えて貰っても?」


「あ、ちょっと待ってください!」


「えっ、依田さんなんですか?」


 依田さんは、俺に向けてスマートフォンを突き出した。

 画面には、生徒の一人となる『大橋華』からのメッセージが表示されている。




『お伝えしたい事があります、お時間を頂けませんか?』


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