第62話 残念勇者はデコイを発射する
さて、今日はデコイさんに依田してもらう。
いや違うな。
もうヨコイさんに改名して貰ってもいいな。
出勤前に【転移】で『局』へとやってくると、渋谷さん、灘さん、ヨコイがいた。
「おはようごさいます。すみません、朝早くお呼び出ししてしまいまして」
「はい、何かうちの依田に頼みがあるとか⋯⋯」
「そうなんです」
昨日田辺先生から聞いた件をざっくりと伝える。
「スキルが奪われている、ですか⋯⋯」
「一応おたずねしますが、お三方が召喚された世界で該当するケースはありましたか?」
「いえ」
「私も無いです」
「俺も知らないですね」
ふむ、どうやらやはり『割れナーロッパ』独自のスキルみたいだ。
「まず大前提ですが⋯⋯相手に邪神が混ざっていて、俺のスキルを全て奪われたら確実に負けます」
俺の確認に、三人は頷く。
「なので、私達が確認する事は二点。生徒達のうち、誰が先生のスキルを奪っているのか。また、奪う条件などがあればどういった方法なのか、です」
「なるほど、それで依田を派遣する、と」
俺の考えを読んだのか、渋谷さんが呟く。
「⋯⋯なんで俺なんですか?」
「それはもちろん、一番弱いからです。ぶっちゃけて言えば、スキルを盗まれた所でこちら側の影響が少ない、という事ですね」
「そんなぁ、それじゃまるで囮じゃないですか」
そこはデコイって言えよ、ヨコイ。
俺の心の声は無視して、デコイが続けた。
「そもそも、じゃあそれで俺のスキルが奪われたとして⋯⋯戻ってくるアテはあるんですか?」
「ないです」
「ええっ⋯⋯」
「ただ、出来るだけの対策はします。ここからは複雑になりますが⋯⋯俺の【スキル貸与】を利用します」
「スキルを貸し出すスキル⋯⋯ですね?」
「はい。この【スキル貸与】自体を依田さんに貸します」
「そ、そんな事できるんですか?」
「はい、可能です。それで依田さんは灘さんに【スキル貸与】を使って何か一つスキルを残し、それ以外を貸します。それを確認してから俺が【スキル貸与】を回収し、戦闘にそれほど使用しない⋯⋯そうですね、【異界語理解】あたりを依田さんに貸し出します」
「⋯⋯んん? はい」
「この時点で依田さんに残っているスキルは【残したスキル】と、俺の【異界語理解】という事になりますね? そのまま学校へ行って貰います」
ここまで説明すると、渋谷さんが手を打った。
「なるほど⋯⋯盗まれても、戦闘にあまり影響の無いスキルだけを依田に持たせて行く、と」
「そうなります。これには2つの実験があって、スキルを他者に貸し出している場合、そのスキルは奪われないのか、また借り受けているスキルも、同じ様に奪われるのか、です」
まあ、これでどうなるかは結果を見ればいい。
これで相手の【スキルを奪う】というのがどこまでの範囲か特定できるだろう。
それによって、本番の戦闘でも色々な対策が可能になる。
もちろん、今回相手が動くかどうかは不明だが。
一つの可能性として『相手がスキルの内容を確認して、任意の物を奪う』とした場合、今回は動かないかも知れないが⋯⋯その場合あえて死にスキルの【異界ショッピング】を盗んでいるのも意味が不明だ。
その事からも、恐らく相手のスキルを無差別に奪う物だとは思うが⋯⋯結局考えすぎても答えがでるわけでもない。
とにかく、こちらが先手を打つのが今は重要だろう。
「今回の訪問の真の目的は、生徒達とメッセージアプリかSNS上の連絡先を交わして貰う事です。それがわかれば、俺の方で色々と対策が打てます」
「そんな物で?」
「はい。情報を集めるのに絶対必要です」
それさえわかれば、俺がワザワザ出向く必要も無くなる。
個人情報の一網打尽だ。
奪うスキルの所持者、その特定も容易になるだろう。
「はい⋯⋯まぁ、わかりました」
依田さんがやや緊張した様子で答える。
まあ、この中に割れ神⋯⋯彼らから見れば邪神がいるかも知れないわけで、戦闘に自信のない依田さんの気持ちもわかるが、まあ頑張ってもらうしかない。
生徒達は4人。
男女の内訳は、男子生徒三人と女子生徒一人。
高島勇介、南健司、葛西涼、大橋華の4人だ。
────────────
夜になり、仕事を終えた俺は再び『局』を訪問した。
さて、ちゃっちゃと済ませて美沙ちゃんが作った晩御飯が食べたい。
「こんばんはー」
俺の挨拶に返事はなく、デコイ依田が慌てたように言ってきた。
「東村さん! ヤッパリスキル取られちゃいました!」
「えっ、マジですか?」
「はい、俺のスキルと、東村さんに借りたスキル、その両方が」
ふむ。
ならまずは【回収】を試みよう。
⋯⋯ダメだ、戻って来ないな。
「俺のスキルは回収できないみたいです。依田さんにまた【貸与】を貸し出すので、灘さんからスキルを回収してみて下さい」
貸与スキルを依田さんに貸し出した。
「はい⋯⋯初めての事なので、ちょっと手こずるかも⋯⋯あ、返ってきました!」
なるほど⋯⋯これで判ったのは、相手のスキルを奪う能力、仮に【強奪】とした場合、対象は【相手がその時所有しているスキル】という事で確定だな。
「よし、わかりました。次に、彼らの連絡先ですが」
「はい、こちらに」
依田さんがスマートフォンを差し出してくる。
昼に契約し、普段彼が使っている物とは分けて貰っている。
メッセージアプリの連絡先を開いてもらい、それぞれのアカウントに【個人情報開示】をかけていった──のだが。
──全員、『元スキル所持者』と記載されていた。
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