第61話 残念勇者は推理する

 スキルを奪う、か。

 少なくとも俺は知らないな。

 もう少し田辺先生に事情を聞こう。


「なるほど。ちなみに、田辺先生はいくつほどスキルを持っていたのですか?」


「3つです、身体強化と回復魔法、あとは【異界ショッピング】ですね」


「異界ショッピング?」


「はい、ステータス画面にショップが表示され、現地通貨でこちらの世界の商品が購入できました」


 うお、なんだその便利なスキルは。


「ただ、こちらに戻ってからは使い道が無く⋯⋯死にスキルですね」


「こちらから異世界の物は買えない?」


「はい」


 ふむ、なら本人が言うように、今はもう使い道が無いな。

 ただ、明らかに異様なスキルだ。

 割れナーロッパならでは、なんだろうな。


「ちなみに、スキルを奪われたのは同時ですか? それとも一つずつですか?」


「同時でしたね」


「状況を説明できますか?」


「それが⋯⋯気がついたら、という感じで」


「わかりました。田辺先生にお願いがあるのですが」


 まず、疑わなければならないのが、田辺先生が俺に真実を告げているかどうか、だが。

 それはここで話を詰めても無理だろう。


「はい、何でしょう」


「明日の放課後、生徒達を集めて貰えませんか? 個別に聞き取りしたいのですが⋯⋯」


「はい、手配します」


「ありがとうございます、それでは今日はこれで私も帰ります」




──────────



 自宅に戻り、状況を整理する。


 とりあえず、まず最初にやるべき事は全員の【個人情報開示】だが⋯⋯。

 まず俺にとって最悪のケースは


『この中に割れ神がいない』


 だ。

 

 おそらくクラス転移という状況や、スキルの独特さから考えれば、彼らが召喚されたのは『割れナーロッパ』で間違いないだろう。


 ただ、その上でフローラが言った条件。


『一定数以上の召喚が行われて初めてプロテクトが作動し、割れ神はこちらの世界に引っ張られる』


 今回これが満たされている、とは限らない。

 ここが面倒な所だ。


 そして他者から『スキルを奪う』。

 ちょっとこれは強力過ぎるな。


 俺の【スキル貸し出し】も大概ぶっ壊れだとおもうが、これはもうその比じゃない。


 田辺先生の言う『同時』が、特別な条件もなく、無制限に相手からスキルを奪えるという事なら、ほぼ無敵のスキルだろう。

 仮に条件が必要だとすれば、その条件を知る事が攻略の鍵になる。

 ただ、俺が学校にノコノコ現れる事こそが、『スキルを奪う』という条件を満たすとしたら?


 俺は最悪、割れ神など関係なく、スキルを奪われる可能性がある、という事。


 それはイヤだ。


 これは事前に、誰が使うのか特定できればベストだが⋯⋯。


 よし、ここは生贄作戦だ。

 そんな役目は依田くんあたりにやって貰おう。

 スマホを取り出し、電話する。

 ほとんどコールされる事なく、依田くんが応答した。


「あ、東村さんこんばんは」


「あ、夜分すみません。先ほど田辺先生とお話ししたのですが、結構面倒な状況らしくて」


「面倒ですか?」


「はい。それで明日なんですけど学校に行って貰いたいのですが⋯⋯その準備に、明日朝一で局に行きますので。詳しい事情はその時に」


「⋯⋯? わかりました」

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