第57話 残念勇者は考えるのをやめた

 俺の解説が終わったあとは、今後の話し合いだ。

 まず、依田くんの扱い。


 依田くん自体は今後も『特対』として働く事を希望した。

 これに関しては俺が関与する事じゃない。

 組織の人間が判断すればいい、と思っていたが。


「東村さんはどう思いますか?」


 灘さんに意見を聞かれた。

 意見を聞かれたなら、もちろん話すべきだろう。

 俺に相談するってのは悪く無い流れだ。


「良いんじゃないですかね? そもそも【スキル】持ちが希少という事みたいですし、そちらも人員が渋谷さんと灘さんだけで回ります?」


「普段の業務は⋯⋯あ、ただ、『来訪者』対応は依田くん無しだとちょっと難しいですね。私も灘も言語系の【スキル】が弱いですし」


 渋谷さんが横から入ってくる。


「なら、依田さんにはこのまま継続してもらうのがいいんじゃないですか?」


「そうですね。ちょっと上司ともその方向で調整しようと思います」


「上司?」


「あ、といっても『ウチ』の上司は総監だけですけど」


「なるほど。あ、ただ依田さんの通信関係は洗った方が良いと思います」


「ああ、そうですね」


 渋谷さんが頷く。

 うん、話しが早くていい。


「どうしてでしょう?」


 灘さんは、ちょっと脳筋気味かな?

 まあ、仕方ない。


「結局、さっき言った『邪神』ですが、それぞれがどんな活動をしているか現時点では不明だからです。ニートかも知れないし、政治家かも知れない。単独で動いているかも知れないですし、もしかしたら連携している者もいるかも知れない」


「それはわかりますが⋯⋯」


「で、もし連携している⋯⋯『組織』があった場合、依田さんは警察の動きを彼らに伝えるスパイだったかも知れないですよね? で、今後その情報が入ってこないとなると、相手も警戒するでしょう」


「なるほど、依田くんがスパイだった場合、彼らに繋がる情報があるかも知れない、と」


「そういう事です。チュートリアルは終わってここからは俺たちで邪神探ししなきゃいけないんですが⋯⋯」


 フローラをチラッと見る。

 相変わらず表情はあまり変わらないが、面白がっている感じだ。


「大体次のヒントってのは、チュートリアルから繋がってますからね」


 まあ、全然手探り状態で捜さなきゃならんかも知れないが、今できる事はそのくらいだろう。



「あとは⋯⋯そうですね、帰還者や来訪者、それぞれの国内での立場についてお話しさせて頂けますか?」


 依田くんの件はとりあえずここまで、という感じで渋谷さんが確認してきた。


「よろしくお願いします」


「まず、帰還者、来訪者、それぞれ政府としては『保護すべき人材』という位置付けです」


「でしょうね」


 まあ、できれば管理したいんだろうけどね。

 他国との力関係を考えれば、いかに『スキル持ち』を手元に置いておけるか、というのは重要だろう。


「なので表向きに明言はできませんが、来訪者には日本国民としての立場を与えています。これは他国に人材を取られないためですね。日本政府のスキル持ちへの厚遇っぷりは、他国と比較しても見劣りしないと思いますよ」


「なるほど、まあその辺の細かい話は後日教えて下さい」


 あとはそうだ、彼女に確認しておかないと。


「フローラ、君はどうするの? 一回戻る?」


「ううん。こっちに残るわ⋯⋯ほら、約束もあるし」


 うむ。

 ここで戻るを選択したら、嘘くさいから『割れ神』退治なんて本腰入れなかっただろうな。


「なら、とりあえず東村さんが身元引受人になって頂けないでしょうか?」


 渋谷さんから提案される。

 まあ、今日のところはそれしか無いだろうな。

 ホテル住まいとかさせてもねぇ。


「わかりました。今日のところは話しはこの辺ですかね?」


 俺が確認すると、灘さんが首を振った。


「いや、私の下着画像消してください」


 こだわるねぇ。

 いいじゃん、そのくらい⋯⋯。


「消してあげなさいよ、忠之」


 フローラが口を挟んできた。

 俺が余計な事いうな、と牽制しようとすると⋯⋯。


「私が代わりに、アナタのリクエストに応えた写真を一枚撮らせてあげるから」


「えっ?」


「これから頑張って貰うんだから。その手付け代わりに、ね? だけど一枚だけよ?」


 おお、女神よ。

 疑ってすみません、アナタはやはり女神でした。

 俺はスマホを素早く取り出し、灘さんに見せながら写真を消去した。


「ほら、消したよ! 君の画像はもう用済みだから!」


「⋯⋯なんか、それはそれでムカつくわぁ」


 女心って、複雑だな。






 三人を警視庁まで【転移】で送ったのち、フローラと俺で自宅の前に戻った。


「ちょっとここで待ってて! 片付けるから!」


「えー? 気にしないのに」


「俺が気にするんだよ!」


 鍵を開け、自宅の中に入る。

 部屋に散らばった薄い本やらエロゲパッケージやらを次々アイテムボックスにしまう。

 よし、準備完了だ。


「よし! いいぞ!」


「おじゃましまーす」


 フローラはちゃんと靴を脱いで部屋に入ってきた。

 手を後ろで、指同士を絡めるようにしつつ、キョロキョロしたあとで言った。


「へー、ここが忠之の部屋かぁ」


 うっせ、何だそのやっすいアニメの1シーンは。

 どうせ見てたんだろうが、白々しい。

 

「よし、脱げ!」


「あら。単刀直入ね?」


「いいから! いいから!」 


 フローラを急かしながら、俺も服を脱いでいく。


「いや、なんでアナタも脱ぐのよ」


「盛り上がりたい! 盛り上がりたい! 撮影者側の服装指定は無かったはずだ!」


「⋯⋯本当、忠之って面白いわぁ」


 フローラが上着に手をかけた。

 はらり、と下に落ちる。


 その間に、俺はパン1になった。

 フローラ姫のアバターも、女神ほどじゃないがそれなりに豊満だ。


 胸を包む下着がもどかしい。


「早く! 早くそれも外して! はよ! はよ!」


「ふふふ、焦らないの」


 構造がこちらの世界のものとはややちがうのだろう。

 ホック外してはらりって訳ではなさそうだ。

 フローラは肩紐を左右外しつつも、片方の手で下着が落ちないように抑えていた。


「その手を、早く、早く、外してくれ!」


「ふふふ⋯⋯」


 フローラがゆっくりと手を動かす。

 下着に包まれた双胸、その頂点が見えそうになった、正にその時──。


 ガチャ。


「忠之にいちゃん! 夜ご飯だよ!」


「こら淳司、勝手にドアを開けちゃだめよ!」


 カシャ。

 驚き過ぎて、俺はシャッターボタンを押してしまった。


 フローラも驚いたのか、下着をパッと抑えた。

 美沙ちゃんは素早く状況を察し、淳司くんの顔を抑えて視界を塞いだ。


 部屋は、半裸のフローラ、スマホを構えたパン1の俺、それを見る美沙ちゃん、響くシャッター音。


 地獄かな?


 しばらくそのまま全員固まっていたが、美沙ちゃんはそのまま一言も発さず、ガチャりとドアを閉めて退出した。


 さて、なんて言い訳しよう。


 ⋯⋯色々考えてはみたものの何も思いつかず──そのうち考えるのをやめた。


 いまはそれよりも、だ。


「じゃあさっきのはノーカンって事で、改めて撮影しなおそっか?」


「いや、追いかけなさいよ。バカなの?」


 ごもっともで。

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