第56話 残念勇者は解説する

 戦闘終了に伴い【聖域】は解除した。

 それぞれ席に座って貰い⋯⋯依田くんが血塗れ服でざっくり胸元なのは笑えるが、まあ我慢してもらおう。


 まずは依田くんに、現状についての認識を聞く。

 俺の話はそれ次第だ。


「うっすらとですが⋯⋯特対として活動していたという認識はあります。ただ、俺の中にいた存在が、何を考えてたとかは、あまり記憶が無いですね」


 ふむ。

 記憶がハッキリしないとな?

 恐らく脳に残った記憶を多少引き継いでる、ってところかな?

 これは好都合だ。


 フローラから聞いた話を少し脚色して伝える。

 『真実撮って出し!』は避けた方が無難だろう。


 ──女神が、自らの力の為に異世界テンプレ配布して、人類の拉致を推奨してるなんてのは、いらぬ反感を生みそうだからな。


 異世界は皆さんの想定通りゲームである事。

 それは女神がゲーム好きということもあるが、本来は選ばれた人々に【スキル】を与え、人類を次のステージに導くためである事。

 だが、一部の神はシステムを悪用し、人類の意識を捕らえ、代わりに自らがこの世界に『邪神』として顕現しつつある。

 その目的は人類滅亡である。


 そんな人類を救うため、最高難易度ヘルモード制覇を果たした俺に、救世主として白羽の矢がたった。

 フローラはそれを伝えるために、この世界にやってきたのだ!


 


 うん、脚色どころではない。

 ほぼ嘘だ。


 なぜかと言うと、警察コイツらを俺の手足として利用するためだ。

 今後は、人類滅亡を阻止せんとする救世主様に、積極的に協力して貰いますよ? ふっふっふっ。


 まあ、人類の正義のために努めるのも、俺の『性技』のために努めるのも、ひらがなにすれば変わらんやろの精神だ。


「話はだいたい分かりましたが⋯⋯彼女が嘘をついている可能性は?」


 渋谷さんが確認してくる。

 うん、当然の心配だろう。


「無いですね。俺が【スキル】で確認しました。まあ、俺が嘘をついているとか、操られているとかまで心配されたら証明のしようがないですけど」


 まあ、嘘なんですけども。


「わかりました。全面的な信用⋯⋯とは行きませんが、取りあえずできる範囲で協力します」


「ありがとうございます」


「ちなみに⋯⋯なぜ依田くんが、その邪神だと分かったのですか?」


「それは言えません」


「なぜですか?」


「渋谷さんが俺を全面的に信用できないように、俺もあなた方を全面的に信用した訳ではありません」


「まあ、それはそうでしょう」


「あ、別に俺に対して悪意があるなしにかかわらず、です。あなた方自体がそれとは知らず、邪神に利用されている可能性もあります。なら、俺の考え方が相手に筒抜けしてしまう可能性がある」


「それは⋯⋯否定できませんね。実際、依田くんを利用されていた訳ですから」


「と、言いたい所なんですが⋯⋯まあ、話しましょう」


「⋯⋯良いんですか?」


「ええ、信用ってのは少しずつ積み上げる物でしょう? だからまずは、私から情報を差し出しましょう」


 渋谷さんは、梁島のオジサンと俺のエピソードに感心するような人だからな。

 全くの嘘とは言わないが、オジサンにいまさら手を出さないのは、ハッキリ言って面倒が勝ってるってのが主な理由だ。

 だけどああいうエピソードを話せば、俺の事を悪くは思わないだろう⋯⋯という計算が働いたのも事実だ。


 誠実な人間だと思わせたうえで、まずは貸しを作るとするか、って感じだ。


「まず、異世界がゲームであるという情報を聞いて、俺は考えました。『では、この状況をゲームとして⋯⋯つまり、ゲームクリア後のサブイベントとした場合、どうなのか?』です」


「今の状況自体を、ゲームだと?」


「はい。その場合、不自然な点が幾つかありました。今確認すると『依田開成』となってますが、朝の時点では、依田さんの名前は違いました」


「えっ⋯⋯」


「だからこの署に着いた時に、渋谷さんが『朝の局員の依田が』と言った時に、俺はおかしいと思ったんです。渋谷さんや灘さんは俺が確認した通りの名前なのに、依田さんだけ偽名? そんな事するのかなっ? って」


「なるほど⋯⋯」


「で、ゲームだとした場合、制作者の意図は明白です。『俺と依田さんをすぐに出会わせたくなかった』、だからフローラをわざわざ新潟に遣わせ、依田さんとあなた方を別行動にした。俺がいきなりお三方と戦闘する可能性もありましたからね? 実際渋谷さんの事は蹴り飛ばした訳ですし」


「確かに、あの状況だと『来訪者』への接触は依田くんに任せる、ほぼ一択です」


「ま、その場合でも灘さんを【呼び寄せ】で呼び出した際に、依田さんも⋯⋯って可能性もあったのでしょうが、そこは俺の性格を読まれたんでしょうね」


 男二人とか、三人全員とかって状況は無意識に避けたんだろうな、俺も。


「で、俺は渋谷さんたちから異世界での出来事が、ある種の『ゲーム』だと知り、フローラからも『女神様はゲーム好き』だと聞いた。それで思ったんですよ、今の状況はきっと『邪神捜索チュートリアル』だと。なら、違和感を覚えた依田さんが、チュートリアルボスだ」


「⋯⋯」


「で、あとは渋谷さんにやったのと一緒。渋谷さんも、俺が背後から現れた時に、思わず手が出たでしょう? 強い奴ほど、戦闘の雰囲気に敏感ですからね。俺が戦闘態勢を見せたとたん、ボスは正体を現した、という訳です」


「じゃあ、本当の意味で確信したのは⋯⋯」


「もちろん、依田さんがピストルを抜いた瞬間です。だけど、試すだけならタダでしょ? 違ってれば『てへへ』って頭でも掻けばいい」


 まあ、フローラの態度や言動から、ほぼ確信してたけどな。

 そこまで話してしまうと、フローラが女神だと伝える必要が出てしまう。

 なら、試したって話しにするのが無難だ。

 

「なるほど⋯⋯いや、凄い。これが最高難易度ヘルモード達成者か⋯⋯」


 渋谷さんと、その隣で聞いていた灘さんが感心したように頷いている。


 うーん、気持ちいい!

 実は自慢したかったから、選択肢として話さないは無かったんですけどね!

 酔って武勇伝語るオッサンって、こんな気持ちなんだろうな!


 ⋯⋯それだとなんか一気にショボいな。


 チラッとフローラを見る。

 表情は変わらないが、どこか満足げだ。



 まあ、本当にこれが彼女の仕掛けた『ゲーム』なら──。


 割れ神全部倒したら、『引っかかったわね!』とか言いながら正体現すんだけどな。


 まあ、その正体はできればベッドの上でお願いしたいね。

 メチャクチャ感じやすいド淫乱とか、さ。


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