第55話 残念勇者は数を決める

「3!」


「6!」


「せめて4!」


「6!」


「俺にしかできないんでしょ? なら5!」


「全部なんて贅沢コースなんだから6!」


「ずるいぞ! 全部はそっちの提案だ5!」


「なら、全部はやめる? 6!」


「全部をやめるは無理! 5!」


「ならむしろ増やす? あなた好みの女性芸能人アバター付き7!」


「やめろぉおおおっ! 増やすな! 抵抗できなくなるだろうが! わかった! 女神、フローラ姫、美沙ちゃんの3つで6!」


「ふん、最初から折れときなさいよね」


 くっ、なんてヤロウだ。

 俺の柔らかい所を理解してやがる。


 激しい交渉の結果、俺がブチ殺すべき『割れ神』は6に決まった。


「でもさ、世界中に散らばってる割れ神殺すなんて、冷静に考えたら面倒だな⋯⋯」


 良く考えたらコレ、労働と報酬見合ってるのか?

 俺、コイツに搾取されてね?


「あら。女神の処女奪いつつ童貞捨てられるなんてなかなか無い機会よ? それとも私じゃ不満?」


 女神が胸の下で支えるように片手を滑らせながら、しな・・を作る。

 ゴクリ。


「いえ! 一切不満はありません! 流石は試練と謎とドスケベの女神様です!」


「こら、ドスケベ足すな」


「スミマセン、ドスケベ女神様」


「こらこら、試練と謎を引くな」


「⋯⋯ちなみなんて呼べば?」


「んー、この姿維持するのにちょっと力を使うから⋯⋯えいっ」


 ボン、とまた煙が立ち上り、フローラ姫の姿に戻る。


「とりあえず力の消費を抑えたいから、このアバターで活動するわ。あと、割れ神との戦闘には私の加勢は期待しないでね?」


「はーい。じゃあフローラ姫⋯⋯いや、いちいち姫付けるの面倒なんでフローラでいいですか?」


「ええ。いいわよ」


「で、なんかあります? その割れ神って奴の見分け方とか」


「あるけど、自分で見つけてね? 答えを言うのは主義じゃないわ」


 さっきまで散々ドヤ顔で説明してたくせに。

 面倒くさい奴。


「せめてヒントは?」


「そうねぇ⋯⋯割れ厨とはいえ神だから、信者でも集めてるかもね? それに向いたスキルとかもあるし。もちろん全員じゃないけど」


「ふむ⋯⋯」


 信者か。

 そう言えば⋯⋯出会い系やってた時、結構それっぽい勧誘してくる奴いたなぁ。

 出会えそうな雰囲気出してきたと思ったら、信じる神とか、夢を叶えよう、目指すは不労所得とか言い出したり、アフィリエイトやるだけで1日数万稼げるとか。


 あれも信者集めっちゃ信者集めだよな。

 

 すぐマルチの勧誘だって切ったけど、その辺探ってみるか⋯⋯。


「あと、日本国内だけでも目標は達成できるわ」


「そうなの?」


「うん。日本人はRPG好きが多くて、ナーロッパ世界との親和性が高いの。だから召喚候補地として人気よ」


 うーん、それはどうなんだろ。

 要は拉致られやすいって事だろ? 迷惑な話でもあるな⋯⋯。

 まあいいか、俺が楽できるんなら。


「あと割れ神ってのは強い?」


「まあ、人間と入れ替わってるとはいえそこは神だからね? 力はセーブされてるけど⋯⋯まあ、あなたが戦った魔王くらいを想定して貰えればいいんじゃない?」


 いや、俺そんな奴と戦わされたのか。

 神と同等とか、普通のゲームなら裏ボスとかじゃね?


「まああなたには⋯⋯彼らの言い方に合わせるなら『最高難易度ヘルモードクリア特典』もあるし」


「クリア特典?」


「この世界に合わせて【スキル】が進化するわ」


 おお! 鑑定や転移が進化したのって特典だったんだ!


「ああ、あれそうなんだ⋯⋯んじゃ、とりあえず、いったん聖域を解除しますね」


「ふふ、いったん? 流石ね」


 流石ときましたか。

 なら間違いなさそうだ。

 聖域を解除し「渋谷さん良いですよー!」と外へ声を掛ける。

 渋谷さん、灘さん、依田くんの三人が入室してくる。


「どんな話になりました?」


 渋谷さんの問いには答えず、俺は再度【聖域】を展開し、【アイテムボックス】から剣を取り出した。


「渋谷さん、灘さん、防御に専念して。死なないでね」


 俺の態度と言葉に、戦闘開始を確信したのだろう。

 依田が──懐からピストルを抜き、姿を消した。


 俺も後方2メートルの位置に【転移】する。


 パンッ!


 転移した依田は、直前まで俺の頭があった場所に向けて発砲した。


 ズンッ。


 俺は更に後ろから依田の頭に、柄で止まるまで深々と剣を突き刺した。


「【転移】を戦闘に組み込むなら当てずっぽうはダメだせ? 神様」


 相手は神。

 これが致命傷とは限らない。

 何らかのスキルで延命したり、この攻撃を無効化する可能性もある。


 俺は剣を左手で持ち、右手を依田の顎に添えた。

 剣の柄を左方向に、顎を手間に引っ張る。

 ムリヤリ右を向かせるような感じた。


 ゴキゴキゴキゴキ。


 首が稼動域を越え、依田の顔が見えた。

 まだ目がこちらを捉えている。


 依田は腕を振り上げて肘を曲げ、俺の顔に狙いを定めた。

 右手を顎から放し、依田の手首を掴む。

 銃口を依田の顔に向けた瞬間、また『パンッ』と発砲された。

 左目あたりに着弾すると、依田の右手から力が抜ける。

 俺は左手を剣から放しつつ、右手でピストルを奪った。

 そのまま左手で髪を掴み、右手のピストルを依田の口に突っ込む。


 パンッパンッパンッパンッパンッパンッ。

 カチン、カチン。


 銃弾が切れたピストルを捨て、剣を両手で握り直して一度引き抜いて振り上げ──そのまま振り下ろし、依田の身体を両断する。

 依田の身体が、中心から真っ二つに分かれた。


 ドンッドンッと僅かな時間差で倒れた依田を確認してから、フローラに聞いた。


「これで大丈夫?」


「うん、完璧よ」


 フローラが満足そうに頷く。

 よし、まず一体目だな。


「ちょっ──」


「何を──!」


 渋谷さんと灘さんが驚きの声を上げる。


「ひ、東村さん! これはどういう事ですか!?」


 渋谷さんと灘さんが詰め寄ってくる。


「あの、流石に目の前で局員殺されたら、私達も見逃す訳には行きませんよ!? まあ、アナタをどうにかする方法なんて思いつきませんが──」


「いや、彼女の話が本当なら、これで大丈夫なはず」


 俺達が話していると、依田くんの身体がプルプルと震え、切断面がビターンとくっ付く。

 渋谷さんはあっけに取られ、灘さんがその不気味さに「ナニナニナニナニ!」と狼狽していた。


 顔の傷も、時間を巻き戻すように塞がっていく。

 流石に服は修復されないが、まあそれは仕方ないだろう。


 完治した依田くんは立ち上り、周囲をキョロキョロと見回したのち、俺に向かって頭を下げた。


「あの! 助かりました! 本当にありがとうございます⋯⋯! もう戻れないと諦めてました!」


「よかったね」


 復活した依田くんを見て、渋谷さんが思わず呻く。


「ど、どうなってるんだ⋯⋯?」


「あ、ちゃんと説明しますね」


 『第一割れ神』との戦闘は、アッサリ終わった。

 これで残り5体か。

 この調子でサクサクと進めばいいんだが。

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