第52話 残念勇者は唯一無二

 フローラ姫!

 ああ、俺を心配するあまり来てくれるなんて!


 とは、全然ならない。

 なるわけがない。


 なぜフローラ姫が?

 どうやって来たのかってのもそうだが、嬉しいより、ぶっちゃけ怪しい。


 それは、俺があの世界を去る時のやり取りだ。

 俺は女神の胸を揉んだ。

 それはもう揉みしだいた。

 その上、何故か俺の事情を把握しているような言動。

 そこから類推するに──姫はあのドスケベ女神から、何か言い含められている可能性が高い。


 なにより聖女ってのは、女神の使徒だからな。

 ボソッ『個人情報開示』。


 俺は小声でスキルを発動した。



本名:フローラ・メルニァール・ガルドレア【タップで画像表示】

性別:女

年齢:18歳【タップで生年月日表示】

国籍:ガルドレア王国

身長:163cm

体重:48kg【タップでスリーサイズ表示】

職業:聖女

住所:不定【ログアウト状態】

電話番号:なし

家族構成:父、母、兄二人、妹、弟

特記事項:処女、本世界では無職、スキル所有者【タップでスキル詳細】


 なんだ?

『住所:不定【ログアウト状態】』なんて表記は初めて見るな⋯⋯。



 特記事項にある、スキル詳細をコッソリタップする。

 ズラズラ並ぶスキルの一番下に、気になる表記があった。


【聖魔法Ⅳ】【身体強化Ⅱ】

【経験値取得増加Ⅲ】【聖域生成Ⅳ】

【歴史知識Ⅳ】【祈祷Ⅴ】

【詐術看破Ⅱ】【思考速度強化Ⅲ】

【称号付与Ⅳ】【招魂Ⅳ】

【幻術Ⅳ】【事象改竄Ⅴ】

【女神託宣Ⅴ】


 女神託宣。

 やはり女神から何かしら助言を受けている⋯⋯。


 しかし気になるのはやはり『ログアウト状態』だ。


『フローラ姫、ご無沙汰してます。いきなりですが⋯⋯ログアウト状態という言葉に聞き覚えは?』


『ログアウト状態? いえ、私にはよくわかりません』


 ふむ。

 なら専門家に聞いてみるか。


「渋谷さん、彼女はフローラ姫。俺が召喚された世界にいた人なんですが⋯⋯ログアウト状態ってなんだかわかります?」


「ログアウト状態!?」


 渋谷さんは驚き、他の局員三人と顔を合わせる。

 何か知ってそうだな。


「あの東村さん、それはどこから入手した情報ですか?」


「んー⋯⋯まあいいや。俺、相手の情報がある程度わかるんですよ。それでフローラ姫を鑑定したら『ログアウト状態』って」


「なるほど⋯⋯続けて質問すみませんが、東村さんは『女神』という存在について、何かご存知ではありませんか?」


「ん? ご存知も何も、みんなアイツに呼ばれたんじゃないの?」


 俺が答えた瞬間、三人の顔色が変わった。


「まさか⋯⋯この人が!」


「なるほど、だからあの強さか⋯⋯」


「す、すげー! 会えると思ってなかった!」


 灘さん、渋谷さん、依田にそれぞれ驚かれる。

 その後、渋谷さんは何か考えている様子だったが⋯⋯。


「すみません、東村さんにお伝えしたいことがあります。我々が行った『異世界』について」


「局長、いいんですか?」


「ああ。東村さんは⋯⋯信用できる人だと思う」


 いや渋谷さん。

 勝手に信用されても困るんだが。


「なんでそう思うんですか?」


 俺の質問に、渋谷さんは頷いた。


「ビルの屋上のやり取り⋯⋯あれは、東村さんがその気なら私は死んでいます。だって空に向けてわざわざ蹴らなくても、隣のビルにでも蹴られてたら即死でした。つまり東村さんは、無闇に人を殺める方じゃない」


 うむ、その通りだ。

 鷹司は二回殺したけど。


「本来なら、ハッキリ言って我々なんか殺して、隠蔽した方が楽でしょう。なのに相手に一度警告し、今もこうやってお付き合い下さってる。私が信用する理由はそこです。何より⋯⋯」


「何より?」


「梁島さんの話をしていた時のアナタから感じた、勘ですね」


「なるほど」


「だから⋯⋯灘くんのパンツ画像は消してくれませんか?」


「それはヤダ」


「いや、消しなさいよ」


 灘さんが半眼で呻いたが、ここはスルーだ。


「ごめん依田くん、県警の方に会議室をお借りしてきて」


「はい」


「東村さん、詳しい話はそこで」


「了解」


 フローラ姫は、話が理解できないだろうに、俺たちのやり取りをニコニコと眺めている。

 相変わらず美人だ。

 そして、世話になった彼女を疑いたくはないのだが⋯⋯。


 俺は最愛の女に裏切られたばかりでね。

 ここは慎重にいかせて貰う。


「局長、会議室借りてきました」


「ありがとう。では東村さん、移動しましょう」


 そのまま全員で会議室に。

 フローラ姫もついてきた。


 席に座ると、渋谷さんが切り出した。


「東村さん。これからお話しするのは、帰還者たちの話を総合し、我々が立てた仮説です。違っている可能性もありますので、それだけはご了承ください」


「うん、了解」


「まず⋯⋯我々の間では、異世界というのはある種の『ゲーム世界』なのではないか? と考えられています」


「ゲーム世界?」


「はい。これを『異世界=ゲーム仮説』という、各国でも主流な考え方になります⋯⋯東村さんはゲームにお詳しいですか?」


「まあ、それなりに」


「では、『RPGツクレール』というソフトをご存知ですか?」


「知ってるよ。自分好みのRPGを作れる⋯⋯って奴だよね?」


「その通りです。そして我々の間では異世界とは『超常の存在』が、『同じツールやテンプレート』を使って作成した、ある種のゲーム世界なのではないか? と考えていました」


「うーん、なんか突拍子もない話ですね」


「はい。ただ、まずわかっている事として、異世界は複数あります。私や灘、あと依田は、それぞれ別の世界に行きました」


「ふむふむ」


「しかし、それぞれが違う世界にもかかわらず、複数の共通点がありました。まず、中世ヨーロッパを模した世界だという点、これは『なんとなくヨーロッパっぽい』という事で、我々は『ナーロッパ世界群』と呼んでいます」


「ナーロッパね、了解」


「そしてもう一つ、大きく共通した点が⋯⋯」


「『スキル』でしょ?」


「はい、その通りです。別々の世界なのに、スキルの呼称は統一されてました」


 確かに、スキルの呼び名が統一されているのはあまりにも不自然だ。

 ゲームなら、例えば回復魔法一つ取ってもドラクエなら「ホイミ」、FFなら「ケアル」といった形で名前が違う。


 それが恐らくこの三人や、他の帰還者たちから集めた情報で、スキルの呼称が共通だとわかったのだろう。


「これが、異世界が同じツールを用いて作成されたと推測される理由となります」


「テンプレ異世界ナーロッパって事ね、了解」


「そして、私たちは『召喚』という方で、このゲーム世界に喚ばれた『プレイヤー』だという事です」


「なるほど。で、ゲームクリアの報酬として、スキルやら異世界のアイテムが手に入るって考え方ね」


「話が早くて助かります。そして、ここからなんですが⋯⋯恐らくそれぞれの異世界には『難易度』が設定されています」


「そうなの?」


「はい。我々の集めた情報だと、恐らく私や灘が召喚された世界の難易度は『ハードモード』、依田くんは『ノーマル』または『イージー』だと推測されています」


「へえ⋯⋯じゃあ俺もハードモードかな?」


「いえ」


「?」


「さらにここからなんですが⋯⋯私や灘、依田の世界には共通の神話がありました。『女神による創世』です。女神を創造神として信仰する⋯⋯しかし、私たちを呼び出したのは、男性神ないしは、現地人による召喚の儀でした」


「⋯⋯じゃあ、あなた達は女神に会ってない?」


「はい。そこで我々はこう考えました。この女神こそが、いわば『異世界ツクレール』の制作者なのではないか、と。そして先ほどの『ログアウト』の言葉で、この『異世界=ゲーム仮説』はかなり補強された、と思います」


「⋯⋯」


「つまり東村さん、我々の仮説が正しければ、あなたは──」


 渋谷さんは一度目を閉じ、唾をゴクリと飲み込んでから、再び目を開いて告げた。



「ツール制作者が自ら作成したゲーム⋯⋯我々が存在のみを推測していた、『最高難易度ヘルモード』を⋯⋯唯一クリアした『達成者』です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る