第53話 残念勇者は謎解きをする

 最高難易度ヘルモードか。

 確かに、あれがゲームだとすれば相当クソゲーだったな。

 チラッと隣のフローラ姫を見る。

 目が合うと、ニッコリと微笑み返してくれた。


 ⋯⋯可愛いな、オイ。


 だが⋯⋯ゲームだとすると、フローラ姫はNPCって事か?

 とりあえず、本人からも事情を説明して貰おう。


「渋谷さん、この方にも事情を聞きましょう」


「東村さんが翻訳してくれる、という事ですか?」


「いえ。彼女にスキルを貸します」


「スキルを⋯⋯貸す?」


 俺はフローラ姫に【異界語理解Ⅴ】を貸し出した。

 ぶっちゃけ彼女と話す以外に使わないし、これで彼女から見て【異界語】にあたる日本語を話して貰った方が楽だ。

 スキル自体はいつでも回収できるしな。


「フローラ姫、俺が話している言葉わかります?」


「はい、先ほどまでとは違い、理解できます」


 ⋯⋯ふーん。

 そういう事か。


 フローラ姫の口から日本語が飛び出すと、依田くんが頭を抱えた。


「スキル貸せるとか、冗談だと思ったけどマジっすか⋯⋯」


 おっ?

 ここはあれやるチャンスじゃね?

 無自覚系って奴、一回やってみたかったんだよなぁ。


「えっ? スキル貸せるなんて普通だろ?」


「いや、普通だったら驚くわけないじゃないですか。最高難易度クリアしてるぐらいの人なら、そのくらいわかりますよね?」


「⋯⋯そうですね、ごもっともです」


 依田くんツッコミ鋭い!

 うん、俺には向いてないな。

 まあいいや。


「姫、ここに来た詳しい状況について教えて頂けますか?」


「⋯⋯ここで、ですか?」


「はい。彼らは警察官という職業で、治安維持を担当しています。姫の国で例えるなら、騎士団のような存在です」


 まあ、厳密には全然違うが。


「なるほど。私の身元や目的を尋問する必要がある、そういう事ですね?」


「左様です。ご協力ください」


「とはいえ、どこからお話ししたものか⋯⋯」


 フローラ姫が逡巡したように、俺を見る。

 ⋯⋯はあ、やっぱりそうか。

 さっきの『異世界=ゲーム仮説』ってのは、どうやらマジかもしれん。


「⋯⋯あー、渋谷さん。申し訳ないんですけど、彼女と二人きりにして貰っていいですか?」


「二人に⋯⋯?」


「立場上難しいかもしれませんが」


「あ、いえ。大丈夫です、わかりました」


「局長?」


「いいんだ、灘くん。ここは東村さんに任せよう」


 三人はそのまま一度会議室を出た。

 俺はスキル【聖域生成Ⅳ】で、会議室を聖域化する。


 聖域化は、外部から干渉してくる相手に対して、一定の条件で弾き飛ばす力⋯⋯『斥力』を発生させる。

 この斥力は、相手が強力な個体であればあるほど、強力に作用する。

 渋谷さんを東京上空に蹴り飛ばしたのも、足先を聖域化して、その斥力を利用したのだ。

 まあ、それだけじゃないが。


「さあ、これで外部からは干渉されませんよ。正体を現して下さい、女神様・・・


「えっ? 勇者様、どういう事でしょうか」


「いちいち解説しろ、と?」


「よくわかりませんが⋯⋯せめて事情をお聞かせ下さい」


「はいはい」


 面倒だが、言わなきゃ素直に認めないらしい。

 

「まず、『ログアウト状態』って付けたのは、彼らから俺に『異世界=ゲーム仮説』の理論を話させる為です」


「⋯⋯」


「そして、俺がさっき貸した【異界語理解Ⅴ】ですが⋯⋯貸し出したものの発動していません。俺は自分が貸し出したスキルが、使用されているかどうかわかりますからね。つまりアナタはスキル無しで日本語を理解してます」


「ふふ、続けて」


「そこで、アナタのスキル一覧。女神託宣に目が行きがちですが、事象改竄も相当怪しい。なにかを改竄しているというヒントでしょ?」


「さあ? どうかしら?」


「はいはい。で、他にも違和感があります。俺が行った世界では、少なくとも俺は『経験値』なんて概念も、話も聞いた事が無い」


「うんうん、良いわね」


「あとは歴史の知識? それがスキルってのも何か変だ。詐術の看破⋯⋯はありそうだけど、それなら嘘の看破でいい。わざと難しい言葉を使ってるって印象だ。あと称号の付与? なんだそれって感じです」


「本当よね、不自然だわ」


 彼女のスキルはこう。


【聖魔法Ⅳ】【身体強化Ⅱ】

【経験値取得増加Ⅲ】【聖域生成Ⅳ】

【歴史知識Ⅳ】【祈祷Ⅴ】

【詐術看破Ⅱ】【思考速度強化Ⅲ】

【称号付与Ⅳ】【招魂Ⅳ】

【幻術Ⅳ】【事象改竄Ⅴ】

【女神託宣Ⅴ】


「で、スキルの並びから、不自然な物を見ると、こうなる」


【経験値取得増加Ⅲ】

【歴史知識Ⅳ】

【詐術看破Ⅱ】

【称号付与Ⅳ】


「頭文字は『経歴詐称』。つまりアンタが見せている個人情報は嘘って事だ。そんな事ができるのは? 女神様しかいないでしょ?」


「ご名答ー。流石ね忠之!」


 パチパチパチパチと拍手をしたあと、アニメのように「ポン」と白煙が立ち上った。

 煙が晴れると、そこにいたのは、あのドスケベ女神だ。

 相変わらずドスケベだ。


「あのさぁ⋯⋯こんな回りくどい事しなきゃダメなんですか?」


「うん、こんな回りくどい事しなきゃダメなの。私、試練と謎の女神だから」


 悪気なんて一切なさそうに、女神様は笑顔を浮かべた。


「で、ワザワザこの世界まで来て、俺に何の用ですか?」


「そうねぇ、あなた達に分かりやすく言うと⋯⋯」


 女神様は指を一本立て⋯⋯俺の胸にそっと押し当てた。


「忠之、アナタに──割れ厨をぶっ殺して欲しいの」

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