第28話 裏切り者、水野祥子の末路

 鷹司はあのあと救急車に運ばれ、病院送りに。

 とんだウエディングカーだな。

 空き缶の代わりが赤色灯か、まあ賑やかで結構だ。


 残ったメンバーは日を改める、という事で解散した。

 とりあえず俺が梁島家に三日後に訪問する予定だ。


 ダラダラ引っ張る気はない。

 交渉初回で決めてやるぜ。


 さて。


 今日最後の作業が待っている。

 水野だ。 


 一応裏切ってこちらに寝返ったとはいえ、もちろん信用なんてしてない。

 またいつ裏切るかわからない、そんな不確定要素をそのままにしておくほど、俺は能天気ではいられない。


 心配性だからね。


 だから『あの動画は水野が作った』という、決定的な状況をこれから演出しなければならない。


 ぶっちゃけ鷹司と香苗の関係を黙ってたくらいだったら、そこまで徹底的にやらないが、アイツは高校時代に美沙ちゃんをいじめてたらしいからな。


 うん、破滅して貰おう。

 そもそも裏切り者なんて、最後は悲劇的な運命を迎えるのが世の常。

 だったらその通りにしてあげるべきだろう。



 という訳で深夜、水野の家に忍び込む事にする。


 テレビ局が借り上げているマンションの一室で、水野は一人暮らしをしている。


 【隠蔽】のスキルを使用しつつ、『万能鍵』でオートロックをパスし、中へ。


 部屋は⋯⋯ここだ。

 もう寝てるとは思うが、一応【索敵】で部屋の内部を観察⋯⋯うん、ベッドに横になってるな。

 再び万能鍵でドアをオープン。


 音を立てないようにそっと開くが、途中で止まった。

 さすがは女の子の一人暮らし、チェーンロックが掛かっているな。

 女子力高いっすね!

 だが、俺の前には無駄なんだよなぁ、こんなの。


 隙間から中をしっかり観察、座標を特定し、【転移】スキルでドアの内側へ。

 ベッドで寝ている水野に、【睡眠】の魔法をかけ、さらに深い眠りへと誘う。



 これでよし。


 まず、水野のPCを立ち上げる。

 マイクロソフトアカウントと同期しているらしく、パスワード入力画面が表示された。


 アカウントに対して【個人情報開示】を使用。

 個人情報開示の優れた所は、そのアカウントのパスワードが表示される事だ。


 ステータスウィンドウに表示されたパスワードを入力!


 タタタッターン!

 ログイン完了!


 くくく、やっぱり便利、ボクの個人情報開示。

 さて、次の作業だ。


 PCにUSBメモリを挿し、データを移行する。

 今日式場で流した動画と、編集前の元データなどだ。


 ふふふ、これでコイツはこのデータを持っていた、という証明になる。

 そのまま、水野のスマホをケーブルでPCに接続。

 移行したデータのうち、鷹司と香苗の行為動画の30秒簡易版をスマホにコピー!


 スマホを取り外し、ロック解除作業。

 指紋認証だな。


 祥子ちゃん、おててお借りちまちゅねー。


 ロックは無事解除され、ホーム画面にあるSNSを起動した。


 さあ、動画投稿しておきますねー。

 そのあとで、動画へのリンクと、君の詳細なプロフィールを、炎上まとめ系インフルエンサーにタレ込んでおいてあげる。



 ふふふふふふふ。

 

 



 ─────────────────────





 香苗と忠之の結婚式会場で、水野祥子はスカッとしていた。


 香苗には内心ムカついていたのだ。

 

 好き勝手不倫して、最終的にはそんな事無かったかのように、羽振りの良いイケメンと結婚。


 ズルい、という気持ちがあった。 

 だからあの動画が流れ、どうやら二人が破談になりそうだという事態に、内心ではざまぁみろ、と思っていたのだ。


 式場でも、一部の知り合いに「あれは無いよね、祥子は正しいよ」なんて言われて、「まあねー」なんて答え、優越感に浸っていた。


 なぜ、あんな動画が流れたのかも、美沙の真意も不明だが、正直そこまで気にしてない。


 忠之は謝礼をすると言ってた。

 何か美沙に聞くのは、そのあとでいいだろう。


 本来は二次会にも参加する予定だったので、明日も仕事は休みを取っている。

 予定が無くなったので、たっぷり睡眠が取れる。


 だから、とても良い気分で眠ったのだ。





 水野は電話の着信音で目が覚めた。

 時計を見ると、12時。


 思ったより眠ってしまった。

 スマホのディスプレイには、上司の名前が表示されていた。


 休みなのに何よ、もう、と思いながら電話を取った。


「はい、水野ですけどー」


「お前! 何やってんだ!」


「えっ? 何ですか?」


「お前の呟き、まとめられてるぞ! しかもお前のプロフィールまでバレてる! どうしてあんな動画をアップしたんだ!」


「えっ? えっ?」


「とにかく、もう遅いけど動画は消せっ! 俺は他の部署とこれからこの件で会議だ!」


 それだけ告げると、上司は一方的に電話を切った。


「何よ、一体⋯⋯えっ?」


 通話が終わったホーム画面にある、SNSアプリの通知数がおかしい。

 

『999,999+』


「えっ⋯⋯何、コレ」


 慌ててタップするも、通知数が多すぎる為か、なかなか起動しない。


 スマホからの起動は諦め、普段使用しないPCからのログインを試みる。


 自分のアカウントを確認すると──。


 見慣れない呟きが固定されていた。



「わかる人にはわかると思うけど(笑)今日の元データ(笑)」


 動画が添付されている。

 確認すると、30秒ほどの男女の行為動画だ。


 顔にはモザイクが掛かっているが、昨日の結婚式の参加者なら、これが何を意味するか一目瞭然だろう。


「えっ、なんで、私」


 混乱しながらリプ欄を見る。

 呟きには、大量のリプが付いていた。


「聖地巡礼」

「これは酷い」

「さすがにやり過ぎ」



 そんなリプ欄に、気になるものがあった。


「道端アソヅェリカから来ました」


 道端アソヅェリカ。

 芸能人の不倫や、痴漢事件の犯人特定、その他さまざまなゴシップを発信する、200万フォロワーを擁したインフルエンサーだ。


「ど、どうなってるの!?」


 ユーザー検索から、道端のアカウントに飛ぶ。


 そこには、水野の固定した呟きを引用したものが表示されていた。



「山口県のTV局員、友人の行為動画をSNSに投稿。

 男性のSっ気タップリのプレイにファンまで登場する事態に。

 なお、アップした人物のイニシャルはSMと、動画内容と奇妙に一致してる模様」


 血の気が引いた。


 このアカウントは、一部の友人や仕事場の人間に自分の物だと伝えてある。


「は、はや、早く、消さない、と」


 自分のアカウントへと戻り、呟きを消そうとする。


 だが、手が震え、マウスが上手く操作できない。

 何度もカーソルを合わせようとするが、その度にズレてしまう。


 やがて、水野はマウスから手を離し、両手で頭を抱え、叫んだ。



「いや、いや、いや⋯⋯イヤァアアアアアアッ!」

 

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