第27話 残念勇者は奥義を叩き込むッ!

 まず、鷹司に対して感じていた違和感。

 それは中学、高校の修学旅行。

 俺は『あれ? なんでコイツ?』と思った。


 それは大浴場での事。

 鷹司は頑なに、タオルを死守した。


 誰かがイタズラでタオルを引っ張ろうもんなら、『ヤメロ!』と、まあまあの勢いで怒っていた。

 湯船にタオルを浸けるという『禁』さえ犯す事もあった。


 そして、新幹線で見た雑誌の広告。

 キャッチコピーは──『一つウエノオトコ』。


 自らの男性自身が身に纏ったヴェールを脱ぎ捨て、オトコとして一段上に行きませんか? 我々がそのお手伝いをします、という広告だ。


 ストレートに言えば、包茎手術のご案内だ。

 だが、この広告⋯⋯逆に言えばこうは考えられないだろうか?


 ヴェールを身に纏った状態のアナタは『一つ下』なんですよ?

 という、余計なお世話というか『やめたれ⋯⋯』案件だと。


 とにかく、俺はこの広告を見た時に仮性⋯⋯いや、仮説を立てた。


『もしかして風呂での不審な行動は、鷹司がヴェールに包まれた一物イチモツを、タオルという更なるヴェールで、必死に隠していたのではないか?』 


 と。


 そして、寝室での動画。

 そこで事実は確認できた。 

 奴のタイプは『レベルの高い合格点を超えるヴェールに、オールウェイズ包まれている』だ。


 カリが寒がり、って感じだ。


 つまり、鷹司はずっと──恐れていたのだ。

 俺の与り知らないところで、既にコッソリ敗北感を味わっていたのだ。


『圧倒的じゃないか⋯⋯忠之軍は』


 なんて、心の中で呟いていたのかもしれない。

 知らんけど。


 俺は修学旅行でも、タオルは肩に掛けていた。

 むしろ「おい、隠せよ!」なんて鷹司に注意される側だった。


「いや、男同士だし良いだろ!」 

 

 と、特に気にせず晒していた。

 もしかしたら鷹司からみれば、あの時の俺は誇らしげだったのかもしれない。

 タオルというヴェールも、股間自身のヴェールも一切身に付けていない俺を『そんなのもう、二つウエノオトコじゃないか!』と、恐れおののいていたに違いない。


 鷹司は、あの頃から恐れていたのだ。

 俺は知らず知らず、奴を傷つけていたのだ。


 言ってしまえば──!


 俺の股間ポコ○ンが秘めたるポテンシャル、いうなれば『ポチンシャル』が、奴の粗末なブツ、『ソチンシャル』に、既に敗北感を与えていたのだッ!


 だからこそ、鷹司はそれ以外の部分で、香苗になんとか俺より『一つ上のオトコ』だとアピールし続けてきたのだ! きっとそうだ!


 だからその弱い部分を、これから軽く突いてやる。

 それだけで──俺の寝取りは完成するのだ!


 普段の俺なら、ここまではしない。

 人の身体的特徴に、優劣つけるなんて真似はしたくない。


 だが、鷹司!

 俺は人間をヤメルゾッ!


 なぜならお前は、超有罪スーパーギルティだからだ!

 

 


 美沙ちゃんに完全拒否された鷹司は、少し離れた場所にいる。

 椅子に座り、某ボクシング漫画のラストシーンのように燃え尽きていた。


 またとないチャンスだ。


 そんな奴に俺は近づいた。

 俺の顔が見えるのは、鷹司だけ。

 他の参加者は、俺の背中側だ。


「鷹司」


 俺はうなだれる鷹司を小声で呼んだ。

 奴が顔を上げた瞬間──その表情は凍りついた。


 見上げた視線のその先で、俺が笑っているからだろう。

 そして、この笑いの意味は──この場で、コイツだけが理解できる。


 長年の親友だった、コイツだけが。


 コイツがスピーチでも言ったように、よく二人でイタズラをした。

 仕掛けたイタズラが上手くいくと、鷹司は決まってこう言った。


「ホント、忠之ってイタズラが上手くいったら、悪者みたいな顔して、楽しそうに笑うよなぁ──」


 それは、今の俺が浮かべている笑顔と、きっと同じだろう。


 スキル【伝達】を使用する。

 【伝達】は、馬での移動中や、戦闘中敵に聞かれたく無い指示を飛ばす時などに使用する、声を対象の耳元に直接送るスキルだ。


 これで周りには一切聞かれず、鷹司にだけ言える。

 奴の耳元で囁くのと、同じ効果があるわけだ。

 俺は自分の股間を指差し、心の中で『美沙ちゃんゴメン!』と謝りながらも、勝ち誇ったようにウッキウキな感じで告げた。

 

「美沙の奴さぁ、俺のデカいの知っちゃったら、もうお前の粗○ンじゃ満足できねぇってよ? 残念だったなぁ? このお粗末包茎雑魚チ○ポくん♪ 今回の事もよ、ベッドの上で腰をガン振りしながら絶叫してたぜぇ? 『手伝うに決まってるでしょ!? コレから私が離れられないって知ってるくせに! イジワル!』だってよ! はははははっ!」


 これこそ、俺がたどり着いた、境地ステージ

 寝取らずして、寝取る。


 それは相手に、『男としての敗北感』を与える事──否。

 既に知っている『敗北』。

 その事実を、改めて、容赦なく突きつける事だッ!


 これにて寝取り──完成だ!

 この技の優れた点は、あとで追及されたところでノーダメージという事だ。

 だって、そんな事実ないんだもの!

「えー? あんなの信じたの? 嘘嘘♪ それとも何か証拠ありますぅー?」と返すだけでいいんだもん!

 なのに嘘でしたって言った所で、「そんなハズは無い! おまえ等も浮気してたんだ!」とか言いながら、絶対信じちゃうんだもぉおおおん!


 ──俺だけじゃなく、おまえ等だって悪いんだろ!?


 自己弁護してくれるこの悪魔の囁きに、お前は耐えられないんだよ、鷹司ィ!


 元々抱えてた劣等感。

 悪いのは自分だけじゃない、という言い訳。


 この二つが組み合わさり、俺の言葉を勝手に信じこんで、自分で自分に『寝取られた』という、解けない呪いをかけてしまうのさ!


 世界よ、刮目せよ!

 これが次の境地ステージに辿り着いた、俺の寝取りじゃあああああっ!





 

 ──さて、このあとの鷹司の行動は、手に取るようにわかる。


 ハメられた──二つの意味で!


 と考えるだろう。

 この場で俺の策略に嵌められ、そして嫁さんもハメられた、と考える。

 それによって、鷹司の取る行動は──。


「忠之ィイイイイイッ! テメェエエエエッ! 結婚してからもずっと、おかしいと思ってたんだ、結局まだ、美沙は、美沙はやっぱり⋯⋯クッソォオオオオッ!」


 さっきまで燃え尽きていたとは思えない声で、鷹司が叫んだ。

 錯乱してよくわかんない事まで言ってるわ!

 そのままの勢いで殴りかかってくる。

 ははは、そう来るよな! 普段なら絶対やらない、身体的特徴をなじるなんて禁を犯したのは、そのツラが見たかったからなんだよ!



 鷹司、今のお前はまさに──顔真っ赤だぜェッ!?

 


 ガキの頃から、鷹司とは何度も喧嘩をしたが、一度も勝てなかった。

 そして、喧嘩が終わると、鷹司はいつも最後に『あの技』を俺に掛けた。

 喧嘩に勝った方が技を仕掛ける、それが俺たち二人の、暗黙のルールだった。


『た、鷹ちゃん、もうやめてよー!』


『まだまだぁ! ほーら! グリグリグリグリ!』


『ウヒッ、ウヒヒ、やめてってばー!』


 懐かしい思い出。

 それでいつもバカバカしくなって、最後には仲直りしてたよな⋯⋯俺たち。

 俺もいつか鷹司にこの技を掛けたい、そう思って叶わなかった。

 そのまま成長して、俺たちは殴り合いの喧嘩なんてする事もなくなって、もうあの技を掛ける機会なんて無いと思ってたよ。


 今日は初めて、俺が技を掛ける番だ。

 喧嘩は──俺の勝ちだからな。

 仲直りは、たぶん無理だろうが。


 鷹司のパンチを、わざと顔面で受ける。

 もちろん一切効かない。

 はい、これで警察官の前で暴行の罪状追加ね。


 その上で、効いたフリをしながら後ろに倒れ、鷹司の袖と襟を掴んだ。

 そのまま、巴投げのような体勢を取る。


 これから起こる事は、あくまでも事故──。

 それを演出しなければならない。


 巴投げと違うのは、俺は奴の股間に、勢いよく膝を合わせた、という事だ。


 急所を蹴られ、鷹司の顔が苦痛に歪んだ。

 グシャ、という手応え。


 そして、追撃──!


 異世界で恐れられる状態異常。

 それは「ソロ殺し」とも言われる特殊状態異常──[麻痺]。


 電気系の魔法で神経がズタズタにされ、対象部位が動かせなくなる。

 自然治癒は不可能で、治療は特定の薬か、魔法でのみ可能。

 だが、仲間さえいれば、あっさり治せる。


 薬は安いし、魔法も初級の簡単な物で済むからだ。


 だが、こっちの世界では恐らく治療不可。

 治せるのは、たぶんこの世界では俺だけだ。


 食らえ鷹司!

 死なない程度に出力は抑えてやるぜ!

 これが勇者さまの、ありがたいスキル──!


 【雷撃】じゃああああああっ!

 

 スキル使用と同時に、鷹司の身体がビクンッ! と跳ねた。

 端から見れば、股間を痛打したせいだと思うだろう。


「ああああああっ! 痛ぇ、痛ぇよぉおおおおおっ!」


 たまらず、鷹司は股間を押さえながらのたうちまわった。

 スキル【雷撃】は、ダメージとともに、追加で[麻痺]効果を与える。


 今は威力を絞ったので、[麻痺]の範囲は股間限定。


 つまり、鷹司の股間はこの先──小便専用だ! ざまぁみやがれ! もう悪さできねぇな! まあお前の無責任さで、不幸な子供がこれ以上産まれる心配は、ここで断っとかないとな!


 まあ、気が向いたらそのうち治してやるよ、鷹司!

 でもたぶん俺の気は向けなーい、お前は剥けなーい!

 なんつってな! ハハハハハッ!


「い、痛い、これ、いやだ、だれか、救急車、救急車ぁぁぁ⋯⋯」


 情けない声を上げる鷹司を、立ち上がって見下ろす。


 どうだ、効いただろ? 鷹司。

 お前によく掛けられていた、あの技。

 俺が異世界で手に入れた力で、ちょっとアレンジしてやったぜ?


 これがッ!

 俺の奥義ッ!



 異世界式電気按摩イセカイシキデンキアンマじゃああああああっ!

 だぁーはっはっはっはっはーーーーーー!


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