第24話 残念勇者は裏切りを仕掛ける
二人の不貞を伝えて協力をお願いすると、美沙ちゃんはアッサリと承諾してくれた。
香苗に長年騙されてた、『女心に疎い選手権』優勝候補の俺でも、さすがに彼女の気持ちは察しがついた。
学生時代から付き合い、進学を断念してまでゴールした、愛する男がだよ?
不倫して、よそに子供産ませようだなんて計画してたら、そりゃ怒り心頭だわな。
愛情が多ければ多いほど、憎さ百倍って奴だ。
んで、創作なんかで「女性は浮気されると、恋人よりもむしろ浮気相手に怒りを覚える」みたいなのも見るけどさ。
このドロボウ猫ー! みたいなやつ。
あれ⋯⋯マジだな。
今回実感したわ。
香苗と鷹司の托卵計画動画見せたとき、美沙ちゃんが香苗を見る目に宿った殺気⋯⋯ヤバかったもん。
魔王相手にした時よりビビったかもしれん。
あれが俺に向けられたら⋯⋯おしっこ漏らしてたかも。
「私にできる事なら何でも言って」
あの言葉に、鷹司と香苗に対する深い怒りを感じたね。
そのあと見せた表情もさ。
ああ、これが『仲間になりたそうにこちらを見ている』って奴だなと確信できた。
まあとにかく、心強い仲間を得た!
これで彼女や、淳司くんの人生も変わってしまうだろうが⋯⋯巻き込んだ以上は、そこはしっかり責任を持つ覚悟だ。
仲間は全力で守る。
仲間は利用するのではなく、お互い助け合う。
これも異世界で学んだ事だ。
⋯⋯俺がこっちに戻ってこれたのも、アイツのおかげだしな。
「ちょっと! 私に頼んだなんて、デタラメ言わないで!」
水野が美沙に食ってかかるが⋯⋯。
「えー水野さん、私たち昔から、困った時に助け合ってたじゃない。あなたに、高校時代にされた『お願い』、手紙もメッセージも私まだ残してるよ? 大事な思い出だもん」
「えっ⋯⋯」
「ほらぁ、昔よくお金⋯⋯」
「ちょ、ちょっと待ってよ、そんな話、こんな所で⋯⋯」
水野⋯⋯今の覚悟決まった美沙ちゃんに対抗するなんて、四天王最弱には荷が重いって。
水野を巻き込んでしまう、という事を相談した時、美沙ちゃんは反対するどころか、むしろ積極的だった。
俺も知らなかったのだが、水野は昔、美沙ちゃんを影でいじめていて、金を
ただ、口頭だけではなくメッセージアプリや、手紙といった『物証』も残っていた。
脇の甘い奴だ。
まあ、外面の良い水野にとっては、掘られたくない過去だろう。
水野が怯んだ所で、俺がたたみかける。
「なあ水野、どっちなんだ? もしお前が美沙ちゃんに頼まれてあの動画を作ったっていうんなら、俺は真実が知れた訳だから、むしろ感謝していくらか謝礼したいくらいなんだけど⋯⋯」
ほら、どうする水野。
こっちの方が得、という道を提示してやったぜ?
ここで抗弁して、負け犬を庇うか、勝ち組に乗れるのか、大事な場面だぞ?
友情を選んで、二人と一緒に沈むか?
お前はそこまで、頭悪くないよなぁ?
「そ、そうよ! こうなったら言うけど、私が美沙に頼まれて作ったの! だって不倫してできた子供を育てさせるなんて、東村くんが可哀想じゃん!」
水野は自分の手柄を周囲にアピールするかのように、まあまあ大きな声で言った。
周囲から「おー」「確かに⋯⋯それはまぁ」「でもなんで相撲⋯⋯?」などの感想が漏れた。
はっはっは、友達を裏切るかー。
最低だなー、でも、それでいいんだ。
「水野さん、俺の為に⋯⋯? 本当にありがとう」
俺が礼を述べると、水野は気まずそうにしながら答えた。
「う、ううん、人として、当然の事じゃない⋯⋯」
うっはー!
コイツマジ最低だなー、人と思えねぇわ!
そういうセリフは、せめて目を見て言えよ、なんで目を逸らすんだよ!
まあ、結局おまえ等の友達ごっこなんてそんなもんだ。
利害ですぐに壊れる程度のもんなんだよ。
敵だった四天王が仲間になるって、ゲームとかなら激アツイベントなのに、全然ちげーな!
「しょ、祥子、あんた⋯⋯」
香苗が、裏切り者の水野に対して恨み節を吐こうとした、その時──。
「おい、お前たち、いい加減にしろ! これはどういう事なんだ!」
ここで親族席から怒声が飛んだ。
香苗の父、梁島剛毅だ。
剣道八段が繰り出したさすがの一喝に、会場が静まり返った。
会場を見回すと、この修羅場を見たい奴、気まず過ぎて帰りたそうにしている奴、三対七って感じかな?
でも、帰ったら帰ったで「あのあとどうなったの?」とか聞くんだろうけど。
「えーっと、皆さんお騒がせしてすみません。まずはちょっと落ち着きましょう」
俺はマイクで会場に語りかけたのち、式場スタッフの中でも責任者っぽい、偉そうな人に声をかけた。
「すみません、内々の話ができる場所ありますかね?」
「はい、ご準備します。何名様ほどご利用でしょうか」
会場スタッフも、この状況ではさすがに式の継続は無理だと判断したのだろう。
それか結婚式でのトラブルマニュアルでもあるのだろうか?
特に慌てる様子もなく、冷静だ。
「そうですね⋯⋯俺と相手の身内、当事者⋯⋯10人以上が多少ゆとり持てる場所、用意できます?」
「はい、本日使用していない会場がありますので、そちらご利用ください」
スタッフに段取りを付け、俺は梁島剛毅の側で、小声で話した。
「お義父さん」
この呼び方も、今日が最後だろうなぁ。
「忠之くん⋯⋯どうするんだ?」
「とりあえず、式をこのまま続けるのは難しいと思います」
「そう、だな」
娘の結婚式を醜聞で中断。
父親としてはたまらんだろうなぁ。
同情はするが、それでも手は抜かない。
「あと、この状況だと⋯⋯皆さんから御祝儀をいただくというのも⋯⋯」
「それは⋯⋯そうだ」
「なので、皆さんの中で希望者にはこのまま料理を召し上がっていただき、各自のタイミングで自由にお帰りいただく、その際に祝儀を返却、というのは」
「それは忠之くんが決めていい」
「いえ、お義父さんが決めてください」
「私が? なぜだね?」
「⋯⋯こういう事はあまり言いたくありませんが、さっきの動画が本当なら、この式の費用は梁島家にご負担頂きます。当然ですよね?」
「⋯⋯それは、そう、だな」
数百万の支払いだ。
肝が据わっている梁島剛毅でも、さすがに声を震わせる。
ただそれでも認めるのはさすがだ。
「なら、費用を払う側が決める⋯⋯今香苗はあの状態です、なら決めるのはお義父さんじゃないですか? 式の中断を皆さんに伝えるのも、今後の指示含め、お義父さんの⋯⋯梁島家の責任でお願いします」
この確認は必要だ。
式を中断したのはおまえ等のせいだよ? と、責任の所在をハッキリさせておく。
この事実を、ここで認めさせるとさせないとでは、あとで話が変わってくる。
俺がするのは、提案だけ。
あくまでも主導はそちら。
なんなら俺は別に、ここでこのまま続けたっていいんだ。
恥をかく覚悟が向こうにあるのなら、な。
まあこれも、実質的には一択だ。
「わかった、私から皆さんにはお話しする」
お義父さんは立ち上がり、来場者に向けて頭を下げた。
「本日はお忙しい中お集まりいただいたにも関わらず、娘の不始末のせいで皆様にご迷惑をおかけしていること、誠に申し訳ございません。大変勝手ではございますが、この状態で式を続けるのも難しいと思います」
会場にざわめきが広がる中、お義父さんは話を続けた。
「準備でき次第、頂いた御祝儀は返却させて頂きますので、受付にてお受け取りください。準備させていただくのに多少お時間が掛かるかと思いますので、その間はご飲食やご歓談にてお待ちください。今回の不始末、その責任は全て娘、引いては梁島家に帰する物であり、忠之くんやご家族には一切落ち度はございません。全ては梁島家家長である、私の不徳の至る所です。そこだけは何卒ご理解ください。本日は誠に申し訳ございませんでした」
説明を終えると同時に、お義父さんはビシッと頭を下げた。
いやぁ、この場面でここまでしっかり言えるのは、さすがに肝が据わってるな。
だが、これでよし。
このシーンも録画してある。
これで相手側があとからグズグズ言おうとも、周囲に落ち度を認めた、という証拠は残せた。
今日の話し合いで全てを解決するのは無理だろうが、今後の交渉で役に立つだろう。
「じゃあ忠之くん、別室へ行こう」
「そうですね」
「香苗、来なさい」
「あの、お父さん、違うの」
「──いいから来いッ!」
グズグズしている香苗に、お義父さんの雷が落ちる。
略してお義父サンダーだ。
⋯⋯我ながらしょうもな。
叫ばれた瞬間、香苗は身体をビクッと震わせる。
ははは、マジで雷に打たれたみたい。
お義父さんはそのまま、鷹司の方を向いた。
「加藤君⋯⋯君にも事情を聞かせて貰いたい。いいね?」
「はい⋯⋯」
うはははは。
鷹司くん、死にそうな顔してるね!
まあ、不倫の事実をバラされた挙げ句、奥さんには裏切られたんだ、そりゃそうだ。
でも水野の裏切りは、お前のせいだぜ?
お前がアイツに罪をなすりつけようとしてくれたから、コッチは楽できたよ。
無能な敵は味方の如し、って奴だな!
あ、もしかして、お前が残してた二回の変身のうちの一つって、顔を真っ青にする事かな?
次はどんな変身を見せてくれるんだい?
まあ、移動する間に、無駄な言い訳考えてねー。
うわっはっはっはっは!
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