第20話 残念勇者は入籍する

 プロポーズが成功したのち、二人でフグ料理屋さんに泊まった。


 香苗は「シテも良いよ」的な雰囲気をプンプン漂わせていたが、昨日のはあくまでもイレギュラー、ちゃんと結婚してからと説得し、誘惑の回避に成功。


 するわけねーだろ、っていうね。


 祝日となる帰省最終日、フグ料理屋さんをチェックアウト後、そのまま梁島家に行き、娘さんを嫁に下さいイベントは無事終了。


 まあ、梁島家は長男長女がそれぞれもう結婚しとるからね。

 慣れた感じではあった。


 ウチの実家にも雑に報告。


 東村家と梁島家はご近所なので、顔合わせもクソも無いのだが、一応近々やろうって事に。


 慌ただしい1日が終わり、俺は東京に戻る事に。


「これからは毎週戻ってくるから」


「うん」


 それから俺は、東京と山口を毎週末往復。

 帰省するたび、香苗にはブランド品を買い与えた。

 費用全額俺持ちで、香苗を東京に呼んだりもした。

 新居候補の選別、高級店での外食⋯⋯贅沢な未来のビジョンと、実際に贅沢な思いをさせた。



 そして、俺達がヤッタ事になってる日から二カ月後の四月。

 香苗から待望の連絡が来た。


「忠之⋯⋯私できちゃったみたい」


 俺はすぐに山口に飛び、香苗の両親に謝罪した。

 二人からはちょっと小言を言われた。


 ふふふ、その小言もブーメランなんだけどな。


 そして、俺は香苗に提案した。


「結婚式の前に、入籍だけ済ませないか?」


「うん⋯⋯嬉しい」


 両親にも報告し、2人で婚姻届を提出した。


 普通の奴なら⋯⋯結婚前に事態発覚!

 みたいな形にするだろう。


 ふふふ、甘いんだよなあ、そんなの。

 そんな考え方は、俺に言わせればまだ『常識』に縛られてしまっている。


 今の俺は、保身なんて考えていないのだ。

 相手にとって一番ダメージを与える方法は何か、が重要なのだ。

『俺は傷付かないが、相手はそれなりのダメージ』と『俺も傷付くが、相手は致命傷』なら、後者を選ぶのが俺だ。

 むしろ、俺がいかにダメージを負ったか、それを演出するからこそ、このあとトコトン追い込める。


 腰が引けてると相手の命は取れない。

 踏み込めるかどうか。

 自分が傷つくことなく戦いたい、なんて甘い考えは、異世界に置いて来た。


 自分もダメージを受ける覚悟で、相手の命を奪う。

 その覚悟こそが勝負を分けるのだ。

 詰めを甘くして反撃の余地を与えるなんて、下の下だ。

 アクセル全開で徹底的に追い込む為には、この入籍はマストだ。


 入籍して別れたところで、俺にとってはたかが戸籍が汚れる程度だ。

 そこまで気にならない。


「以前は俺もお前のような陰キャ独身男性だったが、戸籍に矢を受けてしまってな」


 なんて持ちネタに変えてやろう、くらいのテンションだ。


 だが「お前のせいで戸籍が汚れた!」は、強力な武器になる。


「元に戻せない、どうしてくれる!」


 これは相手を責める上で、あると無いとでは全然変わってくる。


 当たり前だが、殺人未遂と殺人では全然罪が違う。

 悪いけど、香苗、鷹司、おまえ等の計画を『未遂』で済ませてやるほど俺は甘くねーよ?


『入籍前にわかったんだから、まあ良いじゃないか』などという言い訳は最初にぶっ潰す。


 それが俺のやり方だ。


 その為なら「恋人と友人に騙され、寝取られた上に結婚までしてしまった情けない男」なんて評判、甘んじて受け入れてやるぜ。

 


 というわけで、俺と香苗は入籍し、晴れて夫婦に。

 その後も香苗から「結婚したんだから」と誘われたりもしたが、お腹の子に万が一があったら嫌だから、と断った。

 式は出産前にという事で、ちょっとバタバタだったが、八月に予約した。

 もちろん費用は全額俺が持つ。

 結納金は二百万とやや高めで、式との総額で五百万オーバー。


 まあ、これはどうせ戻ってくる。


 香苗は先に退職し、式の準備に専念して貰う事にした。


 俺の職場の人間は呼ばない。

 いつの間にか結婚して、いつの間にか離婚って感じになる。


 招待客のほとんどは、地元の人々。

 友人や香苗の職場関係、親族がメインだ。


 その間、俺はプロに動画の編集を依頼した。


 俺が伝えたコンセプトを元に、素晴らしい動画が完成した。


 最初はそのまま出そうかとも考えたのだが、結婚式には子供も参加するからね。

 そのままって訳にもいかない。


 なので、イメージ映像でお楽しみ下さい、って感じだ。


 本来の映像は、水野さんが作る事になっていた。

 水野さんはTVの地方局で働いており、映像制作はお手のものだからな。


 俺は「幻視の指輪」を使用して、式の会場スタッフに水野さんとして会い、打ち合わせもした。


「実は新郎に対しての『ドッキリ映像』を流す予定なんです。当日私が『こんなの違う!』『止めて!』って騒ぐ予定なんですけど、あのお笑い芸人さんの『押すなよ、絶対押すなよ』的なやつなんで、そのまま流しちゃって下さい」


「ああ、ありますね! 任せて下さい!」



 さて、これでほぼほぼ準備は整った。

 いやあ、この半年は早かったなー。


 さていよいよ──パーティーの始まりだ!



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