第13話 残念勇者は売りさばく

 さて、ミッション開始だ。

 翌朝の早い時間、俺は鷹司の家にやってきた。

 奴は食品会社の営業で、山口県内のスーパーやデパート、ショッピングモールを営業車で回っている。


 駐車場には営業車が止まっている。

 奴は基本的に直行直帰だと言っていた。


 まあ、その自由さを利用して、香苗と逢瀬を重ねていたのだろう。


 『万能鍵』を使用し、後部座席に入る。

 そのまま【隠蔽】スキルを発動し、気配を消した。


 しばらくして、鷹司が車に乗り込んで来た。

 おっ、お早い出勤ですね。

 待ち時間が少なくて助かるぜ。


 そのまま後部座席で揺られる事約二十分。

 鷹司の運転する車は『ドリームタウン山口』の駐車場へと入った。

 ドリームタウンは俺の地元だと『ショッピングモールと言えばここ!』ってくらい有名だ。


 鷹司が車を止めたのを見計らって、行動を開始した。


 後部座席から手を伸ばし、鷹司の頭を掴む。

 突然の出来事に、鷹司の身体が『ビクッ』と震えるのも構わず、俺はそのまま頭を可動域を越えて捻った。


 ゴキン⋯⋯と音がして、鷹司の首の骨が折れる。

 即死だ。


 そのまま鷹司のスマホだけ抜き取り、車のダッシュボードにしまってから【転移】を使用して、死体ごと自宅に戻る。

 スマホ持ち運ぶと、着信が面倒だからね。

 電源は切りたくないし。

 部屋に戻ってから鷹司の身ぐるみを剥がした。


 『幻視の指輪』で鷹司の姿をコピーし、死体を【アイテムボックス】に収納する。


 アイテムボックスは、生物の収納はできないが、死体なら可能だ。

 しかも中で繋がってるのは不思議空間で、時間も経過しない。

 死体が腐る心配も無いのだ。


 鷹司が着ていたスーツに着替え、用意してあったカバンと共に、ドリームタウン山口へと転移で戻る。


 そのまま車を運転し、山口市役所へと向かった。

 マイナンバーが記載された鷹司の住民票を五通ほど取得し、近くの文房具屋で印鑑を購入してから新山口駅へ。


 窓口で東京行きの往復チケットを購入する。

 

 本当は転移でパパッと移動したいが、あくまでも『鷹司が行動した』という形にしたい。


 早起きしたので眠い。

 鷹司の金で一番高い駅弁を購入し、食べ終わったら新幹線で仮眠。

 昼過ぎに東京駅に到着した。

 まあ、ここからは多少転移も使って構わないだろう。


 トイレで【隠蔽】→【転移】のコンボを発動し、最初の『金買い取り屋』へと移動した。



「すみません、金の査定と買い取りをお願いしたいのですが⋯⋯」


「はい、ではこちらにご記入下さい」


 必要書類に記入し、提出する。


「では、本日はどのような品物の買取をご希望ですか?」


「はい、これなんですけど⋯⋯」


 金の延べ棒を五本ほど取り出す。

 

「祖父から受け継いだ物なのですが、家の頭金にまとまったお金が必要になりまして、売却したいと思ってるのですが」


「なるほど。刻印がありませんね⋯⋯少しお預かりしてもよろしいですか?」


「はい」


 機械でチェックするのだろう。

 一度奥へ運び、しばらくして受付は戻ってきた。


「す、凄い品ですね。純度99.999パーセント以上、間違いなく純金です」


 ふっふっふ。

 あのドワーフのおっさん、デカい口叩くだけあっていい仕事してるじゃねえか。


「はい、それで買取金額はいかほどになりますか?」


「はい、本日の相場だとこちらに⋯⋯」


 受付が電卓を叩く。

 延べ棒五本、五百グラム。


 合計金額はざっくり460万との事だ。


「はい、お願いします。現金がいいのですが⋯⋯もし今店舗に用意がなければ、多少待ちますので」


「振り込みではマズいですか?」


「祖父の遺言で、物の売買は現金主義なんです。もし難しいようでしたら、ちょっと別のお店と相談します」


「えっと、少々お待ち下さい」


 受付は奥に一度引っ込み、上司らしき人物と相談している。


「はい、大丈夫です⋯⋯あと、二百万円を超える場合、『犯罪による収益の移転防止に関する法律』というものかありまして、本人確認書類と別に、マイナンバー記載の書類が必要なのですが⋯⋯」


「はい、用意してます」


 免許証と一緒に、用意してあった住民票を提出する。


「ありがとうございます。⋯⋯山口からいらしたんですね?」


「はい。地元より都内の方が、買取金額の相場が高いみたいで。交通費払っても黒字になりそうだったもので」


 ふっふっふ、こういう理屈が金にガメツい奴、という印象を与え、人を納得させるのだ。


「なるほど、ではこちらお預かり致します」


 免許証と住民票はコピーされ、返却された。

 なんだ、なら住民票五通もいらなかったな。


「ではこちら、466万3000円になります、ご確認下さい。よろしければこちらご利用下さい」


 現金とともにマネーカウンターがテーブルに置かれた。

 百万の束から帯を外し、カウンターに置く。

 シュバババババと音がして、現金が計上された。


 当たり前だが、百万だ。

 残りも同じ様に計上する。


 うん、ピッタリ。


「はい、大丈夫です」


「では買取の同意書に、署名と捺印をお願いします」


 書類に記入し、用意してあった印鑑で捺印。

 現金をカバンにしまい、店を出る。


「ありがとうございました、大金なのでお気をつけ下さい」


「はい、すぐに口座に入金しますよ」


 店の外まで見送りに来た担当者と雑談し、そのまま物陰で【転移】を使用。


 自宅に戻り、現金を置いてからまた次の店舗へと移動。

 その後、同じ事を四回繰り返した。

 店舗に用意してある現金などの事情もあり、捌けた延べ棒は二十三本。


 現金はおよそ二千百万円だ。


 本当はもう少し売りたかったが、一店舗ごとの時間も思ったよりかかったため、ここで終了。

 終電ではなく、二十一時には新山口に戻りたいから仕方ないね。


 16:12発、博多行きの新幹線のぞみに乗り、新山口に到着したのが20:33だ。

 そのまま、車を『ドリームタウン山口』へと運転し、21:20に到着。


 ここで【転移】を使用し、自宅へと戻った。

 テーブルの上に積まれた現金にニヤニヤしつつ、スキル【アイテムボックス】を使用し、鷹司の死体を取り出した。


 服を再び着せ、【転移】で車に戻り、鷹司の死体を運転席に座らせてから、俺はアイテムボックスから『神薬エリクサー』を取り出した。


 神薬は、異世界で手に入れたアイテムの中でも最高レア度のもので、俺自身八本しか持ってない。

 貴重過ぎて、魔王戦でも勿体なくて使えなかった。


 この薬の凄い所は、外傷を完璧に治療しつつ、死亡後約10分程度なら蘇生までしてしまうのだ。


 そんな貴重な一本を、君の為に使ってあげるからね、鷹司くん。


 奴のスマホを助手席へと置き、鷹司に『神薬』を振りかける。

 リアクションが見たいので、そのまま【隠蔽】で後部座席に待機だ。


 「あれっ?」と間抜けな声を出して鷹司は目覚めた。


「あれ、なんか痛かったような⋯⋯うわ、外暗いぞ、何!?」


 慌てた様子の鷹司は、助手席のスマホを取り上げ、画面を見た。


「えっ! 22時!? うわ、俺寝ちゃったのか、ヤベー、電話しないと」


 鷹司はその後、上司らしき人物に電話し、めちゃくちゃ謝っていた。


「すみません、なんか首痛いと思ったら、そのままこの時間まで⋯⋯はい、はい、わかりました、とりあえず明日朝一病院行きますんで、はい⋯⋯」


 よし、これでいい。

 まあぶっちゃけ『神薬』を使用せずに、同じ様にする方法なんていくらでもあっただろう。

 でも、本番前の摘まみ食いというか前菜? みたいな感じで、鷹司をスナック感覚で殺しときたかったんだよね。


 ちょっとだけスッキリ!

 まあ、まだまだ追い込むがね。


 鷹司のあたふたを楽しんでから、俺は【転移】で自宅に戻った。






 ──さて、これで俺の手元資金は潤った。


 今日1日頑張った結果を改めて確認する。

 テーブルの上に積まれた現金を一掴みし、空中に投げた。


 現金の紙吹雪だ。

 いやー、これやってみたかったんだよなぁ。


 そして鷹司くん、君は今日1日仕事をサボって東京に行き、出所不明の金を売りさばいてたね?


 金の買取が二百万越えた場合、税務署に支払い調書が提出されるから、君には数百万単位の、納税のお知らせが来ると思うけど⋯⋯頑張ってね!




 これが法律でも規制できない、異世界式マネーロンダリングだ!


 はっはっはっはっはー!




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