第12話 残念勇者は計画を練る

 帰省する週末まではあと3日。

 仕事してる場合じゃねぇ! という事で有給を取ろう。

 つっても、さすがに今日は出社しないとな。

 会社に行って、上司に掛け合うか。


 自重しないと決めたので、ギリギリまで家にいて、始業直前に転移だ。

 【隠蔽】を使用し、職場の目の前に到着。

 物陰で【隠蔽】を解除して出社した。

 楽すぎワロタ、もう満員電車には乗れないぜ。


「おはよう、東村くん」


「おはようございます、ちょっと御相談が⋯⋯」


 ちなみに異世界アイテム【幻視の指輪】によって、会社での俺は一年前と同じ姿に見えている。

 【幻視の指輪】は、他人になりすます事もできる便利アイテムだ。


 さて、上司に事情説明。

 といっても「恋人と友人を血祭りに上げる準備します」とは言えないので、適当に理由をでっち上げる。


「すみません、恩師の身内に不幸事がありまして⋯⋯忌引きではないので、明日から今週末まで有給を頂きたいのですが」


「あー、いいよいいよ今はちょうど暇な時期だから。なんなら今日の午後から半休取っていいから。この時期に有給消化して貰えるとむしろ助かるよ」


「ありがとうございます!」


 これでよし。

 ホワイトな職場で良かったぜ。


 では、行動開始だ。

 午後になって家に戻り、計画を練り始めた。


 ぶっちゃけ、簡単な復讐なら今日1日で終わらせる事も可能だ。


 転移を駆使して、二人をバヌアツ共和国のマラム火山まで拉致し、火口に落として燃える様をビール片手に楽しむとか。

 南極に連れて行き、寒がる二人の前で俺だけ熱々おでんを食すとか。

 それはそれでスカッとするだろう。


 だが、この復讐心に渇いた身体を、そんな事で潤すのはもったいない。

 せっかくキンッキンに冷えたペットボトルと清潔なグラスがあるのに、さっさと蓋を開けて、中身をゴクゴク飲んじゃうようなもんだ。


 まずはグラスに注ぎ、周りに付いた水滴をペロペロ舐めて、ちょっとだけ喉を潤してから、最後に本命を飲み干す。


 そんなふうに、この復讐はじっくりと楽しまなければな。

 ふっふっふっふっふ。


 では、その為に何をすべきか。

 じっくりいたぶる方法を考えないとな。


 そういえば追体験で、香苗はドMだって言ってたな。

 あーあ、俺たち相性バッチリだったのにね。

 俺は間違いなくドSだ。

 今度「調教してほちぃ?」って聞こうかな。

 まあ、ほちくないって言われても、俺がやる事は変わらんがね、ふっふっふ。


 そんな事より、大ダメージ与える方法は⋯⋯あ、そうだ、さっきの俺自身の体験!


 先ほど【転移】を使って出社したら、満員電車なんて乗ってられないと思った。

 人は一度便利さなどの生活レベルを上げると、下げるのに苦痛を伴う。

 だからこそ、俺は戻ってきてから、むやみにスキルを使うのを避けていたわけだ。


 これは万人に当てはまる、人間の性だ。


 つまり──まずは与える。

 香苗の奴に、与えて与えて与えまくり、それを全回収!

 それと並行して、鷹司の奴には別の角度から、チクチクとダメージを与えていく。


 コレがダメージデカくね?


 いやぁ、ヤッパリ気付きって奴は日常に転がってるな。


 出たとこ勝負のアドリブも増えるが、まずは相手の計画に乗る。

 奴らの手のひらで俺がダンスしまくってるように見せかけ、香苗には今後の人生に対して、素晴らしい夢を見せまくる。

 二人が「しめしめ、想像以上に上手く行ってるな」と成功を確信した所で「残念でしたー!」と種明かし、素晴らしい夢を、信じられないほどの悪夢に変える。


 これをベースにしつつ、最終的に、二人は社会的に抹殺。

 二人が一生懸命積み上げたジェンガを、俺が全力疾走からのキックで粉々に吹き飛ばす。

 よし、コレを目指して頑張るぞ!


 んじゃ、与えまくり作戦の為にも、やらなければいけない事が幾つかあるな。

 そのファーストステップは──資金集めだ。


「【アイテムボックス】!」


 俺が呪文を唱えると、黒い穴が出現した。

 中から一本の棒を取り出した。


 純金の延べ棒だ。

 重量はおよそ百グラム。


「えーと、今の買い取り価格は、と」


 PCで相場を確認すると、1グラムだいたい九千円半ば、つまりこの棒一本で百万円弱だ。


 俺が過ごした異世界では、金はそれほど価値がなかった。

 といっても、無価値って事もない。

 一番高価な貨幣は金貨だったからな。


 ただ、金貨に使用される金属で、一番高価なのは『魔精金ミスリル』で、純金はどちらかと言えば貨幣の嵩ましに使用される側の金属だった。


 魔精金の割合が多いほど通貨としての信用が上がり、逆に純金の比率が上がると『悪貨』扱いされていた。


 純金は割と豊富に採掘される金属で、一部魔力が強い場所で『魔精金』へと変質する、と言われていたな。


 俺は異世界で金の価値が低い事に目を付け、ドワーフの鍛冶師に頼んで、この金の延べ棒を約二百本ほど作って貰い、アイテムボックスに入れておいたのだ。


 だが戻って来てから、これはなかなか使い途が難しいな、と思っていた。


 換金するのに、色々と難があるからだ。

 百グラムが二百本、つまり約二十キロ。

 時価総額およそ二億円。

 そんな金を一気に換金すれば、間違いなく足が付くだろう。


 だから折りに触れ、少しずつ換金しようかな? と考えていた。


 だが、よくよく考えれば、今ならこの問題を解決する方法はある。

 それは、『まずは与える作戦』の為のまとまった資金を確保しつつ、鷹司の奴にジワジワとダメージを与える、正に一石二鳥の方法だ。


 よし、こういうのは勢いが大事だ、さっさとやっちゃおう。


 では、本時刻より作戦を開始する!


 二人とも待ってろよー!

 



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