第11話 【罪状】梁島香苗&加藤鷹司

「鷹ちゃん、私⋯⋯できちゃったみたい」


「えっ、マジで?」


「そうよ、だから言ったじゃん! あの日はマジ危ないって!」


「いやそうだけどさ。お前もノリノリだったじゃん、足でガシッて」


「もー、私ヤッてる時バカになるの知ってるでしょ? そこは鷹ちゃんが気をつけてよ!」


「ワリーワリー。で、どうする? 今回も堕ろすの?」


「あんまりそれすると妊娠できなくなるからさぁ、今回は産んどきたいんだけど。鷹ちゃんの子も欲しいし」


「あー、なら忠之のガキって事にすればよくね?」


「えー、まだあのヘタレとヤッてないよ? 大事にしたいとか言ってさw」


「いやいや、お前が『そーいうのは結婚してから!』って言ってたんだろ?」


「そーだけどさ、バレたくなかったし。アイツと付き合う前から鷹ちゃんとやりまくってたなんて」


「まーそうだけどさw」


「そりゃアイツ頭良かったから将来性みたいなの考えたらキープしときたいじゃん? 顔も痩せたら悪くないと思うんだけどねー。でもあのプニプニの身体マジ無理!」


「いや、俺とヤルまではアイツの事好きだつってたじゃんw」


「いや好きだったよ? てゆーか今も別に好きは好きだよ、優しいし」


「いや、優しいとかマイナスじゃんw」


「なんでよ」


「だってお前ドMじゃん」


「それwwwまあ、あのオタクっぽい所と体型はねー」


「まあ、俺みたいなスポーツマンと比べたら可哀想だよ」


「まあねー。でも今度戻って来た時一回やっといて、アイツの子って事にしよっか」


「あ、そうだ! やる必要もねぇよ! アイツ酒弱いじゃん? ウチのかみさん週末帰るからさ、宅飲みして、アイツ潰してやっちゃった事にすればよくね?」 


「鷹ちゃん天才かよ!?」


「だろぉ? 勉強だけのアイツと違って、俺は社会で実践的な知識ってヤツ鍛えてっから」


「ねー、でもアイツと結婚しても私とちゃんとヤッてよ?」


「当たり前じゃん。仕方なくできちゃった結婚したけどよ、俺が本当に愛してるのはお前だけだって」


「まーた嘘ばっかり」


「マジマジ。でもさぁ、アイツ昔『僕たちは香苗を中心にした鼎だね』とか言ってたじゃん?」


「言ってたw ドヤ顔でさぁ。三本足でできた釜だっけ?」


「そーそー。でも俺あの時、心の中でツッコんじゃったよ」


「えー? 何て?」


「香苗はとっくに俺の『三本目の足』に夢中だけどな! ってさw」


「おいオッサンw否定はできないけどwww」


「あ、今日も仕事終わったら会おうぜ? できちゃったって事は、しばらく生でやりたい放題じゃん!」


「お猿さんはそれしか頭に無いのwまあ良いけど」


「んじゃ、また夜なー!」




────────────────────




 追体験後しばらくして、俺の頬を一筋の涙が流れ落ちた。


 それは悲しみ、怒り、憤り、そのどれともかけ離れた感情だ。

 この胸に迫り来る感情の正体、それは──。


「ああ、女神様⋯⋯ありがとうございます」


 感謝だ。

 圧倒的な感謝。

 その感謝は、俺の口から自然と零れ落ちてゆく。


「魔王を倒せなどというのは口実だったのですね⋯⋯本当は⋯⋯この為に⋯⋯」


 もし異世界に行かなかったifルートが存在するなら、行く末は容易に予測できる。


 奴らの奸計にあっさりハマり、数年後に疑心暗鬼になり、DNA鑑定などで真実を知るも、子供に愛情を持った俺は現実を受け入れて過ごすだろう。


 そう、一年前の俺はそんなヘタレな奴だった。


 下手したら香苗にのらりくらりと夜の生活を拒否され、「お父さんは童貞です」状態で過ごしたかも知れない。


 きっと女神様は、そんな俺を救うために異世界へと召喚したのだ。

 魔王討伐なんてのは建前で、本当は俺を救うために異世界へ呼び出したのだろう。

 スキルを身に付け、運命に抗うために⋯⋯。

 ありがとう女神様。

 そんな事も知らずにおっぱい揉んでゴメンね。


 そして、感謝するのはもう一人。


「ありがとう、俺」


 そう、俺自身だ。

 どーせバレないだろう、と異世界でハメ外して女遊びなんてしていたら、こんなにも清々しい気持ちになれなかっただろう。


 まあ俺もやることやっちゃってたし、などとちょっとだけ後ろめたさがあったかも知れない。


 無い。

 負い目は一切無い。


 自分はろくでなしだと自覚しているが、二人への愛情、友情は尊重してきた。

 


 俺もオタクだ。

 NTR寝取られには一家言を持っている。


 だが今ならわかる。

 ついさっきまでの俺の見識は浅かった、と。

 足首までしか浸かってないのに、広大な海を知り尽くした気になっていた。


 今までの俺の寝取られへの見識はこうだ。


 清純な女性が、気持ちは彼氏にありながらも、身体に刻み込まれたチャラい寝取り役から与えられる快楽に、心が少しずつ侵食される、それこそが寝取られ作品が持つ良さだと思っていた。


 違った。


 本当の快楽は、その先にあったのだ。


 堕ちた女と、その原因となった男。

 その二人を、取られた側が地獄に送る⋯⋯それこそが真の快楽なのだ。


 ああ、最高の睡眠から目が醒めたような清々しさだ⋯⋯。

 

 もう、半分満たされたような心境ですらある。


 だがもちろん、もう半分も満たさなければならない。

 俺が異世界で得た物、その全てを駆使して、あの二人を地獄に落とす。

 それを実行して初めて、残りの半分が満たされる。


 よく寝取られた側は「脳が壊れる」なんて表現をされるが、少なくとも俺に関しては違う。


 壊れていたものが、元に戻った感覚。


 『良識』などという、くだらない針が脳に刺さっていたのを、引っこ抜いた気分だ。


 ああ、凄まじい開放感だ!


 何が自重だ、何が生活レベルだ。


 俺が異世界あっちで手に入れた、その全てを使ってやるぞ。


 まってろよ、香苗、鷹司。


 ハッハッハッハッハー!



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