第10話 残念勇者はモテモテだった。

「ゴメン、俺⋯⋯元の世界に恋人がいるから」


「そうですか⋯⋯うん、わかりました!」


 一国の姫、それも聖女と呼ばれる女性から告白され、もちろん悪い気はしなかった。

 しかも相手は、大陸一とも言える絶世の美女。

 だが、彼女の告白を受け入れる訳にはいかない。


 フローラ姫もきっと、今は異世界人という物珍しさから俺が気になっているだけだ。


 そうだ、俺、勘違いするんじゃねぇぞ。


 今はたまたま勇者なんて扱いをされてはいるが、元はどこにでもいる、平凡な男だ。


 でも少しぐらいは⋯⋯異世界だし、ハメを外してもバレないよな⋯⋯という気持ちも無くはないが、それでも自重する。


 元の世界に残した恋人、香苗の事を思い浮かべる。

 彼女を裏切る訳にはいかない。


 元の世界でも遠距離恋愛だったのによぉ。

 今は異世界と元の世界で遠距離恋愛って。


 遠すぎんか?


「そうですよね⋯⋯私みたいな女は、勇者さまに相応しく無いですよね」


「逆、逆! 自己肯定感低過ぎんか!?」


「えっ?」


「俺なんかより相応しい奴いくらでもいるから! 姫様が俺に向けてる感情なんて、珍獣を順当に珍しがるみたいなモンだからさ!」


「勇者さま」


 俺の言葉に、フローラ姫は少し怒ったような表情になった。


「な、なに?」


「フラれた事は悲しいですし、その言葉が私に気を遣った、優しさからのものだという事はわかります、でも⋯⋯」


「でも?」


「過剰にご自身を蔑むような発言はおやめください。勇者さまにそんな事を言わせてしまう、我が身の不徳を感じてしまいます⋯⋯」


 目に涙を貯め、フローラ姫が抗議してくる。

 困ったな。


「じゃあ、フローラ姫も『私なんか相応しく無い』なんてのは止めてくださいね? 単に俺には恋人がいて、裏切れない、それだけだから」


「⋯⋯はい、わかりました! ただ⋯⋯ひとつだけ、お願いしたい事があるのですが⋯⋯」


「ん?」


 珍しいな、フローラ姫がお願いなんて。

 そういう事あまり言うイメージ無いけど⋯⋯。


「おっぱい揉んで」


 フローラ姫が胸をずいっと突き出して来た。


「はっ!? ちょっと⋯⋯」


「あんたさ、女神のおっぱい揉んでおいて、私のは揉めないってワケ? 今さら純情ぶってんじゃねーよ、カス」


「な、なんでその事を!?」


「うるせぇ、佐藤流舌技でもええぞ? 69段だっけ? ほらぁ、やれよ!」


 フローラ姫に押し倒され、顔の上にまたがれる。


「ふごふごふごふご、ふごー!」


「おらぁ、さっさとしろぉ!」


「ふ、ふごー!」







──────────────────



 なんだよ、この夢。

 途中までは実際にあった事なのに。


 ここ数日こんな夢ばっかりだな、おそらくこれは──。


「【感覚共有】のせいだな」


 佐藤国光の件から、俺は【個人情報開示】のスキルを色々試してみた。

 結果としてわかったのは、【罪状】の項目は、誰にでも表示される訳じゃない、という事だ。


 つーか国光くん以外、今の所【罪状】が表示された事はない。


 【感覚共有】の方はいつでも使えそうだが、他人と感覚を共有する、というのはそれなりにリスクがありそうだ。


 まあ、変な夢見るくらいって考え方もあるが、良質な睡眠ってのは大事だからな。


 しかしフローラ姫とはね⋯⋯あんな美人に言い寄られるなんて経験、この先ないだろうな。


 でも⋯⋯仕方ない。

 俺には恋人がいる、それだけは夢じゃないんだから。

 ベッドのそばで充電していたスマホを取る。


 ちょうど香苗からメッセージが届いていた。


「忠之、今週末帰ってくるんだよね? 会えるの楽しみだなー」


「うん、帰るよ。俺も楽しみ!」


 ぶっちゃけ今なら【転移・GoogleMap参照可能】で会いたいときに会えるわけだが⋯⋯本来この世界に存在しない【スキル】が今後、何らかのキッカケで失われる可能性もある。


 人は生活レベルを下げれないっていうし、スキルありきの生活は自重しようというのが、この数日考えた結論だ。


 ただ、今もお世話になってる【異世界アイテム】もあるがね。


 ベッドに置いてある【指輪】を装着して、仕事に行く準備をしようとすると、新しいメッセージが届いた。


 友人の鷹司からだ。


「忠之、今週末帰ってくるんだろ? 香苗連れて家にも寄ってけよ! 息子もデカくなってるからお前驚くぞ!」


「おいおい、恋人同士の逢瀬を邪魔するなよ」


「何いってんだ、お前が言ってたんだろ? 俺達の友情は香苗を中心にした『かなえ』だってよ!」


「朝から恥ずかしい黒歴史掘るんじゃねぇよ!」


「これ以上掘られたくなかったらちゃんと来いよ、じゃーな! 朝からワリィな!」


 ⋯⋯まったく。

 しかし『鼎』か、懐かしいな。


 子供の頃から三人一組で行動していた俺達。

 それを昔中国で使われてた三本足の釜にちなんで、俺達の友情を「僕たち、香苗ちゃんを中心にした『鼎』だね!」って言ったのだ。


 まだ自分の事を僕って言ってたなぁ、懐かしいな。


 俺は大学進学を期に一人地元を離れたが、二人は地元に残った。


 鷹司は卒業後、付き合っていた同級生とすぐに結婚。

 子供も産まれて⋯⋯もう四歳だったか。




 さて。

 仕事に行く準備は終わったが、まだ時間があるな。


 ⋯⋯変な夢みたせいか、ちょっとムラムラする。

 週末に香苗に会えるってのも、興奮するな。

 まあ香苗に『そーいうのは結婚してから!』って言われてるから、キス止まりなんだが。


 女神や王女もスタイル良かったけど、香苗も胸は結構⋯⋯ん、そうだ!


 ここで俺に天啓が走った。


 【個人情報開示】スキルにはあの項目があるじゃないか!

 体重の横に【タップでスリーサイズ表示】が!


 でも、スキルを乱用するのは⋯⋯。

 そもそも恋人なら、直接聞けばよくね?

 うん、それが普通だよな。

 

「【個人情報開示】!」


 メッセージアプリの香苗のアカウントに、スキルを使用。

 ゴメン香苗、スリーサイズ、スリーサイズだけだから!


 ステータスウィンドウに、香苗の個人情報が表示される。


本名:梁島香苗やなしまかなえ【タップで画像表示】

性別:女

年齢:22歳【タップで生年月日表示】

国籍:日本

身長:158cm

体重:46kg【タップでスリーサイズ表示】

職業:美容部員【タップで勤務先詳細】

住所:山口県山口市××町

電話番号:080-××××-××××

家族構成:父、母

特記事項:非処女

【罪状】托卵画策【タップで詳細確認】


 おお、ではスリーサイズを⋯⋯ん?

 特記事項には、国光くん以来見ることが無かった【罪状】が表示されている。


 非処女?

 托卵画策?


 ドクンと心臓が動く。

 なんだよ、これ⋯⋯。


 俺は指を震わせながら、【詳細確認】を押した⋯⋯。



 

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