第6話 残念勇者は【威圧】する
謝ってるんだから許せ! と開き直る国光くん相手に、俺はスキルを使う事にした。
でも良かったね国光くん、俺はとっても平和主義なんだ。
だから、俺が持っているスキルの中でも、一番平和的なスキル使ってあげるね!
──スキル【威圧】。
ビクン、って音が聞こえそうなくらいの反応で、不満げにしていた国光くんの背筋が伸びた。
【威圧】は、無駄な戦闘を避ける為のスキルだ。
使用すると、生命としての『格の違い』を理解させ、俺より弱い魔物が襲って来なくなる。
異世界なら、道中で無駄な戦闘を避ける為の、とってもとっても平和的なスキルだ。
まあ恐らく、この世界にいるあらゆる生物が、今の俺とは戦闘を避けるだろうけどね?
まあこれで、国光くんが逆上して殴りかかってきたりという事も無いだろう。
【威圧】はすぐに解除。
あまりに長い間威圧すると、相手は逃げ出してしまうし、逃げられない状態だと下手したら精神が壊れちゃうからね。
「いやー、いきなり土下座なんて困っちゃうなー! 取りあえず横に座ってくださいよ」
「⋯⋯は、はい」
国光くんは多少足を震わせながら、俺の隣に座る。
座ったあとも、足の震えは中々止まらないみたいだ。
「ほらー、正座なんかするから。足痺れちゃってるじゃないですか」
「は、ははは、おかしい、な」
ふふふ、準備完了。
ここからは逆に、思考させて縛ってやるぜ。
国光くんが隣に座ってから、俺はしばらくの間ワザと黙ってみた。
沈黙ってのは、相手にプレッシャーがかかるのだ。
実際国光くんはモゾモゾと、居心地悪そうにしていた。
そろそろいいか。
三分ほど黙ったのち、俺は言葉を発した。
「で?」
「えっ、あの⋯⋯」
困るよね!
いきなり「で?」とか言われても!
わかるよ、それが狙いだから。
このあとのやり取りを俺に都合良く進めるためのジャブだからさ。
「いや、分かるでしょ?」
「あ、あの、えっと」
分かる訳無いよねぇ!
今の沈黙はね、これから俺が言う事を、君が無視できなくなる為の儀式さ!
この沈黙を挟むだけで、国光くんはこれから俺の言葉に縋ろうとするのだよ、くっくっく!
「いや、何で人の事煽ったりすんの?」
「あ、そうですね⋯⋯」
国光クンは何か色々考えている様子だったが、言いたいことが纏まったのか、説明を始めようとした。
「あの、俺が⋯⋯」
よし! ここだ!
「何かさ、アナタのアカウントみたら、しょっちゅう色んな人煽ってんじゃん。なんでそんな事すんの? あなたくらいの年齢なら、それがダメだって事くらいわかりますよね?」
「あ、その⋯⋯ハイ⋯⋯」
ワザと話を被せ、国光くんの考えをリセットさせる。
せっかく考えが纏まったのに、話がちょっと変わっちゃったねぇ!
ふふふ、また考えてねー。
そのまま国光クンは、またしばらく黙っていたが、再び考えが纏まったようだ。
「あの⋯⋯煽ってすみませんでした」
ふふ、そうくると思ってたよ。
国光クンの一言に、俺は彼の肩に手を置いて言った。
「──言えたじゃねぇか」
俺の行動に、一瞬ビクッとした国光クン。
しかしすぐに吹き出した。
「いや、それ言うのって『やっぱつれぇわ』の時でしょ」
「そうっすねははは」
「ははははは」
そのまま、夜の公園で二人笑う。
そして、俺はスッと笑いを止めた。
「いや、何許されたみたいな雰囲気出してんの? あと謝れとか言ってないよ? なんで人煽るか聞いたんだけど? 質問の意味わかってる?」
「⋯⋯すみません」
「まったくよー! 良い年してそんな事もわからねーのかよ! まあいいや、じゃこれ」
普段君は他人に、変な上から目線で色々言ってたよね?
どうだい? それがそのまま返ってくるのはさ。
さて、次の作戦開始ー!
俺はカバンからノートと筆記用具を取り出し、国光くんに渡した。
「あの、これは⋯⋯?」
すぐに答えず、俺は国光くんがついさっきクソリプを送ったイラストを表示して見せた。
「なんかこのイラストに、デッサンがどうとか指摘してるよね? 手本見せて?」
「⋯⋯」
「ほら、描けよ」
「あの、俺、絵とか全然描けなくて⋯⋯」
「⋯⋯」
言い訳を無視して、俺は黙ってる。
描かない限りこの沈黙が続く、それを強く認識させるためにも最初に黙ったのだ。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯ハイ、描きます」
沈黙に耐えられず、国光くんは抵抗を諦め絵を描き始めた。
俺も人のことは言えないが、ハッキリ言ってド下手くそだ。
約10分で、キャラの面影など一つもない物体が出来上がった。
「できた?」
「はい、まあ⋯⋯」
「じゃあ、それ写メ撮ってアップして」
「えっ⋯⋯?」
「『ほら、俺が見本描いてやったぞ! 参考にしろ!』ってリプして添付しろよ」
「⋯⋯あの、それは、勘弁して下さい」
「嫌なの?」
「あ、その、イヤって言うか⋯⋯」
まあ、ここでまた沈黙作戦でも良いのだが⋯⋯。
ここはサクッと進めよう。
再び、一瞬だけ【威圧】のスキルを使用。
瞬間、国光くんの顔に汗と、その表情には恐怖が浮かぶ。
ただ、【威圧】が一瞬だった事もあり、逃げ出すまではしなかった。
「『ほら、俺が見本見せてやる! 参考にしろ!』ってコメント忘れないでくださいね?」
「は、はい!」
国光くんは慌てて絵の写真を撮り、SNSにアップした。
しばらくしてから俺のスマホで確認すると、国光くんがアップした絵にリプが付き始める。
「コイツこれでデッサンがどうとか言ってたのか!」
「俺より下手な奴初めて見た」
「これで参考にしろとか逆に精神力すごすぎ」
「ウチの犬が今朝、散歩中に出した奴に似てる」
↓
「クソワロタ」
↓
「クソだけに?」
↓
「草」
↓
「そこは『臭』でお願いします」
↓
「wwwww」
うんうん、盛り上がっとるねぇ。
「良かったね国光くん! みんなアナタの絵を見て喜んでるよ! こんなに人を愉快な気持ちにさせたの久し振りでしょ?」
良かったね! 感を出しながら国光くんに話かける。
当たり前だが、全然嬉しそうじゃなかった。
そりゃそうだよな、はっはっはー!
「⋯⋯」
「えっ? 何か文句言いたいの?」
「あ、いえ⋯⋯」
「じゃあ俺にお礼言って?」
「えっ?」
「俺が提案したおかげで、国光くんが人を楽しませる事ができたでしょ? そのお礼」
「⋯⋯ありがとうございます、ヘイヘイホーさん」
「はっ?」
俺が聞き返すと、国光くんは慌てて説明した。
「いや、アカウントの名前が『孫子のヘイヘイホー』さんなんで、ヘイヘイホーさんって」
「いや、仲が良いわけでも無いのに、普通下で呼びます? 常識無いんですか? ほら、やりなおして」
本当さぁ、いちいち説明しないと分からんかね。
まあ自分は『国光くん』って下で呼んでる事を、完全に棚に上げてるけどな!
はっはっはー!
「⋯⋯ありがとうございます、孫子さん」
「いいんですよ、国光くん♪」
ほらほら、どうせ思ってもいない謝罪を口からペラペラ出して嘘をつくならさ。
まずは同じ嘘でも、俺に感謝でもしやがれ!
がっはっはっはっはっはー!
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