第2話 【罪状】佐藤国光

 あーあ。

 なんか面白い事ねーかな。


 えーっと⋯⋯ん? 何だこの絵。

 ヘッタクソだな。


「好きなキャラ描いてみました!

 練習中でヘタクソだけどすみません!」


 イイネ35件か。

 覇権アニメの絵描いてこれかよ、笑わせる。

 ここについてるリプは、っと


「可愛い」

「好き」

「キャラ愛伝わる」


 はあ?

 こいつら目ん玉ついてんの? こんなのにイイネ付けたりすんの甘やかしてるだけだろ。

 よし、俺がアドバイスしてやるか。


「ヘタクソ過ぎでワロタ

 もうちょいデッサンとか全体のバランス考えたら?

 色の塗り方も雑すぎ

 このクオリティだと原作者もいい気しないと思うよ?」


 よし、これでいいや。

 お、擁護リプが付き始めたな。


「は、お前なんなん?」

「じゃあお前描いてみろよ」

「手本見せてから言えば?」


 うるせーな。

 おまえ等に言ってねぇよ。


 手本? わかったわかった。

 画像検索⋯⋯これでいいか。

 コスプレイヤーの写真を保存して⋯⋯。

 ちょっと漫画化アプリで加工して⋯⋯モノクロにして⋯⋯ほらできた。


「時間無いからカラーじゃないけど、まあこの位はちゃちゃっと描けちゃうよ?」


 どうだよ。

 ほーら、ぐうの音もでねぇだろ?

 ん⋯⋯?


「これ、この写真パクってね?」

「マジだ全く同じじゃん」

「このアプリで加工したら、俺も同じものできたぞ」

「これでいけると思ったの頭悪すぎて草」


 ちっ、うるせーな。

 こんなん探してくるとか、暇人かよ。

 はいはい、名探偵名探偵。


「俺は自分で描いたっつうの

 感情論で証拠偽造してレッテル貼りとかマジでダッサいなお前らw

 これ信じる奴とか陰謀論にすぐハマりそう

 人貶める事しか考えられないカスw

 負け惜しみ乙w」


 よし、これで⋯⋯ん?

 あの下手くそな絵描いてた奴、原作者からリプ貰ってるじゃん。


「うわぁ、描いてくれて嬉しいです!

 作品とキャラ愛が伝わる良い絵ですね

 パワー頂きました!

 これからも頑張ります!」

「わ、わわわ、ご本人からそんな事言って貰えるなんて嬉しいです! 応援してます!」


 はあ?

 何コレ、くだらね。

 原作者にもリプしてやるか。


「人気商売だと下手くそな絵褒めなきゃいけなくて大変ですねw

 クリエイターってより営業マンみたいw

 そんな絵褒めるなんてせっかくの作品が泣いてますよ?」


 あ、ブロックされたわ。

 何なん?

 サブ垢に切り替えて、スクショして⋯⋯垢戻して、よし。


「アニメ見てやってる客に対して、ちょっと意見言ったら原作者がこの対応はどうなの?

 煽り耐性ないならSNSなんて引退した方がいいんじゃね?

 まあ、原作クソなのに制作会社ガチャ当たってアニメがちょっとバズって調子乗ってるのかな?

 本性でちゃったねw」


 お、イイネ2件貰ったわ。

 みんなもそう思うよな。


 本当、大した作画でも無いのに、ちょっとアニメ制作会社ガチャ当たって調子に乗るとか人間性終わってね?


 運がちょっと良いだけで、本来の実力以上の評価受けるとかどう考えてもおかしいだろ。

 あーあ、嫌な世の中だな。


 そんな歪みはどんどん正していかないと⋯⋯おっ、このメリナって絵師。

 フォロワー1200人で少ないけど、まぁまぁ上手いじゃん。


 そうだよ、こういう実力あるのに日の目を見てない奴を俺は育ててやりたいんだよ。

 そうだ、良いこと考えた。


「絵上手いね」

「ありがとうございます!」


 うんうん、素直な反応だ。

 よし、お前は俺が育ててやろう。


「今アイコン新しくしようと思ってて

 アカメモのキョーコ知ってる?

 最近実装された巫女スタイル描いてくれない?

 人気キャラだし俺がアイコンにして拡散に協力すればフォロワーも増えると思うよ」


 俺がコイツの描いた絵をアイコンにして宣伝すれば、多少は拡散できるだろう。

 それでコイツのフォロワー増えれば、俺が育てたって事になるな。


「えっと、それは私が描いた絵をアイコンに使いたいって事でしょうか?」

「うん」

「あのすみません、無償のリクエストは受け付けてなくて

 一応固定ツイートにSkeb貼ってるので、そちらから依頼して貰えたら嬉しいです!」


 はあ?

 コイツ、このフォロワー数で金取る気?

 わかってないな。


「先行投資ってわかる?

 あなたの絵をアイコンにして拡散しようと思ってるんですけど

 広まってフォロワー増えればSkebの依頼も来るでしょ?

 今のフォロワー数なら無償のリクエストバンバン受けるのが良いと思うよ?」

「すみません、そういう考え方もあるかも知れませんが無償のリクエストは受け付けてません⋯⋯今まで依頼してくれた人にも悪いですし」


 ちっ、何だよコイツ。

 人が良かれと思って言ってやってるのに⋯⋯ん?


「うわメリナさんにクレクレ来てるやん」

「常識無いな小学生かな?」

「タダとか図々しすぎてヤベー」

「消えろぶっ飛ばされんうちにな」

「つーかコイツのリプ見たらヤベー奴で草」

「ブロック推奨」

「Skebの金も払えないとかw 働けよw」


 クソ⋯⋯なんだよ。

 底辺絵師のクセに、変な断り方して俺に恥かかせやがって。

 許さねぇ。

 今日からDM送りまくってやろ。







「また下手くそな絵描いてんの?」

「フォロワー全然増えなくて草」

「俺の言うこと聞いてたら違ったのに、バカだな」

「お前の絵需要ないんだよ」



 あれからメリナって奴が絵をアップするたびに、毎回DMでコメントしてやってるけど、コイツブロックしてこねーな。

 まあ、ならずっと言い続けてやるわ。


「まーたワンパターンな構図だな」

「色塗りで線画の下手さ誤魔化すの止めたら?」

「お前みたいな奴どーせプロになれないからやめとけ」

「うわフォロワー増えないからって媚び媚びの絵でひどいですね」

「いやこの絵でSkeb8000円とか流石に強気すぎで笑う」

「なんでFANBOXやってるの? ファンいないのに」


 あれ?

 絵アップしなくなったな。

 まあいいや、DMしとこ。



「この程度の批評で心と筆折るような奴、そもそもプロなんて無理だからさ

 万が一プロになったとしてもすぐ仕事投げ出すに決まってるわ

 変な夢追って無駄な時間過ごさずに済んで良かったね

 俺に感謝してよ」


 これで良し。

 まあ、返事無かったらまたDMしよっと。


 返事こねーな。


「ほら、感謝しろよ」

「礼も言えないの? 常識無さ過ぎない?」

「そんなんだから描く絵もダメなんだよ

謙虚さ忘れた奴が絵描いても

タダの独りよがりだから」

「せめて返事するくらいの礼儀も無いの?」

「返事しろよ、ほら」

「返事ー!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯」







────────────────


「うわぁ⋯⋯コイツマジか」


 佐藤国光の行いが脳裏によぎると同時に、アイツのせいでみんなが感じた「負の感情」も俺に流れ込んで来た。


 恐らく魔王が最後に残した【感覚共有】の効果だろう。


 みんなこの佐藤国光への憤りを感じていたが、特にメリナさんから発せられたであろう負の感情はヤバかった。


 相手を逆上させまいと、ブロックせずに放置していたみたいだが⋯⋯憤り、恐れ、焦燥感、悲しみ、様々な感情が渦巻いていた。


 佐藤国光のせいで少しずつ心が削られ、絵を描いている時も、普段何気なく過ごしている時間も、常に奴の事が気になっていたみたいだ。


 日常さえ奴の行いに浸食され、どんな時にも頭の片隅には、奴から来たリプやDMの事がひっかかり、暗い気持ちになっていたようだ。

 SNSのアプリに、通知が表示される事さえ恐れるようにまでなってしまっていた。


 悪意が日常を浸食したのだ。


 それは、メリナさんが優しい人だから。

 悪意をもって接してくる相手にも、強く出れない。

 相手を少しでも不快にせず、嵐が過ぎ去るのを待つような心境。

 ただ、いつまでも続くDMに、心をすり減らしてしまったのだ。


 ただ純粋に創作を楽しんでいるだけなのに、あんな奴に目を付けられてしまった事で、停滞してしまったのだ。


 ならメリナさんのファンとして、俺がやるべき事は一つだ。


 メリナさんに、再び絵を描いてもらうこと。

 それが俺の性癖にとってもプラスだしな。


 そのためには⋯⋯。


「よし、コイツは排除してやらないとな」


 ふっふっふ、待ってろ国光くん。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る