帰還した勇者は性格が終わっている!~異世界から持ち帰った鑑定スキルが『個人情報開示』に進化したので、SNSのレスバ(※物理込み)で無双するなど~
長谷川凸蔵@『俺追』コミカライズ連載中
勇者帰還編
第1話 残念勇者は帰還する
俺の一撃が止めとなり、魔王が滅びゆく。
「見事だ⋯⋯異世界の勇者よ」
魔王からの賞賛に、俺は肩を
「すまないな、別段恨みも無いが、お前を滅ぼさないと元の世界に帰れないもんでね」
一年前、女神によって突然この世界に召喚され、魔王を倒せなどと
まあ、向こうからしたら「どうかお願いします」ってちゃんと頼んだモン! ⋯⋯ってな感じかも知れないが、やらなきゃ戻れないって事なら、実質命令を押し付けられたのと変わらないよね?
「ふっ⋯⋯望郷の念が、我を超える力を生み出したか」
「いや、そんなイイモンでも無いと思うけどな」
「⋯⋯まあよい、滅びゆく我より最後のプレゼントだ」
なんだ?
負け惜しみか? 負け犬の遠吠えか?
まあいいや、もうすぐ帰れると思えば寛大な気持ちになれるってもんだ。
「まあ、遺言くらい聞いてやるよ」
「⋯⋯お主、さては性格悪いな?」
「うるせぇ、言いたい事あるならさっさとどうぞ」
「言いたい事は無いが⋯⋯ホレ」
魔王が手を向けた瞬間、奴の感覚が俺に流れ込んできた。
「イタタタタッ! 何しやがる!」
「【感覚共有】のスキルだ。くれてやる」
ピコン。
《【感覚共有】を手に入れました》
「別にイラねぇけど」
「そう言うな⋯⋯忠告だ。我は力に溺れ、女神に目を付けられ、滅ぶに至った⋯⋯お主もゆめゆめ忘れぬ事だ、過ぎたる力は、己が身の破滅を招くと心せよ。その為にも、弱者の思いをこれで理解しろ」
うるせーな。
死に際の説教なんかしやがって。
「まあ、そうかもね。大丈夫、俺は元の世界で慎ましく生きるからさ!」
「ああ、それが⋯⋯良かろう⋯⋯ただ⋯⋯忘れるな、力に溺れた時、こそ、我と、同じ道を⋯⋯」
それだけ言い残し、魔王は灰になった。
まあ、別にコイツに説教される筋合いも無いが、言ってる事自体は正しいし、気をつけよ。
遺言だか忠告だかを真摯に受け止めていると、魔王と入れ替わるように女神が現れた。
見た目は薄いドレスを一枚着ているだけのドスケベ女だが、この世界を管理している偉い人みたいだ。
「異世界の勇者
「いやー、我ながら頑張りましたよ! じゃあ元の世界に戻してください!」
「はい。魔王が滅ぶ時に生まれるエネルギー⋯⋯それがアナタの帰還には必要でした」
「じゃあ、ほら、お願いします!」
「
「早く帰りたいんです!」
「わかりました⋯⋯では」
女神が手をかざすと、俺の身体が光に包まれる。
ここに喚ばれた時と同じ光だ。
やっと帰れる⋯⋯と、その前に。
「女神様、もう俺、喚ばれたりしないですよね?」
「はい、召喚は一度だけと決まってます⋯⋯この世界に再び危機が迫ったとしても、喚ばれるのは別の人物でしょう」
ふっふっふっ。
それが聞きたかったぜ。
なら、計画を実行に移すとするか。
「女神様⋯⋯完全に消える前に、お伝えしたい事が」
「⋯⋯? なんでしょうか?」
「ちょっとこっちに来てください」
「はい」
女神が無警戒に近付いて来た。
そして、俺は消える瞬間──。
ポヨン。
女神の胸を両手で掴んだ。
「なっ、なななななっ、なにを⋯⋯」
うろたえる女神は無視して、揉みしだく。
女神は顔を真っ赤にしながら俺の手をはたき、胸を押さえた。
ふっ、もう遅いぜ。
たっぷり堪能させて頂いた!
「そのドスケベボディ、ずっと触ってやりたかったんだわ! はっはっはー! これぐらいの褒美貰わんと割にあわねーよ!」
「こ、この色情魔! 待ちなさい!」
「じゃーねー女神ちゃーん! バイバーイ!」
──こうして、俺は与えられた使命をキッチリ果たし、帰還する事になった。
──────────────────────
気が付けば、自室にいた。
どうやら帰って来たらしい。
PC画面が立ち上がったままだったので、日付を確認すると、俺があっちに召喚された日みたいだ。
鏡を見ると、魔王討伐時の姿そのままだ。
いや、この鎧とかどうするよ。
剣とかも銃刀法違反丸出しだろ、これ。
そもそも伝説の武具なんて、持って帰っちゃって良かったのか?
⋯⋯まあ、いいか。
何かあって困るのはアッチの奴らだし。
しかし、召喚された日に戻って来れたのは嬉しいが、俺自身は一年経ってしまった、という事か。
女神なら、そこら辺もケアしろよ、やりっぱなしか。
異世界に行って戦い三昧の日々を過ごしたせいで、鏡に写る俺の姿は、一年前のややポッチャリとは違い、精悍な顔になっていた。
ふむ、これはこれで悪くない。
でも出社した時どうしよう⋯⋯?
「まあ、それは後で考えるとして、すぐにやらなきゃ⋯⋯な」
俺はキョロキョロと見回し、目的の物を探す。
一年経っていても、それはすぐに見つかった。
ティッシュだ。
「はははは! 女神! お前の感触が手に残っているうちに、妄想で汚しまくってやるぜ! クソが!」
いそいそと鎧を脱ぐ。
やっぱり面倒くさいな、これ。
仕方なく部品一つ一つ解除しながら鎧を脱いでいると⋯⋯。
ブブブブブ。
スマホがブルブルと震えた。
何か通知されたようだ。
鎧を脱ぐ作業を中断し、スマホのロックを解除する⋯⋯ってか懐かしいなこの感じ。
どうやらSNSに返信があったようだ。
返信内容は⋯⋯。
『うはムキになってるw
ダッサw
顔真っ赤じゃん』
という物だった。
そうか、俺、召喚された時レスバ中だったか。
一年前だから流石に忘れてたわ。
スマホでレスバしてたら、気が付いたら魔王と戦うハメになるとはなぁ、人生何があるかわからんな。
やりとりを遡ると、俺が好きな絵師に「今日も最高です!」とリプしたところ「こんな絵で興奮するとか童貞だろw」と一方的に童貞認定され、反論したら煽りが来た、という感じだった。
ふっ、くだらん。
この時は腹も立ったが、俺にとっては一年前の出来事。
流石にそんなくだらない怒りも持続しない。
こんな奴相手にするだけ無駄だし、スルーしよう。
荒らしに構う奴も荒らしってね。
何となく気分が冷めてしまい、そのまま鎧を脱ぎ、風呂に湯を貯めて浸かる事にした。
いやー、異世界だと水浴びメインだったけど、風呂はやっぱりいいねぇ。
これぞ日本の心って感じで、異世界疲れが身体から抜けていくようだ。
いやー、戻ってきたんだなぁ。
実感が湧いてきた。
風呂から上がり、体はホッカホカ。
そして──怒りもホッカホカじゃあああああっ!
「このクソ野郎、帰って来たタイミングで煽りカマシやがって! せっかく女神のおっぱい揉んでいい気分だったのによぉおおおおっ!」
この野郎、俺は勇者だぞ?
目の前で同じこと言えるんか!? ああん!?
「クソ、コイツマジで特定してぇ! あークソクソクソ⋯⋯」
俺が呪詛じみた言葉を吐いていると⋯⋯。
《ピコン》
聞き慣れた音が脳内に響いた。
これは⋯⋯。
《スキル【鑑定】が、本世界に適応し【個人情報開示】へと進化しました》
おお、やっぱりそうか!
スキルレベルアップの音だ!
異世界では《スキル》と呼ばれる能力があった。
魔法や必殺技などの特殊能力の総称、それがスキルだ。
そして、さっきのピコンって音は、スキル習得時や、スキルレベルアップ時に脳内に響く音。
しかも⋯⋯個人情報開示だと?
俺は煽りをかまして来たアカウント『柔らかマンタ』のプロフを開いた。
フォロー66でフォロワー3。
アニメアイコン。
まあ、珍しくもないアカウントだ。
「取りあえず試してみるか⋯⋯『個人情報開示!』」
俺が唱えると、異世界で見慣れたステータスウィンドウが現れる。
そこには『柔らかマンタ』の個人情報らしき物が記載されていた。
アカウント名:柔らかマンタ
ログイン用メール:kunikuni@××××.ne.jp
ログインパスワード:kuniKunikunikuni302
本名:佐藤国光【タップで画像表示】
性別:男
年齢:50歳【タップで生年月日表示】
国籍:日本
身長:169cm
体重:82kg【タップでスリーサイズ表示】
職業:派遣社員【タップで勤務先詳細】
住所:栃木県宇都宮市××町二丁目○番□号××町営団地302号室
電話番号:070-××××-××××
家族構成:父、母
特記事項:彼女いない歴50年、童貞
【罪状】神絵師引退【タップで詳細確認】
うおっ、めっちゃ細かい!
ってか、特記事項見たらお前も⋯⋯いや、お前童貞じゃねーか!
しかも家族構成からするに、いわゆる子供部屋おじさん。
ふふふ、何かこの時点で勝利って感じだ。
ネットという鎧に身を包んでも、今のお前は丸裸だよ。
相手は俺の事知らないのに、俺は相手を知っている⋯⋯これが心のゆとり、か。
情報を制する者、戦いを制すって奴だ。
楽しくなってキター!!!
──と、ここで気になる項目を発見。
一番下の⋯⋯【罪状】?
しかもそれが『神絵師引退』とある。
この項目にピンとくるものがあった。
俺は色々な絵師さんをフォローしているが、その中でもダントツで好きな絵を描くのが『メリナ』さんだ。
メリナさんはフォロワー数こそ1260とそれほど多くないが、その絵は俺の性癖にぶっ刺さる物が多く、いつも楽しみにしていた。
誰が何と言おうと、俺にとって神絵師と言えばメリナさんなのだ。
だが、最近アンチの粘着によって投稿を止めているのだ。
まさか⋯⋯それもコイツのせいなのか?
真偽を確かめるために、【罪状】の横にある【詳細確認】を押してみる。
その瞬間──
《ピコン》
《【感覚共有】が進化し、【追体験】が可能になりました》
俺の脳内に映像が流れ込んできた。
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