第3話 残念勇者はSNSで煽る
んじゃまずは情報収集だ。
50歳、童貞、子供部屋おじさんの佐藤君は、どんなSNSライフをお過ごしですかねー。
【罪状】でも確認はしたが、普段どんなリプ送っているか、改めてやり取りをチェックする事にする。
まず最初に目に入ったのが、あるイラストに対してのリプだ。
恐らく初心者らしい、初々しい感じの作品。
『好きなキャラ描いてみました!』
この発言に対して「可愛い」とか「好き」などに混じって、国光くんのリプがあった。
『デッサン狂い過ぎw才能無いから描くのやめたら?』
やっぱり、普段からこんな事ばっかりしているんだな。
次に気になったのは、そこそこバズってる大喜利の回答に対してのリプだ。
『これで笑うとかみんなレベル低すぎw身内で褒め合ってキンモーw』
なるほど。
やはり揚げ足取りや煽り、クソリプを送るのを趣味にしているようだ。
人を不愉快にして愉悦に浸る⋯⋯そんなタイプなのだろう。
次はリプではなく、イイネをチェック。
コスプレイヤーやグラビアアイドルなどの発言にイイネを付けつつ「もっと大胆に!」みたいなリプを送っている。
だが、相手にされないとわかると「調子のんなブス」みたいな発言をしている。
「これは⋯⋯やはり成敗しないといけませんなぁ」
口元を抑えているが、正直ニヤニヤが止まらない。
いや、ダメだダメだ。
俺は唇を噛んで、無理やり笑うのを我慢した。
そう、これは私怨ではない。
クソアカウントを成敗し、SNSに平和をもたらす崇高なるミッション!
まさに勇者としての行いである!
メリナさんの為にも、ここは頑張らねば!
俺はさっきの童貞煽りリプに返信した。
「人を煽るのはよくないですよ、国光クン♪」
さあ、ミッション開始だ。
さーて俺のリプに、国光クンはどう反応しますかねー?
しばらく待っていると、柔らかマンタこと国光クンから返信があった。
「はっ? 何突然? 人に変なあだ名付けて⋯⋯煽られて頭おかしくなったんか?」
うっはー! 強がってるぅー!
内心ドキドキしてるクセに、強がってるぅー!
あああああっ! 楽しすぎる!
情報開示最高かよ!
⋯⋯おっと、イカンイカン。
これはあくまでSNSの治安を守る、勇者としての活動だ。
楽しんではいけない。
あくまでも、コイツによって不愉快な思いをした人々の無念を晴らすためなのだ。
冷静に、淡々と業務を遂行しなければ。
では次の一手。
「あっ、ゴメーン気に入らなかった!? じゃあ国光クンとサトクニどっちが良い?」
そう、佐藤国光。
略してサトクニ。
ふっふっふ、これなら『俺はお前のフルネームも把握してるぜ』ってアピールになるだろう。
さあ、どう来る! 国光クン!
「いや、さっきから何の話してるんだ? 頭大丈夫か?」
粘るねぇ!
そうこなくっちゃ!
そろそろ偶然じゃ済まない奴いっときますか!
えっと住所は⋯⋯よし、こんな感じでどうだ!?
「あ、これから団地行っていい? 302号室だよね?」
具体的な住所は示さず、あえての号室指定!
これでどうだ!
さて国光クンどうしますか!?
リプちょうだい!
だが俺の気持ちとは裏腹に、柔らかマンタからの返事はなかなか来ない。
焦らすねぇ。
しばらくして⋯⋯リプではなく、他者からは見えないようにしたいのか
「あの、すみませんどなたですか? 知り合いだったりしますか?」
うははははははっ! 急に弱気!
リプのやり取りという、公開された場は怖いってか!
メリナさんとのやり取りでも、叩かれたらDMでコソコソやってたもんなぁ!?
一般人だからリアルとは繋がりのないはずの、たかがネットアカウントなのにプライド重視。
いや、ネットだからこそ、本来の弱さは見せられない、謝ったら負けだと勘違いしている、典型的なネット弁慶タイプ!
だから謝るにしても、不利な状況で嫌がらせするにしても、あくまでも裏でコソコソ!
でも残念! 君がやりたい事には俺、付き合いませーん!
俺を『顔真っ赤』なんて煽ったんだからな?
そのせいで、一年かけてやっと魔王倒して帰って来た早々に、嫌な気分にさせられたんだ!
しかもお前のせいで、メリナさんは絵を描けないし、俺も性癖ど真ん中の素晴らしいイラストが見れなくなった。
その報いはタップリ受けてもらうぜ!
──じゃなくて。
俺はやりたくないんだけど、普段から人に不快感を撒き散らしてるような輩は、取り締まらないとなぁ?
大義は我にあり!
正義執行! 刮目せよ国光、これが俺の戦い方だぁ!
俺はDMを素早くスクショし、先ほどのリプ欄に、今撮った画像を添付しながら追加でリプをした。
「あれれー? なんでいきなり敬語でDM送ってきたんですか? ビビってる? しかも知り合いですかって聞くのって、名前も302号室もあってる⋯⋯ってコト?」
だってそうじゃなきゃ、こんなDM送らないもんねー!
このやり取り見てる人、そう判断しちゃうよー?
これに対するリプはソコソコ早かった。
「は? ビビってるとか何? つか何勝手にDM晒してんの? あと全然あってねーし妄想やめろ」
ならなんでDMして来たんだよ!
わかってるだろ、ビビってるってのは、今のお前そのものだよ、バーカ!
と突っ込むのは胸の中だけで、実際に返したリプは違った。
「あれ?
もしかしてなんですが
DMを晒されちゃって
今の国光くん⋯⋯顔真っ赤ですか?」
ンンンンンン!
『顔真っ赤』っていう、相手に言われた言葉をそのまま返す!
き・も・ちイイイイイイッ!
おっと、ダメだって。
死に際の魔王にも言われたじゃないか、力に溺れてはならん、と。
自制自制。
これはあくまでも、あくまでも!
人を煽って楽しんだりする奴を、成敗する為にやっている尊い行為なんだからな。
──と考えながら、俺はPCの検索バーに国光クンの住所を入力し、GoogleMAPを開く。
そのままストリートビューで、国光クンが住む団地を観察。
団地の前には、かなり年季の入った公園があった。
ふふふ⋯⋯この公園で幼少期の、純真だったころの国光クンも、パパやママと希望溢れる日々を過ごしたのかな、などと想像を巡らせる。
そのころは、まさか国光クンが独身のままひねくれて、SNSで人を煽る事を生きがいにする子供部屋オジサンになるなんて、想像もしてなかったですよねー!
切ないね! 人生って!
一方的に知った個人情報で、相手の人生に思いを馳せながら、丸裸にしていく。
《
うはははははっ!
ウキウキと周辺MAPを観察しながら、一方で現状について考える。
頭の良い人間ならこれ以上俺に突っかかって来たりしないだろう。
相手はどうやら一方的に自分の事を知っている。
ならば勝ち目は無い、と最低限の知能があれば気付く。
もうこれ以上はスルーするか、ブロックして「気のせい気のせい」って言いながらも、煽り合いに負けた事にムカムカしながら過ごすしかないじゃんね。
でも、それが出来ない人間はいる。
そして俺の見立てでは、国光くんは間違いなく「それが出来ない側」の人間。
プライドだけが高く、前言を撤回できないタイプ。
こういう人間は、自分の言葉に自分自身が縛られている事に気が付かずに、突き進んでしまうのだ。
仮にここで引かれても、まあ最悪、次の休みに自宅訪問してもいいけどね?
などと俺が考えていると⋯⋯。
《ピコン》
ん? スキルレベルがまたアップ?
《スキル『転移』が本世界に合わせ、『転移【GoogleMap参照可能】』に進化しました》
うおおおおっ!
名前だけでわかる、これは便利そうだ!
今まで『転移』スキルは、行ったことがある場所にしか転移できなかった。
それが、これなら多分『GoogleMap』で見れる所は行けるって事だろ?
なら、ほぼ実質世界中行けるって事じゃん!
そうだ、ヨハネスブルグに行こう→マジで行けちゃう。
みたいな感じだろ?
すげー! 異世界なんて飯はマズいし、何度も死にかけて苦労したけど、頑張って良かった!
スキル最高!
と俺が考えていると、国光クンから返信が来た。
「はっ? 顔真っ赤はお前だろ? それで訳わかんない妄想並べてバカじゃねーの?」
そう。
来ちゃうんだよね、止まれないんだよねぇーキミみたいなタイプは!
たかがネットアカウントの名誉だかなんだかのために、引くべき所で引けない。
哀れだねぇ。
転移スキルが進化したおかげで、次の休みを待つ必要もなくなったしな。
俺は国光クンに返信をした。
「妄想ですか? じゃあ俺の顔が真っ赤かどうか、今から302号室に見せに行きますね?」
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