第4話 残念勇者は自宅凸する
俺が訪問を匂わせるリプを送っても、国光クンからは中々返事がなかった。
うーん、この時間が彼の葛藤を感じさせるねぇ。
そして約10分後、返事が来た。
「はぁ? お前さっきから何言ってんの? 来れるなら来いよバーカw」
止まれなかったねぇ!
踏み込んじゃったねぇ!
僕は信じてたよ、君が止まれないってね!
『訪問の許可』をキチンとスクショ。
これでよし。
しかしあの名言を思い出すなぁ。
今の状況に合わせるなら「お前もしかして、自分がまだ自宅凸されないとでも思っているのかね?」って感じだ。
SNSでよく見るこのテのタイプ。
好き勝手誹謗中傷しておいて、いざ開示請求されたら慌ててアカウント消したり「なんか内容証明とかいうの届いたんですけど! どうしよう!」とか慌ててるヤツ。
逆に言えば、その時が来るまでバカはわからないって事だ。
実際に痛い目を見て初めて、反省するのだ。
しかもほとんどの奴が、相手に対しての申し訳無さではなく「やり方を間違えた」みたいな的外れな反省だろう。
仕方なく言わされる謝罪と、
他にもやってる奴いるのに、などと自分の不運を嘆いたりして、むしろ被害者ぶるような奴ら。
結局の所、ネットという「幻想の壁」に守られていると思い込んで、好き勝手して、たがを外し、報いを受ける。
まあ、弁護士から連絡来て、金を請求されるなんてまだマシなもんだよ、俺に言わせれば。
ネットという壁を乗り越えるには、本来開示請求費用という金がかかる訳だからな。
俺のスキルの前には、幻想の壁などないのだ!
もしお前がネットや金の壁に守られていると思っているなら、まずはその幻想をぶち壊す! 略して『そげぶ』ってやつだ!
口は災いの元。
その事を、俺は異世界でガッツリ学んだ。
他種族にナメた口聞いて、次の瞬間頭吹っ飛ばされてるヤツとか見てきたからな。
本来は力こそ全て。
異世界では謝罪や反省などという、口でどうとでも言えるものなど求めない。
二度とこんな事をしません、と恐怖を植え付けるか、永遠に黙らせるか、その二択なのだ。
国光くん、俺がこれからお前にやるのは、限りなく異世界式に近いぜぇ? ふっふっふ。
んじゃ許可の言質も頂きましたし、行きますかねー。
今は風呂上がりの簡単な部屋着だが、さっと行って帰るだけだからこれでよかろ。
あ、靴は履かないと⋯⋯それとカバンにノートと筆記用具入れて⋯⋯これでよし。
あとは転移前に《
これで転移先に人がいても、見られないって寸法だ。
俺はさっきのGoogleMapで見た公園を思い浮かべ、《転移》のスキルを使用した。
一瞬視界が暗くなり、次の瞬間には先ほどPCで見た公園に到着する。
おおー、便利だ。
団地を観察すると、縦に棟が区切られているようで、左から末尾が1、2、次が3、4⋯⋯みたいな感じだ。
つまり国光クンの部屋は、一番左の三階って事だ。
階段の踊場から、外が見えるような構造になっている。
階段はダルいので、俺はスキル《跳躍》を使用し、一気に三階まで飛び上がって踊場に着地した。
ドアに『302』の刻印と、表札の『佐藤』を確認!
そのまま俺は《索敵》のスキルを使用し、室内の生体反応を補足する。
透過された3Dモデリング、みたいな感じで表現された室内の構造と、赤外線サーモグラフィカメラで撮影された映像、みたいな生体反応が脳内に浮かんだ。
部屋の中には三人いる。
確か同居人は父と母だったな⋯⋯ってことはだ。
国光クンご在宅ですねぇ!
そのまま、各人物の大きさを比較。
確かさっき確認した個人情報だと、身長169cmの体重82kgだったな⋯⋯うん、コイツだ!
二人はリビングらしき場所に、ひとりは別室で椅子に座っていた。
あとは顔を確認しておこう。
個人情報開示を再度使用し、名前の横の【画像】をタップ。
小太りなオッサンが表示された。
よし、これで他人と間違える事もない。
ふふふ、準備万端。
俺はリプを飛ばした。
「来いって言われたから、すぐに行きますね? 今さら来るなとか言わないですよね?」
ありがたい事に、返事は早かった。
「だからさっさと来いよバーカ!」
ピンポーン。
返事を確認した瞬間、俺はチャイムを鳴らした。
《索敵》で中の様子は確認し続けていたが、チャイムが鳴った瞬間、国光クンと思われる人物が『ビクッ』と動き、そのまま椅子から転げ落ちた。
うはははははっ!
慌ててる慌ててる!
考える時間と冷静さを奪うためにも、ここで追撃だぁ!
「国光クンー! 来いって言ったから来たよー! 早くー! 出てきてー!」
近所にも聞こえるくらいの大声で叫ぶ。
このまま家に引っ込んでたら、注目を浴びちゃうよ? どうする国光くーん!
ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピンポーン!
その間も、俺はチャイムを連打しつつ、スキル【アイテムボックス】を使用した。
【アイテムボックス】は、異空間に道具を収納する能力で、その容量はほぼ無限。
中から『万能鍵』を取り出す。
見た目はコインみたいだが、『魔力』と呼ばれる不思議エネルギーを籠めると、鍵の先の部分が自動生成され、どんな扉も開ける事が可能な優れものなのだ。
カチャリ。
コッソリ国光クン宅の鍵を開け、準備完了!
《索敵》を継続しているから分かるが、玄関には母親らしい人物が向かって来ている。
だが、起き上がった国光くんらしき人物が慌てて母親を止め、自ら玄関に向かってきた。
「国光くーん! 来いって言われたから来ーたーよー! 開けてー! 早く早くー!」
ガンガンガンガンガンガン!
俺はチャイムを止め、《隠蔽》を解除しつつ、今度はドアを叩きまくった。
廊下にノックの音がこれでもかと鳴り響く。
国光くんがドアスコープをのぞき込もうとした瞬間──。
ガチャ。
俺はドアを開けた。
はい、ご対ー面ー!
「ヒッ」と短く声を上げ、さっき確認した通りの小太りなオッサンの目が、驚愕したように見開かれている。
間違いなく俺を煽った、レスバ相手の国光クンだ。
俺はそのままスマホを準備しつつ、にこやかな表情を浮かべて自己紹介を始めた。
「あっれれー? なんだ鍵開いてたのか! ははは、不用心だなー! 国光クン、リアルでは初めまして! アナタに童貞煽り食らった『孫子のヘイヘイホー』です!」
国光クンは足をガクガクさせながら俺を見て、震えるように声を絞り出した。
「あ、あの⋯⋯何しに来たんですか?」
「えっ? さっさと来いって言ってましたよねー? それなりに早かったと思うんですけど?」
早いどころか、返事と同時だけどな!
「⋯⋯いや、あの、マジで来ると思わなくて」
わはは、素直か。
そりゃそうだろうな。
だがな国光くん、俺の前ではそれは『幻想の壁』なのだよ!
少しずーつ分からせてあげるね!
「取りあえず確認なんですが」
「あ、はい⋯⋯」
俺はワザと笑顔を作り、自分の顔を指差しながら尋ねた。
「俺って今──顔真っ赤ですかね?」
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