2-3
「あの、さっきは庇ってくれてありがとう」
カツンと靴音を鳴らしながら階段を上るルカくんの背中に声をかける。この階段はわたしが繋がれていた場所から伸びる薄暗い階段とはちがって、たくさんのライトで照らされていてとってもきれい。
あの緊迫した場から解放されたわたしは、「とっておきの場所がある」とルカくんに導かれるまま、ようやく手錠なしで歩くことを許されていた。
この階段もだけど、さっき女の子がいた場所も、どこかのお城みたいな内装だな。
「なにがあっても君を守る。そう決めているから」
振り返ったルカくんはそう言って微笑んだ。お芝居ってわかっているのに、言われ慣れない甘い台詞に勝手に頬が熱くなる。ルカくんって、なんだか王子さまみたいだ。
「み、みんなお芝居上手だよね。わたし、あんな感じでよかったのかな」
照れ隠しに笑ってみせたら、ルカくんはきょとんと目を丸くした。予想外の反応。
「お芝居……とは?」
「え……お芝居なんでしょ? 時和町百年祭の。あ、そういえばもう一人男の子がいなかった? かなでくんって言うんだけど……」
いつまでもお芝居に付き合うわけにはいかない。今何時かわからないけど、かなでくんと合流して百年祭に戻らなきゃ。あんまり遅くなると朱里さんにも心配かけちゃうよ。
だけどルカくんはゆっくり首を横に振った。
「ごめんね、ヒイロ。僕にはよくわからない」
「え? だ、だって、ルカくんが時計台に行ったらいいよって……言った、よね?」
ルカくんは困ったように笑うだけだ。なんで? たしかにルカくんだったはずなのに。再び上り始めたルカくんの靴音が、今度はやけに耳に響く。
……胸騒ぎがする。これはお芝居だって必死に自分に言い聞かせてきたけど、もしこれがお芝居じゃないとしたら。ううん、そんなわけない。そんなことあるわけ――。
「見て、ヒイロ」
不意に頭上から声が降ってきた。先を行くルカくんが、階段の最終地点に辿り着いたみたいだ。冷えた風が吹き込んできて、わたしの髪をサラリとなでた。きっとあそこから外が見えるんだ。そういえば、目が覚めてから外を見る機会がなかったことを思い出す。
勢いよくタタッとかけ上って……
「な、に……これ……」
――見えた景色に心臓が止まるかと思った。
「ふふ、きれいだろう? ヒイロに見せたかったんだ」
目の前に広がるのはさっきまでわたしが見ていたあの「時和町」の街並みじゃない。それどころかわたしは今、巨大なお城の一角、展望塔のようなところに立っているんだ。
妖しく真っ赤に染まったお城に、どこまでも広がる生い茂った森。空を見上げればネコの爪のような三日月が……二つ。
――むかしむかし、トキノワ国という国がありました。
ママの声が聞こえたような気がした。まさか、まさか、まさか……。瞬く星空の下、ルカくんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「――ようこそ、トキノワ国へ」
「え……え……えええええ⁉」
時計の針が動き出したみたいに、わたしの運命も動き出す、そんな予感がしたんだ。
魔女スカーレットと時計台のひみつ ツキ @tsu_k
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