第2話
卒園式も近づいてきたある日、幼稚園の自由教室でまたピアノを触っていて、練習の息抜き程度に色んな曲を演奏していた。息抜きとはいえ勿論ピアノに集中していたから突然声を掛けられても、すぐには気が付かなかった。
相手が目の前まで来てようやく気が付き、驚いた僕は勢いよく椅子から落ちてしまった。
相手を慌てて確認すると、隣のクラスの男の子だった。廊下やグラウンドですれ違う程でしか見ない子だから名前が分からない為、さらに焦ってしまった。
それも相まって、声が全く出てくれなかった。これじゃダメなのに、何か声をかけないとまたこの子にも迷惑をかけるし、また一人になってしまう。
普段は一人になる事にこれ程大きな恐怖を感じなくなっていたのだが、今だけは違った。
この子から突き放されるのが怖い。一人になりたくない。直感的にそう思った。
「だ、大丈夫か!?どっか怪我したりしてないか?」
それでも僕は声が出ない。表情を上手く変えられない。身体を動かせない。こうなってくるとだいたい皆は僕から離れていくのに…
「と、とりあえず立てよ。ほら!」
君は手を差し伸べてくれた。
初めてだった。僕の目をしっかりと見て手を差し伸べてくれたのは。
家族以外でちゃんと“僕”を見てくれたのは。
そこで安心できたのかもしれない。
あぁ、この子なら大丈夫だ。多分もう僕は独りにならない、この子なら一緒に居てくれる。
直感的に思えた。
だから、
「……あ、りがと、」
笑えたかな。ちゃんと目を見返すことが出来たかな。
でも、ちゃんと言えた。
僕が一歩大きく変われた瞬間だった。
僕の伝え方 柊 綜 @frny_0762
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕の伝え方の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます