第165話 特別編③ 仕事の相談をしにきたんだ

 盗賊団のアジトは、いかにもな洞窟だった。


 念のために冒険用の装備を調達しておいて正解だった。


「こういう感じ久しぶりだなぁ。まだ勘が鈍ってなければいいけど」


 久々のダンジョン攻略に少しばかり緊張しつつ、先頭に立って進んでいく。


「おっと、やっぱりあったか。罠だ。みんな気をつけて」


 最初の罠を避けて進むと、また次の罠が見つかる。


「やけに多いな。でも、こんな見つかりやすいところに……って、まさか? みんな待って!」


 おれは罠を避けようと上げた足を、ゆっくりと戻す。ノエルの魔法の明かりを強くしてもらい、周辺を入念に調べる。


「……危なかった。この見つかりやすい罠を避けたら、別のしっかり隠された罠が発動するようになってたんだ。これを仕掛けた連中は、かなりの手練だ。慎重に行こう」


 おれはS級パーティだった頃の知識と経験を総動員し、ゆっくりだが、ひとつひとつを解除、あるいは回避してみんなを導いていく。


 そんな折、なにかに気づいたようにソフィアが声をかけてくる。


「ショウさん、なにか、最近違うところで似たようなことをしていた気がしませんか?」


「似たようなこと……? そういえば、なんか……」


「リコルスの街に、妙に狭くて物の多い工房がありましたが――」


「あぁ! 確かに! 危険がいっぱいで歩き回るのにも苦労したっけ。このダンジョンはあの工房に似てる……っていうか、あの工房が罠だらけのダンジョンみたいだったというか……。あっ、もしかしてソフィア?」


 おれがソフィアに顔を向けると、彼女は以心伝心とばかりに頷いた。


「はい。もしかしたらお願いできるかもしれません」


 そんな話をしてしばらく。ようやく盗賊団の生活空間に辿り着いた。


「なんだ、あんたらは!」


 そこにいたのは、数人だけだった。他の者たちは外に出ているのか、あるいは、違うアジトにいるのか。


 彼らの姿に一瞬戸惑ってしまう。


「子供……?」


 ソフィアの呟きは、的確な印象だ。


 背丈はおれたちよりかなり低く、顔も幼い。声も高めだ。そして耳がエルフのように尖っている。


 子供ではない。そう見える種族だ。小人族と呼ばれている。


「君たちと話がしたくて来た。代表者を呼んできてくれないか」


「それなら、あーしだよ!」


 威勢よく現れたのは、茶髪のおさげ髪の女性だった。やはり身長はおれの腰くらいまでしかない。


 見た目も少女のようで可愛らしいが、いかにも擦れた大人のような所作と言葉遣いのせいで、違和感がすごい。


「おれはショウ。他はおれの仲間たちだ。あなたは?」


「あーしはクィン。で? なんの話があるってんだい?」


「君たちが得意なことについてだ」


「得意なことぉ? てめえ、まさか盗みだとか言うんじゃねえだろな」


 周囲の小人族が一斉に警戒態勢に入る。それぞれ腰のナイフに手をかけている。


「心配しなくてもいい。捕まえに来たわけじゃない。君たちの事情を聞いてね。仕事の相談をしにきたんだ」


「仕事だぁ? また信じて裏切られるのはごめんだぜ」


 そこにノエルが一歩踏み出してくる。


「そう言わないでよ。話だけでも聞いてよ、クィン」


「ん? ノエルもいたのかよ。だったら、まあいいか。話くらいは聞いてやるよ。座んな」


 クィンに案内され、おれたちはテーブルにつく。つもりだったが、小人族サイズの椅子には上手く座れず、おれたちは床に腰を下ろした。


「しかしあんたら、罠を全部突破してきたのか? なかなかやるじゃねぇの」


「苦労したけどね。それで仕事なんだけど……君たちは、罠を仕掛けるのが得意だね?」


「ん、まあ、ほどほどにな」


「というより、罠を見破って解除するのが得意だから、それを仕掛けるのに応用した……というところかな?」


「へえ、あんたわかってんじゃん。小人族の知り合いでもいたの?」


「知り合いはいないけど、おれも元は冒険者だからね。罠の対処といえば、感覚が鋭く体重も軽い小人族の独壇場ってくらいは知ってるよ」


「じゃあ、小人族が危険な罠の解除に駆り出されて、よく犠牲になってる話も知ってるよな? あーしらは、そういう目に遭いたくなくてここまで来たんだよ。そういう仕事ならお断りだね」


「いや、おれが頼みたいのは罠の解除じゃない。工場の安全管理なんだ」


「は?」

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