第164話 特別編② 仕事がないなら、おれたちが作ってあげられたらいい

「アリシア、だいたいの話はノエルから聞いたよ。君の見解も聞かせてくれないか」


 おれとソフィアは、今はガルベージ領となったランサスの街に訪れていた。


 場所は町役場の一室。ノエルとアリシアは、対立するように向き合って座っていた。


 議題は、領内に発生していた盗賊団についてだ。


「もちろん私は、法に則って適切に処罰するつもりだ。領民の財産が不当に害されたのだ」


 メイクリエ国内では、ここ数年で盗賊による被害も急増している。


 これはメイクリエだけでなく、経済的に発展した土地ではよくあることだ。盗賊だって、働くなら稼ぎのいい土地を選ぶ。


 だが今回はそう単純な話ではないらしい。


「ですがノエルさんからは、その盗賊さんたちも被害者なのだと聞いています」


「そうなの。何度も言ってるけどね、その人たちは元々は盗賊じゃなかったの。仲介者を通してメイクリエに働き来た労働者だったの」


 彼らは元冒険者がほとんどで、生きるか死ぬかの生活よりも、安定した収入を得られる職に就きたくて渡航してきたのだという。


 メイクリエ政府の仲介者に、職人見習いの立場を与えてもらえるからと紹介され、少なくない金額を払ってきたのだ。新たな生活を夢見て。


 しかし彼らに仕事などなかった。


「もちろんわかっている。だが、我が国ではそのような政策は取っていない。その仲介者は詐欺師だ。職があると騙されたことは同情するが、だからといってその土地の者から奪ってしまったら同じ犯罪だ。刑罰を受けてもらうしかない」


「情状酌量の余地はあると思うの! 彼らには仕事をあげて、奪った分は働いて返してもらえばいいと思う」


「その仕事だが、彼らだって最初から盗みに走ったわけではない。彼らなりに仕事を得ようと努力したそうだが、身元の保証もできない異国人たちだ。しかも職人としては見習い以下だ。雇い入れるような場所はなかった」


「それは……そうらしいけど……」


「情状酌量の余地は確かにある。だからこそ、罪を償ってもらったら、彼らは母国へ送り帰すつもりだ。少なくともこの国よりは、生きていく術がある」


「でも、そんなのあんまりじゃない。希望を持って新しくなにかを始めようとして、なのに騙されてて、誰にも助けてもらえなかったなんて……そんなの、アタシは放っておけない!」


「しかしこのままでは、懸命に働いてきた領民たちのささやかな幸せが壊されてしまう。今だってどこかでなにかを盗まれているかもしれない。私は、領民の泣く姿なんて見たくない」


 ノエルとアリシアは、揃って押し黙ってしまう。


 互いに、互いの気持ちがわかるのだろう。


 どちらも助けたい。けれど、盗賊側を救えるようなアイディアも無い。


 でも……と思う。無いものを、無いままにしておかないのがおれたちのはずだ。


「仕事がないなら、おれたちが作ってあげられたらいいんじゃないかな?」


 ノエルがおれの顔を見て目を輝かせる。一方、アリシアは生真面目な顔を崩さない。


「しかし、どのような仕事を?」


「それは……これから考えるけど……」


 言い淀んだところで、隣のソフィアが援護してくれる。


「盗賊さんたちに、なにができるかをまず聞いてみませんか? 彼らにしかできない仕事があれば、それが一番です」


「そうだね。よし、じゃあさっそく盗賊たちに会いに行ってみよう。アリシア、彼らのアジトは見当がついているのかい?」


「それをノエルから聞き出したかったんだ」


 みんなの視線がノエルに集中する。


「ノエルさんはご存知だったのですか?」


「うんまあ、色々と困ってるところを助けてあげてたことがあって……あのときは盗賊になっちゃうなんて思ってなかったけど……」


 納得する。盗賊たちの事情に詳しく、彼らの肩を持っていたのは、知り合いになっていたからか。


「ノエル、案内してくれる?」


「あー、えーっと、アタシが知ってる場所から変わってなければ、あそこだなーって場所はあるんだけど……そのまま捕まえたりしないよね?」


「もちろん。話をしてみるだけだよ。ね?」


 アリシアに念を押すと、苦笑が返ってきた。


「わかってる。そんなことはしない。私だって、どうにかできるならどうにかしたいんだ」


 こうして、おれたちはノエルの案内で盗賊団のアジトへ向かう。


「……しかし、問題ってひとつ見つかると別のところからも出てくるものだね……」


「そういえば、ショウとソフィアは、リコルスの街でなにをしていたんだ? そちらでもなにか問題が?」


「まあ、ね。リコルスの街っていうか、国全体の問題だと思うんだけど……」


 おれは道すがら、工場の安全問題についてノエルとアリシアに話をするのだった。

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