第122話 ゆっくり羽根を伸ばすこった

「久しぶりだな、ショウ。それにソフィア・シュフィール」


 おれたちに声をかけてきたのは、メイクリエ王国からの追放をみずから望んだ、あのケンドレッドだった。


「あの商隊、ずいぶんな凄腕を連れてきたと思ってたけど、あなただったのなら納得だ」


「へへへっ、戦争中の国に派遣するっつーから怪しい連中かと思ったが、話を聞いてみるとどうも面白そうだからよ。ひと口乗ってやったのさ」


 ケンドレッドは工場へ目をやる。


「新素材を使ってなにか作ってる以上、お前らだと思ってたぜ」


 口には出さないが、再会を喜んでいるようだ。


 ソフィアも微笑む。以前のように嫌悪を向けることはない。


「その後、ケンドレッドさんはいかがでしたか?」


 ケンドレッドは不敵に笑う。


「とびきりの成果があるぜ。いい出会いもあった」


「エルウッドさん、ですね?」


「おう。そこの工場にあった装置は、あいつに作らせたんだろう? 悪くはないが、もうちょいと良く出来た気がするな。実際、あいつはどうだった?」


 おれは製作当時を思い出しながら話す。


「確かに精度という意味では、それほどでもないけれど……。こうあるべき、っていう方向を示せば、そこにたどり着くまで根気強く何度でも挑戦してくれる。とにかく、完成まで辛抱強く付き合ってくれる職人って感じかな」


「同感だな。あいつは図面通りに作らせるより、客の要望を聞きながら調整を重ねていくってのが向いてる。時間はかかるが、満足度は高くなる。本当なら、オーダーメイドの武具でも作らせてやるのがいい修行になるんだろうが……」


「それなら、まさにぴったりのところへ行ってますよ」


「ほう。どんなとこだ?」


「とある診療所で、義肢作りの手伝いをしてる」


「そうか。ここにいねえのは残念だが、なるほどな。患者に合わせるってんなら、あいつの得意分野だろうぜ。あの、ラウラとかいう姉ちゃんも一緒か?」


「ああ、もうそろそろ告白して、付き合いだしててもいい頃じゃないかな」


「へっ、浮ついて仕事に支障がでなきゃいいがな」


 とか言いつつ、弟子の幸福に喜んでいる様子だ。


「大丈夫です。浮ついていても、しっかり成果を出せます。わたしたちが証拠です」


「その成果に負けた身としちゃあ、なにも言えねえな」


 ソフィアの言に、ケンドレッドは楽しげに笑う。


「それで? とびきりの成果というのは?」


「そりゃあもう面白い素材を手に入れたからよ。有効な活用法を編み出してやったのさ!」


 おれとソフィアは、ぐいっとケンドレッドのほうへ一歩迫った。


「面白い素材って? どこの、どんな素材なんです?」


「どのような活用法なのですか? どんな物が作れそうなのです? 詳しくお話を聞かせてください」


「おうおう、いい食いつきじゃねえか。見つけてきた甲斐があるぜ」


 にやりとケンドレッドは口角を上げる。


「だが口より腕で語るのが職人ってもんだぜ。まずは完成品を見せてから、話をしようじゃねえか」


「是非そうしよう!」


「完成品はどこですか? 工場ですか?」


「ふふふっ、鋭意製作中だ」


 おれとソフィアは一斉にずっこけた。


「期待させておいてそれはないんじゃないか、ケンドレッドさん!」


「うるせえな、お前らが来るのが早すぎたんだよ!」


「それなら、わたしたちにも手伝わせてください。一緒に完成させましょう」


「いいや、ダメだ。断るぜ」


「そんな。どうしてですか」


「こっちはな、お前らを驚かせてやろうって楽しみにしてたんだよ。手なんか借りたら台無しじゃねえか。絶対びっくりさせてやるから、黙って待ってやがれ」


「くっ。生殺しじゃないか……」


「ですが、職人としてサプライズしたい気持ちもわかります……」


 ケンドレッドは肩をすくめる。


「まあ、そういうわけだからよ。お前らも長旅で疲れてるだろう。休暇でも取ってゆっくり羽根を伸ばすこった。装置はそのうち完成するからよ」


 おれとソフィアは、ため息をついて頷く。


「仕方ありません。その分、期待のハードルは上がってしまいますからね?」


「おうよ。上げとけ上げとけ。ハードルなんざ余裕で越えてやるよ」


「楽しみにしてますよ、ケンドレッドさん」


 そうして軽い挨拶をしてから、おれとソフィアはその場を去った。


 振り返ってみるとケンドレッドは、上機嫌に工場へ入っていくところだった。


 おれはソフィアと視線を交わす。


「……よし」


「はい」


 おれたちはそのまま帰らず、工場へ戻って窓のひとつから、ケンドレッドの作業風景を窺おうとする。


 が、その窓はすぐ開け放たれた。


「帰れっつーんだよ!」


「うわぁ、バレた! なんで!?」


「俺も職人だから、覗きたくなる気持ちがわかるんだよ!」


 結局、おれたちは休暇を取りつつ完成を待つことにしたのだった。





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