第54話 おれたちにできないなら、世界中の誰にだって出来やしない

「もう勘弁してよぉ……」


 賑やかな恋バナの会も終わり際。女性陣のおもちゃにされて、散々いじられまくったおれは、羞恥心にまみれながら解放を懇願した。


「反省しましたか?」


「うん、反省してる……」


「なにを、どう反省したのか、ちゃあんと言ってみて」


「はい……。おれは自分に向けられた好意を、考え過ぎでおかしな受け取り方をしていました。以後、反省して勘違いやすれ違いをなくすよう努めます……」


 おれはなんで、こんな辱めを受けているのだろう。


 というか、反省したらしたで、自分がモテていると考える自意識過剰なナルシストになってしまいそうな気がするのだけど。


「よろしい! いやぁ、有意義だった」


 アリシアがそこで終わりにしてくれる。


 おれはほっと息をついて、仕事の話に戻そうとする。


「さて、じゃあ次は新素材の話だね? 仕事の話にしちゃっていいね?」


 辱められたあとだと、いまいち締まらないが。


 恋バナ中のテンションを引きずったまま、すぐアリシアが食いついてきた。


「ああ、今度はどんな魔物を捕まえればいい? エッジラビットか? ステルスキャットか? エレキマウスでもいいぞ」


「なんでちょっと可愛い系ばっかり?」


 ノエルにツッコまれて、アリシアは少しはにかむ。


「どうせ飼育するなら愛でられる魔物がいいだろう?」


「そうですね。わたしも可愛いものが好きなのでわかります。ちなみに、マロンさんと戯れているアリシアさんはとても可愛いです。好きです」


「ははは、ソフィアに告白されてしまったよ、ショウ」


「それは妬けちゃうなぁ」


「でもさー、マロン、アタシたちにも結構慣れてくれたと思うんだけど、ときどきすっごい吠えてくるときがあるのよね。なんでかなぁ?」


 ノエルのささやかな疑問に、ソフィアも乗っかる。


「わたしの場合、だいたい、ショウさんとふたりで話しているときです」


「あ、アタシもそうかも。ん? ってことはぁ……へえー、ふーん、ほー?」


 ノエルは口元をにやけさせながら、アリシアにジト目を向ける。


「マロンをそう躾けたかー。アリシア、そういうことしちゃうんだー?」


「なるほど。ショウさんに他の女性は近づけないぞ、と。これはギルティですね、はい」


「いや!? そんな覚えはないぞ! 本当だ! そもそも、する理由がないだろう!」


「まあ、そういうことにしておいてあげましょうか~♪」


「だから本当に違うんだ。あるとしたら、マロンが勝手に勘違いしているくらいで」


「どんな勘違いですか?」


 アリシアはいつの間にか頬を紅潮させていた。よほど慌てているらしい。


 おれは苦笑しつつ、その流れにストップをかける。


「えっと、そろそろ話を戻してもいいかな?」


「ごめ~ん。アリシアってば、真面目可愛いからつい」


「はい、アリシアさんは可愛いです」


「勘弁してくれ。すまない、ショウ。それで、どんな魔物なんだ?」


「フレイムチキンだよ。火を吹く大きなニワトリ」


「……ニワトリか」


「今回、レンズに必要な条件を色々と考えてみたんだけど、まず、透明なことは絶対だ。それでかなり候補が絞られたよ」


「他の候補との違いはなんだったのだ?」


「太陽の光や風雨に強いことかな。新素材の中には、光を当て続けると色が変わっちゃったり、ベトベトになっちゃうものもあってね。屋内外問わず、長く使う眼鏡がそんなのじゃ困るでしょ」


「それは確かに。ショウとソフィアが選んだのなら間違いないだろうな。早速、明日にでも捕まえに行こうかと思うが……しかし、ニワトリか……」


「可愛くはないかもしれないけど、よく見るとトサカとかアゴの下とか結構格好いいよ」


「いや見た目はいいのだが……あまり知能の高くない魔物だろう? ウルフベアのときのように力で屈服させて従わせることができるだろうか?」


「むしろ知能が低いなら、強引に捕まえれば、普通のニワトリと同じ方法で飼育できるかもしれないね。新素材に必要なのは卵だし、その辺りも同じだよ」


「ふむ……そうか。では領内の農家に色々聞いてみよう」


「捕獲に行くときには、おれも手伝うから遠慮なく言って欲しい」


「ああ、助かる」


「じゃあアタシは、ソフィアの手伝いね。魔法でレンズ作ってばあやさんに試してもらうから、ソフィアは上手くいったやつを図面に書き起こしてもらえる?」


「はい、任せてください」


「よし、じゃあ会議はここまでかな」


 おれは席を立って、締めに入る。


「みんな、おれたちはここから本格的に製作に入る。期間は短いし、射出成形インジェクション技術や新素材には未知の部分もある。問題はきっと起こるし、悩みも生まれると思う。諦めたくなるときもあるかもしれない。けどね――」


 仲間たちひとりひとりと目を合わせる。


「――みんながいなければ、そもそもここまで来れなかった。おれはここにいるみんなが世界最高のメンバーだと思ってる。おれたちにできないなら、世界中の誰にだって出来やしない。たとえ挫けそうになっても、力を合わせれば必ずやり遂げられる」


 そして最後に微笑みかける。


「それに、こんなにわくわくすることはない。おれたちが作る物が、誰かの役に立って、誰かの笑顔になって、きっと幸せを作るんだ。それを楽しもう!」


「はい! みなさんと一緒なら、なんだってできます」


「世界最高と言われては、期待に応えないわけにはいかないな!」


「よーし、やっちゃいましょー! おー!」


 おれたちは手を重ね、掛け声とともに高く掲げたのだった。





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