第2話 ホヨハパ王国へようこそ

「ねえ、聞こえる・・・?大丈夫?」

 悠真が目を覚ますと、目の前で『サッポホップ』のアニメに出てくる、サッポリンが心配そうな様子でこちらを見ていた。

 そうだ、悠真はVRゴーグルでアニメを見ようとしたら、突如光が放たれて、気を失っていたのであった。


「あ、目を覚ましたみたいだね。良かった」

 悠真の様子を見て、サッポリンはホッとした表情を見せた。

 サッポリン。『サッポホップ』で人気のキャラクターである。見た目は羊の姿をしており、ゆるキャラのようである。ただし、サッポリンの正体は、アニメの中ではまだ明かされていなかった。


「え、えええ?」

 目の前にいるサッポリンを見て少しなごんでいた悠真であったが、頭が少し働くようになると、自分の置かれている状況にひどく驚いた。

「こ、ここはどこ・・・?そして、なぜサッポリンが目の前にいるの・・・」

 悠真は、自分が今どこにいるのか、理解しようと必死になった。


「騒がしいな。どうしたの?」

 悠真の叫び声が聞こえたのか、急に別の人?いや、動物が現れた。

 ホップパップ。これもまた、『サッポホップ』でおなじみの、オオカミの姿をしたキャラクターである。サッポリンの「サッポ」と、ホップパップの「ホップ」から、『サッポホップ』というアニメの名前が付けられたのである。

「ああ、ホップンごめん。何か知らない男の子が私たちの国に入り込んでしまったみたいで・・・」

「え、とういうことは、ここは『ホヨハパ王国』??」

 悠真は改めて周りを見渡した。確かに、アニメで見ていた世界とどことなく似ているような気がする。信じられないようなことが現実で起こっていることにとても戸惑う一方で、自分が大好きな世界に入ってしまったことに何となく嬉しさも感じていた。


「そういえば、自己紹介をしてなかったね。私は、サッポリン。この子は、ホップパップ。まあ、私は長いからホップンって呼んでいるんだけど」

「ちゃんと、ホップパップって呼んでっていつも言っているだろ」

 悠真の目の前で、いつもアニメで見ていたやり取りが繰り広げられたため、悠真は思わずクスっと笑ってしまった。

「もちろん、二人のことは知っているよ。いつもテレビで見ていたから」

 そういうと、サッポリンとホップパップは少しだけ怪訝けげんそうな顔をした。

「あ、やっぱり私たちってずっと見張られているんだ・・・。王様が、私たちの生活を異世界で公開しているって言っていたけど、本当だったんだ・・・」

 詳細はわからないが、どうやら二人は、アニメとして放送されていることをこころよく思っていないことだけはわかった。


「それで、あなたの名前は何て言うの?」

 サッポリンが、悠真をまじまじと見つめる。

「あ、僕の名前は悠真だよ」

「ゆふまん・・・?」

 悠真の名前を聞いて、ホップパップが混乱した表情をした。どうやら、この王国では、悠真という名前が発音しにくいようである。

「ゆ、う、ま!」

 サッポリンとホップパップは混乱した表情で、お互いを見つめあっていた。やがて、サッポリンが笑顔で悠真の方を見つめた。

「うーん、名前呼びにくいから。ユフマンって呼ぶことにするね!」

「ユフマン?」

 今度は、悠真が驚いた。悠真の名前が呼びにくいのも予想外だったし、ユフマンの方がよほど呼びにくい気がしたからである。

「うん、これからあなたの名前はユフマンだよ!ちゃんと覚えてね」

 そう言って、サッポリンが微笑ほほえんだ。サッポリンの笑顔を見ると、悠真はそれで良いような気がした。


「わかった。今日から僕はユフマン。よろしくね」

 そう言って、悠真は手を出して握手をしようとした。サッポリンも笑顔で手を出すが、悠真にはサッポリンの感触がなかった。

「え・・・?」

「ああ、私たちの王国は仮想空間の世界にあるから、直接触れ合うことはできないのよね・・・」

 サッポリンが少しだけ申し訳なさそうに言って、舌を出す。ホヨハパ王国が、仮想空間であることは、悠真は知らなかったが、だからこそ、VRゴーグルからこの世界に行きついたのだと、少しだけ謎が解けた気もした。

「そうなんだ・・・よろしくね・・・」

 悠真は、差し出した手をおろして、代わりにお辞儀じぎをした。

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ユフマンと見えない仲間たち マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym

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