ユフマンと見えない仲間たち

マチュピチュ 剣之助

第1話 不思議なVRゴーグル

「やったー。これで3Dの動画を楽しむことができる」

 家電量販店かでんりょうはんてんの一角で、悠真ゆうまははしゃいでいた。最新のVRゴーグルを買ってもらいに、父のまことと来ていたのであった。

「本当は外でもっと遊んでもらいたいんだけどなあ」

 誠は、悠真のはしゃぐ姿を、少しだけ複雑な思いで見ていた。新しいものを買ってもらえることを喜んでいる姿はもちろん嬉しかったが、本当はもっとアウトドアになってほしいと思っていたからである。


「ご購入ありがとうございました」

 レジで会計を済ませて、二人は家電量販店を後にしようとした。その時、後ろから二人を呼び止める女性の声が聞こえた。

「お客様、すみません!!」

 悠真が振り返ると、そこには白髪の女性が別のゴーグルを持って立っていた。他の店員とは少し違った制服を着ていたが、おそらくこのお店のベテラン社員なのだろうと思った。

「お客様が手にしているVRゴーグルは不良品です。大変申し訳ございませんが、こちらのVRゴーグルと交換していただけませんか」

 そう言って、女性は手に持っているVRゴーグルを差し出した。

「あ、そうなのですね。わざわざありがとうございます」

 誠はそう言うと、すぐに持っていたVRゴーグルを女性に渡して、新しいVRゴーグルを受け取った。

「助かりました・・・。改めてご購入ありがとうございました」

 女性はそう深々と頭を下げた。悠真と誠は軽く会釈えしゃくをして、出口へと再び向かった。


「あれ・・・」

 会釈をした数秒後に何となく後ろを振り返った悠真は、その女性の姿がすでになくなっていることに気づいた。

「そんなすぐにいなくなることってあるかな」

 不思議に思って辺りを見渡すが、その女性の姿を見つけることはできなかった。

「おーい、悠真。お母さんが待っているのだから、早く家に帰るよ」

 先に進んでいた誠が、悠真が立ち止まっていることに気づき、声をかけた。

「あ、ごめん。ちょっと待って」

 悠真は慌てて誠のもとへと駆ける。女性が急に消えたことを伝えようかとも思ったが、大したことではないと思いなおして、何も言わなかった。


「ごちそうさまあ!」

 夕食を終えると、悠真は自分の部屋に一目散いちもくさんに向かった。食後にVRゴーグルを使ってよいと約束をしていたのであった。

 パソコンを立ち上げて、VRゴーグルのセッティングをする。当初買おうとしたものより、心なしか光沢が増している気もしたが、特に気にすることなくパソコンに接続した。

 悠真がVRゴーグルで見る最初の動画はすでに決めていた。『サッポホップ』という、悠真が幼稚園の時に夢中になって見ていたアニメであった。


 オープニングの音楽が流れる。悠真は、この曲が流れると、自然と体が揺れるくせがあった。この時は、いつも以上に体を揺らしていた。3Dで、『サッポホップ』のキャラクターを見られることの興奮が最高潮に達していたからである。

「あれ、おかしいな」

 オープニングの音楽が終わっても、悠真のゴーグルには何も映っていなかった。パソコンの設定を確認し直すが、うまくいっているはずであった。

「この、VRゴーグル壊れているのかな・・・」

 悠真は、家電量販店での出来事を思い出していた。今考えると、白髪の女性は明らかにおかしかったし、何も疑わずにゴーグルを交換するべきではなかったと後悔もしていた。すると・・・


「どうしたの?そんなところにいないで、こっちにおいでよ」

『サッポホップ』の中でも人気の、サッポリンの声が後ろから聞こえてきた。驚いた悠真は後ろを振り返る。

「うわああああ」

 その瞬間、VRゴーグルから強烈な光が放たれ、悠真は思わずゴーグルを手から離した。ゴーグルから放たれた光は、部屋全体を包み込み、ゴゴゴゴゴというすさまじい音がした。

 悠真は、しばらく目を閉じて、耳をふさいだまましゃがみこんだ。

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